Episode:09
「ところでお昼は済んでる? もしまだなら、荷物置いてから食べに行こうか?」
「あ、えっと、あの、途中で……少し、食べたので……」
少女の方も、ロアのお姉さんぶりに安心したようだ。笑顔が多くなってきていた。
「おっけーおっけー、そしたらまず荷物もらって――すみませーん!」
寮の入り口で寮監を呼び、少女の荷物を受け取る。
「って……これだけ?」
「はい」
彼女宛てに送られてきていた荷物は、簡単に持ち上げられる大きさのケースがひとつ、それだけだった。確かに孤児院などから学院へ来た場合、荷物が少ないのがほとんどだが、これはその中でも少ない部類に入るだろう。
それなのにぜんぶ届いてよかったと言わんばかりの少女の表情に、なぜかこちらが切なくなる。
(まぁ、ボクも少なかったけどさ……)
たった独り戦場に残されたあと、運良く保護されてここへ来たロアは、ほとんど荷物らしいものはなかった。
少女の両親や家族がどうしたのか聞いてみたかったが、それを踏みとどまる。もし自分のような目に遭っているのなら、聞くのは酷というものだ。
わざと知らぬふり、明るい顔をして荷物を運び込む。
「これなら整理は簡単だから、手伝わなくてもいいね? そのへんのキャビネットとか、空いてるのは勝手に使って大丈夫だから」
「はい」
「よし、いい返事。じゃぁ後は……施設の案内、かな? 教材はまだだろうし。
どうする、今から行こうか?」
荷物を整理しなくて済むぶん、時間が空いてしまっている。
「あ、はい。お願いします」
少女は素直にうなずいた。こうなると見かけとあいまって、可愛さが倍増する。
いつしかロアは、ルーフェイアを自分の妹のように思い始めていた。
「よし、じゃぁ行こう」
少女を従えて部屋を出る。
「向かい側が男子寮は聞いた?」
ロアが問いかけると、金髪の後輩はこっくりとうなずいた。
「夜とか、間違えちゃダメだよ。何されるか分かんないからね」
「あ、はい……」
まだそういうことはよく分かっていなそうだが、いちおう釘を刺す。これだけの美少女だ。何か起こってからでは遅い。
そのまま並んで寮を出た。
「食堂は……分かるもんね。向かいは診療所。え? 知ってるんだ?」
まだ行ったワケもないのにとよく訊くと、ここへ来てすぐひと騒動起こしたという。
「最速記録だろうなぁ、それ」
こういう学院だからけっこう荒事も多く、生徒や教官がケガをすることは確かにあるが、「入学のサイン直後に学院長に怪我をさせた」というのは、さすがに言い伝えられていない。
「すみません……」
「あ、気にしない気にしない。銃口なんか向けた学院長が、悪いんだし」
この場合はどうみても、自業自得だろう。
「それにしても学院長、銃なんて使ってんだ。あんな古臭い武器、ここじゃたいして役にたたないのに」
魔法を効率よく物に付与させる方法が見つかって以来、技術は日進月歩だ。武器も当然――というより真っ先にその洗礼を受け、旧来の飛び道具はたちまち時代遅れになってしまった。
見かけは軽装でも、戦闘行為に携わるものはいまはみんな、魔法の防壁を身にまとっている。これを破って相手に傷を負わせるには、魔力の込められた武器が必要だ。
だが手に持って使うタイプの武器と違い、飛び道具は術者の手を離れるため、持っている魔力が弱い。そのため防壁を破れず、食い止められるケースが多かった。
この結果、武器の主力は再び、近接武器に戻ってきている。