Episode:26
青年が何事か叫んで、ルーフェイアのほうへ走り寄った。
少女もその声に振り向き、ぱっと身を伏せる。
高位の炎魔法が炸裂した。
青年がまともにそれを食らって、文字通り焼かれて倒れる。
起き上がりかけたルーフェイアが泣きながら何か言い、それにかすかに青年が答えた。
(ちょっと待ってよ! どうしてこんなもの、ボクが見なくちゃならないのさ!!)
妹を、家族を見殺しにした連中なのだ。
だが――。
(ボクと、同じ……?)
目の前で近しい人を傷つけられて涙する彼女は、立場は違っても自分と同じだった。
いや、同じではない。
あの時の自分はただ呆然としているだけでよかったが、彼女の置かれた状況はもっと厳しかった。
唇をかんで立ちあがり、青年に背を向ける。
――生き延びるために。
おそらくいま手当てをすれば、青年は命だけは助かるだろう。だがそうすればその隙に攻撃を受け、今度は二人とも死ぬことになる。
だから、見捨てた。
声は聞こえない。なのにルーフェイアの、とても言葉では現せない心が響く。
魂を引き裂かれるかのような慟哭。
だがそれを、歯を食いしばって耐えている。
森を抜けるルーフェイアの目の前に、いくつかの人影が立ちはだかった。
(――うちの傭兵隊?)
見間違えようのない、あの制服。
そこへ少女は容赦なく突っ込む。
相手が子供なので油断していたのもあったのだろう、瞬く間に二人が刃の餌食になった。
さらに最後の一人を、たちまちのうちに切り伏せる。
嘆きながら。
己の運命を呪いながら。
それでも彼女は太刀を振るう。
その心が叫ぶ。
――どうして!
それは八年の間、ロアが叫びつづけてきた言葉と同じだった。
どうして家族は死ななければならなかったのか。
どうして自分だけ生き残ったのか。
どうして――。
ふっと、周囲が元に戻った。
(夢……?)
どちらにせよ、一瞬の出来事だったらしい。まだロアの手は、ルーフェイアの白い首を締め上げていた。
ブレスレットの石は、まだ淡い光を放っている。
少女と目が合った。
そこにあったのは、恐怖でも悲しみでもない。
――どこまでも深い、絶望。
その絶望した瞳から、涙がこぼれる。