表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

Episode:03

「きれい……」


 曲線がいろどる、滑らかな肌の建物。東西南北と中央、合わせて五つの尖塔。

 手前の庭や周りの木々もきれいに手入れがされていて、緑の間に花が咲いている。

 石畳の道と、あちこちに置かれたベンチ。

 あたしと同じくらいの子や、もっと上の人なんかがたくさんいて、すごく賑やかだった。


「……なんか、夢みたい」

 ほんの何日か前まであたしがいた世界と、まったく雰囲気が違う。

「でも、夢じゃない……よね? あたし、ここに行けるんだよね……?」

 なんだか不安になって、イマドの方へ振り向いた。


「夢なわけねぇって。

――おい、頼むからここで泣くんじゃねぇぞ。おれが泣かしたと思われるかんな」

「だいじょぶ……」


 イマド、けっこう言うことがひどい。

 そのまま歩いて、彼は玄関のところで受付の人に話しかけた。


「すいません、こいつ、ルーフェイア=グレイスって言うんですけど。連絡来てますか?」

「おかえり、イマド。今年はいつもより、早く帰ってきたんだね」

 言いながら受付のおじさんが、何か紙をめくる。


「ルーフェイア……ああ、この子だね。

 ちゃんと聞いてるよ。このまま真っ直ぐ、学院長室へ行きなさい」

 予想と違って、あっさり通してもらえた。分校からきちんと、連絡が来てたらしい。


――それにしても。


 あたしが特殊な事情で本校へ入学すると、ちゃんと知らせが行ってたっていうのが不思議だ。本校の学院長経由だと分校の人は言ってたけど、よくそこへ話が行ったと思う。

 まだアヴァンのほうは戦闘直後で混乱してたのに、母さん、どうやったんだろう?


「いいか、あの昇降台でいちばん上だからな、学院長室」

「わかった。ありがと」


 イマドと別れてひとりになった。

 明るい廊下。置かれた緑。笑いながら行き交う生徒たち。


――あたし、ほんとにここにいて、いいんだろうか?


 なんだかすごく、場違いなような気がしてくる。

 あたしの知っている世界は――武器と魔法と、血。ものごころついた時から、戦場がすべてだった。

 たしかにここは名だたるシエラ学院でMeSだけど、それでも戦場とは違う。

 もっとずっと穏やかで……けど、あたしは……。


 イマドに言われたとおり昇降台の前に立って、手をかざす。見たことがないほど旧式の造りで、とちゅうで浮力を失って落ちたりしないか、ちょっと心配だ。

 開いた扉から乗り込んで最上階を表す石に手をかざすと、ガタンと揺れてから、昇降台は動き出した。


――不安だった。


 自分の両手をみつめる。

 この手に太刀を握って、どのくらいになるだろう?

 あたしは息をするくらい自然に、人を殺せる。そんなあたしが、ここで上手くやっていけるんだろうか?


 けどそんなあたしに関係なく、昇降台は止まって扉が開いた。

 豪奢な絨緞が敷かれた廊下。がっしりした扉が、いくつも並んでいる。


「えっと……」

 なんだか気圧されながら、案内板と扉の上の部屋名とを見比べて、院長室を探し出した。

 そっとノックする。

「どうぞ、開いてますよ」

 おそるおそる重い扉を開けると、広くて大きな窓と、その前に立つ人影が目に入った。


「いらっしゃい」

 なんだか優しそうなおじさんが声をかけてくる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ