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Episode:01

◇Loa side

 街はもう、いつもの知っている街ではなかった。

 時折響く砲撃の音とともに、建物がえぐられ、崩れていく。


 道路に人影はない。ところどころに倒れている者がいるだけだ。

 その中を、母に手を引かれながらロアは走っていた。

 その少女を見下ろす、今の自分がいる。


(また、夢……)

 今まで幾度、この夢をみただろう?

 だからこの後どうなるか、すべて知っていた。


「ロア、いい? この道路を渡るけど、とまっちゃダメよ?」

「うん、わかった」


 母の背には、まだ幼い妹が背負われている。

――妹は2歳だった。

 十字路の手前、建物の陰で親子は立ち止まる。


「いち、にの、さんで行くからね?」

「うん」


 母親は背負っていた妹をいったん下ろし、今度は大切に抱きかかえた。

 そして辺りを見回す。

「行くわよ……いち、にの、さん!」


 母親が飛び出す。

 次いでロアも。

 教えられたとおり体制を低くして、できるかぎりの速さで。

 だが。


「あっ……!」

 砲撃で荒れた舗装に足を取られ、転倒する。

「ロア!」


 娘を気遣って母親が立ち止まり、振り返った。

「早く、こっち――」

 そこで言葉は途切れ、鮮血が散る。


「ママ……?」

 どさりと音を立てて、母は倒れた。

「ロア、だめ……逃げて……」

「ママ!」

 慌てて駆け寄る。撃たれなかったのは、奇跡かもしれない。


「ママ……ひっ!!」

 母親と抱かれている妹の背から、信じられない量の血があふれ出てくぼみに溜まった。

 思わずあとずさる。


「ロア……逃げ……な……」

 それが最後に聞いた母の声だ。

 そして、目が覚めた。


(……あ〜あ。夢見、サイテー)

 もうあれから8年も過ぎているのに、まだ時折この夢を見る。


(でも……やっぱ、しょうがないかな?)

 一生忘れられない記憶。

 それならきっと、一生この夢は見続けるだろう。


 ベッドの上に起き上がる。

「さぁて、今日の予定は、っと」

 わざと声に出した。

 単純と言えば単純だが、この方法はけっこう、ブルーな気分を吹き飛ばすのに効果がある。


「自主学習ばっかだな……って、夏休みじゃあたりまえか。で、午後は……あ」

 スケジュールを見てやっと思い出す。

「やっば! 新入生の案内するのに、なにも用意してない〜!!」



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