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Episode:02

◇Rufeir

「すごい、ここが……シエラ学院?」

 圧倒されながら見上げる。


 アヴァン国から船でユリアス国に入って、そのあと列車に乗り継いで、ケンディクに着いたのが三日前。そこで一回イマドと別れて、あたしはシエラのケンディク分校で、簡単なテストをいくつか受けた。

 今朝はその結果が出て、本校への入学許可がおりたところだ。


 でも次にどうすればいいのか分からなくて、困ってしまった。簡単に「港で連絡船に乗って」と言われても、その連絡船が分からなかったのだ。

 イマドが迎えに来てくれなかったら、まだあたし、船にも乗れてなかったと思う。


「けっこう、大っきいだろ?」

「うん」

 噂には聞いてたけど、ホントに島を丸ごとだ。切り立った崖の上が緑で覆われて、その中に石造りの建物と尖塔とが見える。


 世界中にMeS――Mercenary Schoolの略――と呼ばれる傭兵学校は、かなりの数が乱立してる。中には上流階級の子弟専用のMeSまで、あるくらいだ。

 人気の理由は、ここの卒業生は徴兵が免除されるからだ。普通なら上級学校を出たあと兵役を果たし、それから大学や就職になる。けどMeSを卒業すれば同等の訓練は終わったとみなされて、そのまま大学や就職に進めた。

 これが有利だと、MeSに子供を入れようとする親は多くて、結果として乱立に繋がっている。


 ただこのシエラ学院の、中でも本校は別格だった。

 「もっとも古いMeS」と称されるこの学院は、創立二百年。

 起源はさらに遡って、ユリアス国がまだ、国内で領主同士争っていた時代になる。今のケンディクに所領を持っていた領主が、領内のゴロツキを集めて訓練し、傭兵としたのがその始まりだという。


 その後本格的な訓練施設になり、成り行きで多くの孤児も送り込まれるようになった。ただ当時の環境は悲惨で、ここへ送られるくらいなら町でスリでもしてたほうがマシというほど、過酷だったらしい。


 状況が大きく変わったのは、ユリアス国の統一時。首都イグニールに居を構える一族と、ケンディクに地盤を持つ一族とが講和条約を結び、縁戚関係を持つことで内戦の時代は終わった。

 そのため例の訓練施設も不要になったのだけど、これに目をつけた人物が居た。シエラ学院の、初代院長だ。有力な貴族なだけでなく慈善家で商才もあったその人は、この群島をまとめて買い取り、傭兵学校を開いた。


 国中から孤児を集め、教育し、訓練し、時に在学のまま兵力として売り出す。卒業生はもれなく、軍なりへ就職の斡旋と称して売る。

 内戦の時代は終わったものの、各地で凶暴な竜族その他が暴れているのは相変わらずだったし、内戦に代わって国家間の小競り合いが始まったこともあって、この目論見は大当たりだったそうだ。


 もちろん賛否両論だったけど、当時はまともな孤児院さえ少なかった。まして孤児がきちんとした教育を受けられる場所など他になく、文字通りシエラは孤児たちの、最後の頼みの綱になったのだという。

 今は学院の分校がケンディクや首都のイグニールはもちろん、アヴァン国なんかにもあるし、金持ちのための「箔付け専用」分校まであるらしい。


「この本島に、寮と校舎あってさ。実地訓練なんかは別の島でやるんだぜ」

「そうなんだ……」


 いちばん古いMeSというからには、それなりだろうとは思っていたけど、予想以上に本格的らしい。

 その間にも船はすべるように海を進んで、船着場へ着いた。意外と大きくて、幾つか高速艇まで停泊してる。


「気をつけろよ、時々落っこちるバカいっから」

「うん……」


 揺れる足元に気をつけながら船を降りて、歩き出した。

 切り立った崖の間の、坂道を登っていく。だんだん視界が開けてくる。



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