Episode:20
ロアは考える。どちらにしても見つかってしまったのだ。この子はこれからも、毎晩覗こうとするに違いない。
ならばいっそきちんと時間を取って教えてやって、終わってこの子を部屋へ戻してから自分のことをするほうが、問題が少ないのではないだろうか?
「そしたらさ、教えてあげようか?」
「え?! あの、いいん……ですか?」
後輩の表情が、驚きと喜びへと変わる。
「うん、かまわないよ」
どうせこの手のことは、授業を受けるようになればイヤでも覚えるのだ。それなら今から教えても、大差ないだろう。
「でも、ぜったい他の人にはナイショだからね。部屋でやってるとか、教官に知れたらヤバすぎだし」
「あ、はい」
何も知らない後輩を巻き込んだ気がして、少々うしろめたかったが、これで一安心だ。自分もやっているとなれば口外しないだろうし、「今日はここまで」と言えばこの子なら、素直にベッドに戻るだろう。
「じゃぁ、明日から。今日はもう寝ないと」
「はい」
ドアを開けてやって、少女を部屋へ戻す。だがそのうしろ姿が、妙に寂しそうだ。
「どしたの? だいじょぶ?」
声をかけてやると、小さく首を振った。
「しょうがないなぁ」
本人はだいじょうぶと言いたかったらしいが、本当は心細いのが見え見えだ。
来たばかりで緊張していた間は感じなかったのだろうが、時間が経って少し慣れてきたから、環境の変化が身に染みてきたのだろう。
「こっちおいで、いっしょに寝よ。毛布持ってきてね」
ぱっとルーフェイアの表情が輝いた。これはかなりの甘えん坊だ。
ロアにしてみても、見かけがせいぜい六、七歳のこの子は、幼い妹も同然だ。よく懐いていることもあって、このくらいで安心するならいくらでも、と思う。
「ちょっと狭いけど、ガマンだよ」
ベッドの片隅に収まった少女に、持ってきた毛布をかけてやる。
「もしかしてさびしくて、寝られなかったんだ?」
「いえ、すごく、静かすぎて……」
人のベッドにもぐりこんでおいて、いいえも何もないのだが、ロアはそこは流してやった。きっと認めるのが恥ずかしいのだろう。
「静かすぎて、寝られなかったってこと?」
こくりとルーフェイアがうなずく。隣で小さく丸まるようすが、ともかく可愛い。
それにしても、うるさくて寝られないというのはよく聞くが、静かすぎてというのは初耳だった。
「……今まで、工事現場ででも寝てたわけ?」
思わず妙な突っ込みをしてしまう。
それが面白かったのか、少女は少し笑って答えた。
「えっと、よく砲声とか、聞こえたり……あと、非常召集とか、あったので……」
「寝る環境じゃないじゃんソレ」
どうやらやはり、少年兵あがりらしい。
何かが一瞬引っかかったが、安心しきったルーフェイアの表情を見た瞬間、どうでもよくなってしまった。
「まぁいいや、ゆっくり寝るんだよ」
「……はい」
遅いせいか、たちまち寝入ってしまった少女を見ながら、ロアも目を閉じた。




