Episode:03
「きれい……」
曲線がいろどる、滑らかな肌の建物。東西南北と中央、合わせて五つの尖塔。
手前の庭や周りの木々もきれいに手入れがされていて、緑の間に花が咲いている。
石畳の道と、あちこちに置かれたベンチ。
あたしと同じくらいの子や、もっと上の人なんかがたくさんいて、すごく賑やかだった。
「……なんか、夢みたい」
ほんの何日か前まであたしがいた世界と、まったく雰囲気が違う。
「でも、夢じゃない……よね? あたし、ここに行けるんだよね……?」
なんだか不安になって、イマドの方へ振り向いた。
「夢なわけねぇって。
――おい、頼むからここで泣くんじゃねぇぞ。おれが泣かしたと思われるかんな」
「だいじょぶ……」
イマド、けっこう言うことがひどい。
そのまま歩いて、彼は玄関のところで受付の人に話しかけた。
「すいません、こいつ、ルーフェイア=グレイスって言うんですけど。連絡来てますか?」
「おかえり、イマド。今年はいつもより、早く帰ってきたんだね」
言いながら受付のおじさんが、何か紙をめくる。
「ルーフェイア……ああ、この子だね。
ちゃんと聞いてるよ。このまま真っ直ぐ、学院長室へ行きなさい」
予想と違って、あっさり通してもらえた。分校からきちんと、連絡が来てたらしい。
――それにしても。
あたしが特殊な事情で本校へ入学すると、ちゃんと知らせが行ってたっていうのが不思議だ。本校の学院長経由だと分校の人は言ってたけど、よくそこへ話が行ったと思う。
まだアヴァンのほうは戦闘直後で混乱してたのに、母さん、どうやったんだろう?
「いいか、あの昇降台でいちばん上だからな、学院長室」
「わかった。ありがと」
イマドと別れてひとりになった。
明るい廊下。置かれた緑。笑いながら行き交う生徒たち。
――あたし、ほんとにここにいて、いいんだろうか?
なんだかすごく、場違いなような気がしてくる。
あたしの知っている世界は――武器と魔法と、血。ものごころついた時から、戦場がすべてだった。
たしかにここは名だたるシエラ学院でMeSだけど、それでも戦場とは違う。
もっとずっと穏やかで……けど、あたしは……。
イマドに言われたとおり昇降台の前に立って、手をかざす。見たことがないほど旧式の造りで、とちゅうで浮力を失って落ちたりしないか、ちょっと心配だ。
開いた扉から乗り込んで最上階を表す石に手をかざすと、ガタンと揺れてから、昇降台は動き出した。
――不安だった。
自分の両手をみつめる。
この手に太刀を握って、どのくらいになるだろう?
あたしは息をするくらい自然に、人を殺せる。そんなあたしが、ここで上手くやっていけるんだろうか?
けどそんなあたしに関係なく、昇降台は止まって扉が開いた。
豪奢な絨緞が敷かれた廊下。がっしりした扉が、いくつも並んでいる。
「えっと……」
なんだか気圧されながら、案内板と扉の上の部屋名とを見比べて、院長室を探し出した。
そっとノックする。
「どうぞ、開いてますよ」
おそるおそる重い扉を開けると、広くて大きな窓と、その前に立つ人影が目に入った。
「いらっしゃい」
なんだか優しそうなおじさんが声をかけてくる。