Episode:18
その晩、あたしはベッドの中で寝返りばかりうっていた。
学院の夜は、とても静かだ。
ここはなんの音もしない。銃撃の音も、砲撃の音もしない。
静かすぎて眠れなかった。
――これが、平和なのかな?
こんな穏やかさ、とても信じられない。
逆に言えばそれだけ、常に気を張っていたんだろう。でもそれは当たり前だったし、何より生き残るにはぜったい必要なものだった。
そっと起き上がる。
柔らかいベッド。清潔な部屋。どれもあたしにとっては、馴染みが少ないものばかりだ。
なんとなく不安になって、枕元に置いておいた太刀を手にする。
これだけは変わらなかった。
柄を握っていると、いろんなことが脳裏をよぎる。
炸裂する砲弾。えぐられていく大地。引き裂かれて死んでいく兵士たち……。
でもなぜだろう?
あの地獄の風景が、呼んでいるような気がする。
無念の死を遂げた亡霊たちが、囁いてる。
ここへ帰れ、と。
でももう、あたしはイヤだった。ほんの少しでいいから、血の臭いから離れたかった。
それなのに亡霊たちは追いかけてきて、囁き続ける。
――ここへ帰れ、と。
あたしは頭を振ると、立ちあがった。
確かにいつかは帰るだろう。それが約束だから。
けど、今だけは……。
もう寝つけそうになくて、寝室のドアに手をかけた。共用スペースの端末を使えば、なにか適当に暇を潰せるだろう。
そして、気が付く。
こんな遅い時間なのに、共用スペースからかすかに物音がしてた。
魔視鏡の共鳴音――それに、操作盤を叩く音。どうも、先輩も起きてるらしい。
驚かさないようにと思って、あたしはそっとドアを開けた。
先輩が端末に向かって、何かしてる。
なんだかすごく真剣な感じで声をかけられなくて、そのまま魔視鏡に映るものを、あたしは後ろから眺めていた。
――なんだろう、これ。
ふだん目にする映像とかじゃなくて、何か文字ばっかりだ。それが先輩が操作するたび、すごい勢いで流れていく。
しばらく見ているうちに、やっと幾つか見知った単語があることに気がついた。これならたぶん……記録石の中のデータ一覧だ。
けど、自分のをこんなふうにして見るのは、聞いたことがなかった。だいいちこんな変わったことをしなくても、簡単な操作で詳しく見られる。
――だとしたら、何を?
しばらく考えて、あたしは思い当たった。