Episode:07
「まったく、昼食ごときで精霊呼びだすなんて」
その時、見慣れない少女がすれ違った。
(うっわ……)
金髪碧眼、華奢な雰囲気の、とびっきりの美少女だ。荒っぽいMeSより、どこかのお嬢様学校の方が、よほど似合うだろう。
「ちょっとあなた、やめなさい。今入ったら巻き込まれるわよ」
エレニアが忠告したが、少女は気にしなかったようだ。無視して中へ入っていってしまう。
「ねぇロア、もしかして新入生って、あの子じゃないの?」
「そうかも」
あれだけの美少女だ。在校生なら間違いなく、噂になっているだろう。
「――しょうがないなぁ。ちょっと助けに行ってくる」
「あたしも行くわ」
今出てきたばかりの食堂へ、二人して戻る。
(えーと、あの子は……いた!)
少女はほとんど騒ぎの中心部まで、入り込んでしまっていた。
「だめだよっ! 下がって!!」
だが美少女は動かない。
かすかに呪が聞こえた。
「荒れ狂う魔の流れよ、いまひとたび静寂のうちに、在るべき姿に戻れ……」
たしか効果が不安定なために使う者が少ない、無効化魔法だ。
「――カーム・フィルド!」
ほんのわずかな間、周囲の魔法がすべて無効化される。
だが、それで十分だった。実体化したばかりの精霊が、出鼻をくじかれてふたたび霧散する。
(本校へ直接入学するのは、ダテじゃないってことか)
おとなしそうな見かけによらず、かなり場数を踏んでいるのは間違いない。だいいちそうでなければ、この状況でパニックも起こさずに召喚を阻止するのは無理だろう。
この無効化魔法、普通の魔法が対象なら間に合わない。気づいて唱えても、相手のほうが早く発動する。
が、精霊相手だと勝手が違う。実体化したあと改めて力を開放するため、上手くそのタイムラグを狙えば、強制的に非実体化させることが理論上は可能だ。
とはいえ、術者同士にかなりの実力差がなければ簡単に力負けするし、タイミングも慣れていなければ狙えないシビアなものだ。
それを金髪の美少女は、やすやすとやってのけた。つまり一瞬で相手との実力差を見抜き、確実にやれると判断したことになる。
「あの子、いったい何なのかしら? どうみても普通じゃないわ」
「ボクに言われても。本人に聞いてよ」
「それもそうね……」
面倒見のいいエレニアが、美少女に声をかけた。
「あなた、大丈夫?」
「はい」
澄んだ泉を思わせる声だ。
「それならよかったわ。
それであなた――新入生のルーフェイア=グレイス?」
「はい、そうです」
どうやら最初の予想は当たったらしい。
「ロア、手間が省けたわね。
ルーフェイアは聞いてるのかしら? 彼女――ロアがあなたと同室よ」
「そう、なんですか? えっと、先輩、よろしく……お願いします」
「……よろしく」
だが独り住まいに未練たらたらの彼女は、あまりいい顔をしない。
(――ロア!)
エレニアが、ロアの脇腹を肘で突付いた。