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抱えきれぬ想い ルーフェイア・シリーズ03  作者: こっこ
Chapter:04 慟哭、そして哀悼
27/27

Episode:27

(どっちも、地獄か……)

 ロアはそっと、手を離す。

「……ごめん」

 その言葉に、少女は咳き込みながら首を振った。

 さらにしばらく咳き込んで、やっとかすかに声を出す。


「あたしが……いけないんです……。血に染まった手で……夢を叶えたいなんて……」

 ロアが回復魔法をかけてやると、彼女はようやく咳き込むのを止め、涙に濡れた顔を上げた。

「ルーフェイア……」


 彼女が、そして自分がその手に握り締めるものは、希望ではなく絶望。


「あたしみたいな人間、戦場の外に、出たらいけなかったんです。

 生き延びるんじゃなかった。死んじゃえばよかった……」

 その同じ言葉を、自分も何度繰り返しただろう?

 だから、言えた。


「――そんなこと、ないよ」


 殺す側と殺される側、結局どちらも違わなかったのだ。

 理不尽な状況に放り込まれ、振り回され、ただひたすら生き延びるのに精一杯だった。

 選びたくても、選ぶ余地さえなかった。


「あたしも辛かったけど、ルーフェイアも辛かったね……」

 泣きじゃくる少女の頭をなでてやる。少なくともこの子は、悪くない。


 どのくらいそうしていただろう?

 ようやくルーフェイアが泣くのをやめた。

 その彼女に、しばらくためらってから尋ねる。


「あのさ……キミはこれで、いいの? 学院にいたら、また……」

 戦わなくてはならない、その言葉は言えなかった。だが察したのだろう、ルーフェイアがあまりにも悲しい微笑みを見せる。


 瞬間、ロアは悟った。

 この子は――つかの間の夢を見に、ここへ逃げてきたのだと。

 シュマーという家が、少女に何かを強いている。けれどこの子はそれから逃れたくて、なのに逃れることは出来なくて、今だけでもとここへ来たのだ。

 なぜこの子を学院長がルールを無視し、直接ここへ入学させたのか。その疑問も氷解する。


「ばか」

 ロアはルーフェイアを抱きしめた。

 ならばせめて、ここに居る間だけでも、その手に握るのは希望にしてやりたい。笑顔でいさせてやりたい。


「ひとりで抱え込んだら、ダメなんだよ」

 ロアの言葉に、再びルーフェイアの瞳から涙がこぼれた。

 もし妹が生きていれば、こんなふうに腕の中で泣いただろうか?

 いずれにせよ、傷ついた心でまだ立とうとする彼女が、いとおしかった。


 どれほど辛かっただろう? どれほど苦しかっただろう?


 同じ苦しみを味わった、自分と少女。

 腕の中で泣く彼女のぬくもりを感じながら、ロアは心に決める。

 たった二年で命を終えてしまった妹への、哀悼の意味も込めて。


――ボクが、姉さんだよ。




◇あとがき◇

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。前作・前々作とともに、感想等いただけたらうれしいです。

なお、明日より第4作「葛藤」の連載となります。


※お知らせ※

このところ「小説家になろう/読もう」が、非常に重くなっています。

筆者サイト経由ですと比較的スムーズに繋がりますので、ブックマーク等でどうぞご利用ください

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