Episode:14
もっとも彼女は、記録の破壊や改竄はしない。その必要はなかった。
(今日こそ……)
見つけてやる、そう思いながら操作盤を叩く。
彼女にはずっと探し続けているモノがあった。だがもともとのネタが「存在はするが詳細は一切不明」という物のため、どこをどう探しても見つからない。
普通の手順で当たれる記録は片っ端から調べ、それでも見つからず、ついにロアは不正アクセスに手を出したのだ。
だがそれでも、手にした情報は断片的なものばかりだった。
(ったく、四年もやってて見つからないとか、ハンパじゃないよね)
そう思いながら手元の写真を見る。
自分と、妹と、父と、母。
家族で撮った最後の写真だ。
あの戦場と化した街から逃げる直前、母が焼き増しして防水加工しておいたものをロアに持たせたため、手元に残った。
これと、妹が忘れかけたのを持って出た、魔石のはまったお守り。たったこれだけが、ロアに残された家族の思い出だ。
(きっと……見つけるから)
父は写真を撮った直後に紛争へ駆り出されて戦死、その1ヶ月後には母と妹も死んでいる。
だがよほど強運だったのか――それとも運がなかったのか――ともかくロアは独り生き残り、戦場をさまよっているところを自国の兵士に保護され、巡り巡ってシエラ学院へ送られた。
それからずっと探している。
――自分から家族を奪ったものを。
保護されたその晩、やっとありついたベッドの中で、ロアは兵士たちの会話を聞いた。
「ひでぇよな。あんな小さな子がひとりで戦場さまよってたんだぜ?」
「あぁ。よく生き残ったもんだよ、可哀相に」
「ウワサじゃ、シュマーの連中が向こうに付いたらしい」
「マジかよ。あいつらがそんなことさえしなきゃ、こんな泥沼にならないうちに終ったのによ」
「ホントホント、そうすりゃあの子だって、あんな目に遭わずにすんだよな」
そうしてロアは、復讐の対象を知ったのだ。
その後学院へ来てからは、「シュマー」に関するありとあらゆる情報を集めた。
だが禁じ手の不正行為にまで手を出したというのに、分かったのは「そういう傭兵一族がいる」ということと、「その一家の子弟が戦場で育てられる」ということだけだ。
どこの誰がそうなのかも、いったい今どこにいるのかも、全くわからない。
(でも必ず、見つけてやる)
復讐するために。自分の家族を奪った償いをさせるために。
鬼気迫る表情で、ロアはキーを叩き続ける。