Episode:23
◇Loa side
ルーフェイアが緊張した表情で、ひとつひとつ操作をこなしていくのを、ロアは隣で眺めていた。
まだたどたどしい部分もあるが、初めて間もないことを考えると、上出来と言っていいだろう。むしろこの短期間で、よくここまで覚えたと感心する。
「そうそう、そこ気をつけて。ほら、足跡残してるよ」
「え? あ!」
言われて慌てる後輩が、可愛い。
だがあるところで、その動きが止まった。
「あの、先輩、これ……」
どうしよう、という表情で訊いてくる。
「学院長の魔視鏡だね。この時間に動いてるなんて、珍しいや」
学院長は年のせいか、この手のものはあまり使わない。だから、夜になってまで動いているのは、稀だった。
「止め忘れかな? 見てみよっか」
「あ、はい……」
ルーフェイアがちょっとためらってから、開く。
そのようすに、この子はこういうことに向いていないのかもしれない、とロアは思った。なにしろ素直でおとなしい性格だ。攻撃的なことにはどうしても、しり込みしてしまうのだろう。
だがそういったことは、取り返しのつかない事態を招くことがある。
何か考えてやったほうがいいかもしれない、そんなことを思いながら、ロアはざっと記録の一覧をを斜め読みした。
「ガッコの資料ばっかだなぁ。たいした物ないね」
もう少し何かあるのではと期待していたが、みごとなくらいに期待はずれだ。
「学院長も大変だね、こんなくだらないことまで訊かれるんだ。こんど会ったら、親切にしとこっか」
「ですね……」
どうでもよさげな雑務から院の方針、そうかと思えば学院生が起こした不祥事の後始末まで、まさしく何でもありだ。
どちらにしても収穫なしと判断して、ロアは手を止めた。
「どうする? も少しやる?」
「え? あ、いえ、今日はもう……」
ルーフェイアのほうも初めての経験で、そうとう神経をすり減らしたようだ。そろそろ潮時だろう。
「そだね、こういうの最初、すっごい疲れるし。
――あ、最後にこれだけ見てこっか」
何の気なしに、見つけた一覧を開く。学院長が外部とやり取りした、記録の一覧だ。
こういうものは機密情報は期待できないが、ちょっと笑えるようなものがよく混じっている。
「これ……伝言書?」
「そそ。でもこっちも、たいしたもんないね」
予想に反して、事務的な連絡ばかりだ。私的なやり取りは、ここではやらないようだった。
だが。
とある行で、ロアは予想もしなかったものを見つける。
「これ、ルーフェイアのことだよね」
「え?」