Episode:10
「ルーフェイアも、銃なんて無視しちゃって良かったのに」
「でも、もし新型弾だったら、困りますから……」
そういえばそんな話は、ロアも最近聞いていた。なんでも弾丸に新型の魔力石を使うことで、今までの数倍の魔力を持たせることができるらしい。まだテスト段階だが、もしこれが実用化されれば、戦法がまた大きく変わるような代物だ。
ルーフェイアはその点も考慮して、身の安全のために叩き落したのだろう。学院長もイタズラのつもりが、ずいぶん高くついたものだ。
続いて並びの、大きな建物の前へ来る。
「あっちが講堂で、こっちが図書館。
図書館さ、けっこう本多いんだよ。でもテスト前とかけっこう混むから、早めに借りないとダメ」
そんなことを言いながら歩き回り、最後に尖塔のひとつへ上がった。
「ここは西塔。
えーっと、見えるかな? 校舎の裏庭が校庭兼ねてて、普段の訓練はそこでやるんだよ」
下を見せながら説明する。
「あの、あっちの塀は……?」
少女が校庭の奥の、がっちりした高い塀を指差した。
「ん? あぁ、あれはホントの訓練所」
「……♪」
なぜかやけに嬉しそうだ。
「あのねぇ、訓練って言ってもホンモノの魔獣、放ってあるんだから。そんな浮かれてると、エライ目に遭うよ」
「え、でも、魔獣だけ……なんですよね?」
それならどうという事はない、そんな表情だ。
(うーん、なんか自信過剰みたいだけど……でもたしかに、食堂でのこともあるしなぁ。
どっちにしてもいっぺん、連れてったほうがいいかな?)
もし一人で入り込んで、なにかあっては大変だ。
「そんなに言うなら、行ってみる?」
「はい♪」
答えながらルーフェイアは、ずっと持っていた包みをほどいた。
中から出てきたのは、一振りの見事な太刀。
「まさかそれ、キミの得物?」
「はい。両親が、これ……持ってけって」
(……あれ? この子って孤児じゃなかったんだ)
少女の言葉に、ロアは自分が完全に勘違いしていたことに気づく。
だがよく考えてみれば、ルーフェイアは一言も、そんなことを言っていない。こっちが思いこんでいただけだ。
もちろん少女のほうはロアのそんな思いを知るはずもなく、慣れた調子で太刀を腰に下げている。
見かけに比べて重量があるはずだが、よろめきもしない。かなり使いなれているようだ。
いまひとつ狐につままれたような気がしながらも、ロアは少女と共に訓練所まで来た。
弱いとは言え魔獣が野放しになっているここは、ルーフェイアたち低学年は原則出入り禁止だ。それどころかその上の中学年でも、それなりの資格を何か取らなければ、一人での出入りは認められない。
当然低学年連れのロアは入り口で呼び止められたが、理由を話すと許可が出た。
ここへ入学した低学年が、興味本位で訓練所に入り込むのを防ぐため、あえて最初に怖い思いをさせる。これ自体は、よく行われているのだ。
ゲートの隣の、詰め所のドアが開けられた。普段の出入りは、この詰め所を通らないといけない。万一の事態に備えてのものだ。
「いい? この奥だからね」
殺風景な詰め所を抜け、反対側のドアの前で立ち止まる。ここから奥は弱肉強食、弱いとは言え魔獣の世界だ。