Episode:08
(え?)
(だめよ!)
(あっ!)
少女の不安げな面持ち。これからどうなるのだろうと、半ばおびえているのが、その表情から読み取れた。
ふっと、昔母親を亡くした頃の自分が重なる。
この学院には孤児が多い。もしかすると、彼女もそうなのだろうか?
「えっと……ごめん、ちょっと考え事してたから。とりあえず部屋まで行こうか? 荷物、あるよね?」
「あ、はい」
やっと少女の顔から怯えが消える。
思わずほっとした。それほど落ちこんでいるわけではないようだ。
「そしたらロア、私は図書館寄ってくから」
「あ、そう? じゃぁまた後でね」
食堂を出たところでエレニアと分かれ、ロアは少女と二人になった。
こうして見てみると、なおさらその美少女ぶりが際立つ。明日あたり――下手をすれば今日中か――には、男子生徒の間でウワサになること請け合いだろう。
事実こうして歩いているだけで、すれ違う生徒のほとんどが振り返っていくのだ。
(――世の中、絶対不公平だよね)
思わずひがみたくなる。
これだけの容姿に、この学院へ直接入学できるほどの能力と学力。およそ普通の人間が欲しがるものは、ぜんぶ持っていると言っていい。
だがルーフェイアのほうは、あまりそう思っていないようだった。
「あの……先輩、なんかみんな、こっち見るんですけど……? あたしどこか……変ですか?」
「あのねぇ」
最初はいやみかと思ったのだが、どうやら本気らしい。
「キミが可愛いから、注目されてるんだってば」
「……え?」
ロアの言葉を聞いて、少女はきょとんとした表情で、考え込んでしまった。何を言われたのか、理解できないようだ。
「あきれた! 言われたことないの?」
「ない……です。強い、はよく、言われましたけど……」
思わず頭を抱えたくなる。
この美少女、いったいどういう生活をしてきたのか、この手の常識は全く知らないようだ。
とんでもない後輩を押し付けられた気がする。
(まったくこの年で……って、あれ?)
そういえば、少女の年齢さえも知らなかった。
「――あのさ、キミ幾つ?」
「十歳、です……」
それにしては小柄だ。
だがロアは、そんなことを思う暇がなかった。
――十歳。
妹が生きていれば、ちょうどこの歳だ。
げんきんなもので、急に少女がいとおしくなる。
「そっか。それでひとりでここへ来たんじゃ、心細かったね」
「心細いっていうか……あたし、学校とか……初めてで……」
「え、学校行ってなかったんだ」
だとするとやはり、戦場育ちだろうか? 少年兵として前線に出ていたなら、さっきの食堂での行動も納得がいく。
これだと学科でパスしたのが不思議だが、おそらくはもともと頭のいい子なのだろう。戦地で生き残るためにはそれなりの知識が必要だし、インテリ崩れの兵士からいろいろ学んだ可能性もある。
何かが心の片隅に引っかかった気はしたが、ロアはそれ以上考えなかった。
「そっか、それだと心配だね。でも大丈夫だよ、きっと。うん、大丈夫」
死んだ妹と同い年と知って、すっかりお姉さんモードだ。先刻までの嫌がっていた様子はどこへやら、根拠のない自信で少女を励ましている。