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睡の先、森林  作者: 欅いらくさ
PROLOGUE
1/3

はじまり≪その1≫

あぁ、まだ慣れないな。


環境かんきょうドッキングを開始します。よろしいですか?】


老人に機械きかいを動かせると思うのか…?まったく。うぅむ…これか?

ふるえるいた指先は、『YES』という文字にれた。


【環境ドッキング、開始。設定完了まで10秒前、9、8―――】


はぁ…しかし、これで本当に見れるのか?私の―――


【環境ドッキング、設定完了。承認しょうにんをお願いいたします】


あーあー。うるさいうるさい、わかった。んん……こ、これだな?


【承認完了。ニコラス。 The good past 《よい過去を 》.】


トンネルをくぐり抜けるように、真っ白な視界しかいは走っていく。

不意ふいに真っ暗になったと思いきや、彼はぽつりとその場に立っていた。

みどりが生き生きとした場所。

素足すあしに触れたのはれたコケや固い岩。

とてもおいしい空気が、鼻先はなさきをかすめていく。


木漏こもれ日が彼にあたる中、とてもきき々とした表情でこう言った。

「あの森だ!!」

年老としおいた行動など、すでに捨て去られたかのようにスキップをし、走り回った。



                     *



朝。

彼はいつものように目を覚まし、歩けるのにもかかわらず愛用あいよう車椅子くるまいすに乗った。

「あぁ、今日もいい日だ」

これも日課にっか

ピッカピカのコーヒーメーカーがれ、アーマーが運んでくれたコーヒーを片手に。

何度なんど言ってもわからんようだな。俺の家の前にホバーを置くな郵便野郎ゆうびんやろう!!!」

怒鳴どならした。

申し訳なさそうな郵便局の若者は、発車しだせば『あのクソジジイ』と彼をのろうだろう。

これが毎朝の日課以下略にっかいかりゃくである。

「さて、見納みおさめだ」

螺旋階段らせんかいだん接続せつぞくすると、エレベーターのように車椅子ごと上っていく。

着くと同時にね上がるように乗り捨てて、窓の前のベンチへこしかけた。

そこは家のかべからき出たようにして作られた、一面いちめんガラス張り。

故に、世界が一望できる。

「なぁ、べス。今日もわっるい空だぞ」

写真片手しゃしんかたてに、ぼんやりと空を見上げた。

上や下を、高速こうそくでホバーたちがとおり抜ける風切かぜきおん

「ほら、あそこで子供こどもあそんでいる。お父さんとお母さんかな。ほほえましいな、べス」

少々(しょうしょう)切なげな声でつぶやいた。

機械だけが発達はったつし、外見がいけんやその他は昔とそう変わりない。便利べんりに『なりすぎた』世の中だ。

こんな鬱陶うっとうしい場所ばしょとは、今日この日から別れを告げる。

視線しせんの先。昔、それはそれは高かったであろう格安かくやすのログハウスのチラシ。

「べス、こんな場所とはおさらばだな。お前の好きなとこ行くぞ」

そうね、と。優しげな声が聞こえた気がした。


「はい、ありがとうございました。これで、以上です」

「ご苦労様くろうさまです」

「いえいえ。ではでは、またのご利用を」

ごついヘッドセットかられた線が、はらの前の空気をはたいていった。

「だらしないものだが、仕事は丁寧ていねいだったな。べス」

白髪しらがひげ森林しんりんの風に吹かれる。

「いいところだ。大都市だいとしから大きくはなれて、唯一ゆいいつの森。土地も私のものだ」

決して誰にだってゆずってやるものか。

ここは俺たちの思い出の場所なんだ。


俺が兄、べスが妹のような、幼少期ようしょうきたがいに大切な存在だった。

大きく成長し、意識いしきし合うようになり、大人になって……。

ただ近所に住んでいるやんちゃな女の子から、みるみると大人の女性になったな。

俺の方が年上だったのに、頭が上がんなかった。

いくらでもお前のことは思い出せる。

とてもとても、大切な―――。


ハッとわれに返ってとぼとぼと、玄関前げんかんまえへ。

「べス、ただいま」

木々のかおりときしおんいて、扉は開かれた。

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