表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
睡の先、森林  作者: 欅いらくさ
PROLOGUE
2/3

はじまり≪その2≫

ログハウスの初日しょにちは、つかてていつの間にかソファーで終えていた。

今までとはちがい、すーっと冷たくも新鮮しんせんな空気で目覚めた。

目が覚めてもすぐには立ち上がらず、身をしずませるようにして深く呼吸した。

肺の奥まで、毛細血管の先の先まで酸素さんそが入っていく。

頭が軽い。

「べス、おはよう」

しわがれた声で写真を撫でて、立ち上がった。

さ、今日から新しい日課を作ろうではないか、と鼻息でつぶやいて、入口に立った。

あの郵便配達の若者を見ることができないとなると、少々さびしい気もした。

だが、この日を待ちわびていた彼を振り返らせるものは、何一つとして街にはない。

「べス、ここはいいランチ場所になるぞ」

まずは玄関げんかん横のそなえ付けベンチに、セットとして小さな円卓えんたくを置いてみる。

完璧かんぺきだ。さ、次だ次!おまいさんの望み全部かなえてやるからな」

満足げにかわいらしい笑みを浮かべ、ニコラスはある紙を広げた。

くしゃくしゃになってはいるが、たしかに彼女、べスの筆跡ひっせきと絵で彩られている。

そこには赤いチェックマークが新しく加わっていく。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「My wish list .≪私のしたいことリスト≫」


・昔、私の親戚しんせきが持っていた別荘べっそうのような、森林のログハウスに住みたい。

・ログハウスの前で、食事をしたい。

・読書をしたり、ただ目をつむって夕方までいろいろ感じたい。

・ニコラスとけた、森林にハイキングに行きたい。

・リスを飼ってみたい。

・朝、一緒に伸びをして、ホットミルクを飲んで、にっこりしたい。

夜風よかぜにあたって、冷たくて優しい空気を感じたい。

・夜の鳥の声を聴いてみたい。

・一緒に走り回りたい。

                :

                :

                :

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


少し悲しそうな瞳が、めくっていく紙を追っていく。

ふと目についた。


「アルバスとニコラスと再び三人で笑いあいたい。」


アルバス。

記憶にない…。怪しげで、不安を誘う名前だが、思い出せない。

うきうきとした気持ちが、唐突とうとつに現れたこの一つの名前でかき乱されそうだ。

どうしても忘れてはいけない人。そんな気がふつふつと沸いてきて、不安感でいっぱいになった。

今までの涼しい風が、急に生々(なまなま)しく気持ちの悪い風になった。

「べス、俺は忘れっぽくなっただけか?どうしても、頭から出てこないんだ」

いつものようにかたけても、あんじょう返事はない。

もう一度手紙を読み直した。

…ない。ない。思い出の一遍いっぺんもかかれずに、名前だけがぽつりとあるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ