Episode:11
外の気配を探る。不意打ちだけは食らいたくない。
「あの、先輩、平気です……よ?」
だがルーフェイアは、無造作と言っていいほどの調子でドアを開け、中へ入っていってしまった。
まったく緊張感がない。
「ちょ、ちょっと待ちなよ!」
慌てて後を追う。もし彼女に何かあれば、ロアも減点されるのだ。
「魔獣って……でもあんまり、強そうな気配……ないですね」
「後ろっ!」
のんびりしているルーフェイアに、ここに放し飼いにしてある植物型の魔獣――足と歯が生えた雑草風味――の触手が迫っている。
だが彼女は、悠然と首をめぐらしただけだった。
凄惨な笑みが、その顔に浮かぶ。
「――フレイム・ロンド!」
火炎系の下級呪文だ。花びらのように炎が舞い散り、魔獣が慌てて触手を引っ込めた。
「破っ!」
さらにルーフェイアの裂帛の気合。
ばらばらと触手が切り落とされる。
――ぎぃぃぃぃぃっ
魔獣が耳障りな声を上げるが、少女は意に介さない。
ざっ、と音を立てて踏みこむと太刀を振りかぶり、躊躇うことなく突っ込む。
(――速い!)
そのまま全体重を乗せて、彼女は刃を振り下ろした。
一刀両断。
魔獣が叫びをあげる間もなく二つに分かたれ、さらに切り刻まれて絶命する。
(なっ、なにこの子……!)
十歳の少女がまるで傭兵隊並み――いや、それ以上だ。
「先輩、ここの魔獣って……これだけ、ですか?」
度肝を抜かれたロアに対し、少女のほうは平然としている。
「え? あー他にも何種類かいるけど、だいたいコイツと同じようかな? なんでか小竜族が少しいるけど、あれはさすがにヤバいし」
「……♪」
すてきなオモチャをみつけた、そんなルーフェイアの表情に、背筋を冷たいものが走る。ここで止めなければぜったい、喜んで退治に行くはずだ。
「と、ともかく訓練はまた今度! まだいろいろあるんだし」
名残惜しげなルーフェイアを、強引に引っ張っていく。これで見かけは華奢な美少女なのだから、始末に追えない。
(――いったい、どういうコなんだか?)
食堂の召喚騒ぎのときもそうだったが、やはり並みの少女ではなさそうだ。
かといって訊くのもためらわれ、腑に落ちないままロアは、最初に出会った食堂まで戻ってきた。
「せっかくだから、なんか食べよ。中途半端だけど、おやつならちょうどいいしさ」
後輩を連れて中へ入る。
もう昼下がりといった時間だが、小腹が空いて軽く食べようというのだろう、食堂は意外と混んでいた。
「ルーフェイアは何食べる?」
「え? えっと、えぇと……」
あの戦闘時の切れ味はどこへやら、少女はその場で考え込む。
自分のを決めながら、ロアはのんびりと待った。概してこういうものは、時間がかかるものだ。
――だが。
「ルーフェイア、あのさ、キミこれが何か分かってる?」
「食べ物……ですよね?」
何か様子が違うと問いかけたロアに、案の定というべきか、激しく的外れな答えが返ってきた。