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抱えきれぬ想い ルーフェイア・シリーズ03  作者: こっこ
Chapter:04 慟哭、そして哀悼
26/27

Episode:26

 青年が何事か叫んで、ルーフェイアのほうへ走り寄った。

 少女もその声に振り向き、ぱっと身を伏せる。

 高位の炎魔法が炸裂した。

 青年がまともにそれを食らって、文字通り焼かれて倒れる。

 起き上がりかけたルーフェイアが泣きながら何か言い、それにかすかに青年が答えた。


(ちょっと待ってよ! どうしてこんなもの、ボクが見なくちゃならないのさ!!)

 妹を、家族を見殺しにした連中なのだ。

 だが――。

(ボクと、同じ……?)

 目の前で近しい人を傷つけられて涙する彼女は、立場は違っても自分と同じだった。


 いや、同じではない。

 あの時の自分はただ呆然としているだけでよかったが、彼女の置かれた状況はもっと厳しかった。

 唇をかんで立ちあがり、青年に背を向ける。

――生き延びるために。


 おそらくいま手当てをすれば、青年は命だけは助かるだろう。だがそうすればその隙に攻撃を受け、今度は二人とも死ぬことになる。

 だから、見捨てた。

 声は聞こえない。なのにルーフェイアの、とても言葉では現せない心が響く。


 魂を引き裂かれるかのような慟哭。

 だがそれを、歯を食いしばって耐えている。


 森を抜けるルーフェイアの目の前に、いくつかの人影が立ちはだかった。

(――うちの傭兵隊?)

 見間違えようのない、あの制服。

 そこへ少女は容赦なく突っ込む。


 相手が子供なので油断していたのもあったのだろう、瞬く間に二人が刃の餌食になった。

 さらに最後の一人を、たちまちのうちに切り伏せる。


 嘆きながら。

 己の運命を呪いながら。

 それでも彼女は太刀を振るう。

 その心が叫ぶ。


――どうして!


 それは八年の間、ロアが叫びつづけてきた言葉と同じだった。

 どうして家族は死ななければならなかったのか。

 どうして自分だけ生き残ったのか。

 どうして――。


 ふっと、周囲が元に戻った。

(夢……?)

 どちらにせよ、一瞬の出来事だったらしい。まだロアの手は、ルーフェイアの白い首を締め上げていた。

 ブレスレットの石は、まだ淡い光を放っている。


 少女と目が合った。

 そこにあったのは、恐怖でも悲しみでもない。

――どこまでも深い、絶望。

 その絶望した瞳から、涙がこぼれる。



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