Episode:12
「食堂で食べられないもの、置くわけないじゃん……。ほら、これとかどうかな?」
「これ……ケーキ、ですよね? 何でこんなに、種類……あるんでしょう?」
何かもう、次元そのものが間違っているらしい。
「まさかさ、食べたことないの?」
「えっと、あります。白いのとか……あと、黒いのも」
その場で貧血を起こさずに済んでよかった、そうロアは心底思った。
シエラ学院はワケありの生徒が多く、稀に少年兵上がりまでいるため、たしかに一般常識からズレている者はいる。
いるのだが……。
「ここまで本気で何も知らないって、初めて見たなぁ」
「すみません……」
視線を落として謝る姿は可愛いが、この子の知識や能力は、問題になるレベルで偏っているようだった。
「とりあえず、ボクが選ぶよ。えーっと、あんまり甘くないほうがいい? じゃぁこれかな」
放っておいたら日が暮れるまで迷っていそうで、適当に選んでやる。
「ほら、そこ席空いてるから、座って座って。ボクがこれ持つからさ」
任せるのは不安すぎて、ロアはトレイを自分で持ち、少女を先に行かせた。ちょこん、と座った目の前に、ケーキと飲み物とを置いてやる。
「きれい……」
フルーツ類が宝石のように飾り付けられているのを見て、ルーフェイアがうっとりと言う。
「本土からちゃんと、本職来てるからね」
もうだいぶくたびれたお爺ちゃんなのだが、腕は確かだ。ケンディクの店は子供に譲って、自分は孤児を喜ばせてやろうと、ボランティア同然でここで働いてくれている。
ひと口食べると、少女の顔がほころんだ。
「……おいしい」
「あはは、お爺ちゃん聞いたら喜ぶよ」
食べて喜ぶ姿がいちばんのお礼、それがお爺ちゃんの口癖だ。
おいしそうに食べるルーフェイアを見ながら、ロアもお気に入りを口に運んだ。
「そいえばたしか、クラス分けのテストとか、あったと思うんだけどさ。どだった?」
食べながら、思い出して訊ねる。
この学院は毎年春になると、前年の成績でクラスが分けなおされる。そして新入生はあらかじめ、分校で編成用の試験を受けてくるはずだ。
いまは春ではないが、試験が免除になるとは思えなかった。
「えっと、本校入学の試験は、受けました。
あと学院長が、クラス分けの試験……たしか、あとでって……」
「うっわ、それヒドっ。一回やってんだから、それ使えばいいのに」
テストなんていうオソロシイものを何度も受けるなど、考えるだけでも気が滅入る。
「なんか、時期が半端で、分校のテストじゃダメって……」
「あー、そゆことか」
時期も時期なうえ、分校を飛び越えての特例入学だからだろう。万が一レベルの違いすぎるクラスに入ったりしたら当人とクラスメイトの双方が不幸だ。
そのために万全を期しての再テストなのだろうが、やはり気の毒だった。
「んじゃさ、教えてあげよっか? 少しでもやっとけば、なんか違うかもだし」
「いいん……ですか?」
「もちろん!」
ロアとて自学年のAクラスだ。四つも年下の勉強をみるくらいなら、どうということはない。
「このあとどうせ時間あるから、部屋帰ったらおさらいでもしよ」
「はい」
「よし決まり、んじゃまずは腹ごしらえ!」
よく分からないこじつけをして、ロアはケーキのおかわりをしに立ち上がった。