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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
22/24

強く在る

どうすればいい。そんな思考がエリーを束縛する。

アルバの影も、リエルの魔術も、ケツァルの技量ですらギルダーを傷つける事が出来ない。

「(こんな正真正銘のバケモノ・・・)」

弱気。普段感じるとも思わなかった感情が、エリーの心に芽生えていく。

先に下がった左足に続いて、右足まで後退しそうになる。

だが、

『ここで逃げたら、本当に何もかも失って、取り戻せなくなってしまいそうなんだよ』

そんな彼女の弱気を

『守れないかもしれないし、無意味かもしれない。それでも、お前に立ちはだからなきゃいけねぇんだ』

あの時の、マルクの声が掻き消していく。

「(・・・そうでしたわね!)」

後ずさった足を元に戻すと、

「(私は居場所を、家族を守るためにここに来た!)」

バチィン!!

全身に強化を回す。

「(こんな所で、怖気づく訳にはいきませんわ!)」

ダンッ!

そして床を蹴り、ギルダーに殴り掛かる。

「・・・」

相対したギルダーは向かってくるエリーの拳を、

バキャ・・・!

まともに受けた。

そのまま、彼の身体は転がっていく。

「・・・え?」

拍子抜けした声が、エリーから漏れる。

あれだけ彼女の前で無双を披露して見せたこの男が、自分にいともあっさり殴り倒されてしまったのだ。

「・・・なかなか、いい一撃を持ってますね貴女。流石は身体強化の異能者だ」

ふらりと、ギルダーは立ち上がる。先程とは、明らかに様子が違う。

「(・・・何かの罠?)」

怪訝な表情を浮かべ、エリーは思考を巡らせる。

ヒュン!

次は正面ではなく、背面から仕掛けた。

ダァン!

背中からの蹴りを、ギルダーは再びまともに受け転がっていく。

「(易々と背後を取らせた上に、無抵抗に蹴られた・・・)」

それが、何かの作戦であろう事はエリーにも分かる。

しかし、

「(・・・それでも、攻撃するしかないですわね)」

今の彼女に、それ以外の選択肢は残されていない。

それが相手の術中に嵌る結果であったとしても。

「はぁっ!」

三度、エリーはギルダーへと攻撃を仕掛ける。

その姿を、

「(いかん・・・やめろ、エリー・・・)」

声を出せないケツァルは止めることが出来ない。

ドォン!

そして攻撃を続ける事8回目。

ギルダーはただただエリーに殴り飛ばされていた。

「(そしてここまで、何の異変もない・・・本当に、只私の攻撃について来れないだけですの・・・?)」

不審は高まったまま、それでもエリーは攻撃を続けるしかなかった。

バチィ!

強化を施し、9回目の攻撃に移る。

そして、ようやくここでギルダーが動く。

ガッ!

「!」

振り下ろされた拳を掴み、

ブォン!

エリーの勢いを利用して、彼女の身体を放り投げたのだ。

ザッ!

エリーもただ投げられるだけではない、空中で体制を立て直すと

ヒュッ!

ギルダーに向けて、ナイフを投擲する。

パシ

ギルダーはそれを掴むと、

バキャ・・・!

そのまま、ナイフを握りつぶす。

「(明らかに、動きが変わりましたわね・・・)」

ついさっきまでの、只殴られていただけのギルダーはそこにいない。

全身に緊張が走るのを、エリーは感じた。

「どういうつもりですの?」

素直に、感じた事を口に出す。

「・・・何の事ですか?」

「今更とぼけないで下さいます?貴方、ここまで明らかに手を抜いて戦っていたでしょう?何故今になって、真面目に戦い始めますの?」

「いえいえ、私は最初から手を抜いてなどいませんよ。わざわざここまでおいで下さったというのに、どうしてそんな失礼な事が出来ましょうか」

「・・・」

「これが、私の戦い方の一つ。貴女はまだ、気が付いていないだけ」

「でしたら、いい加減に種明かしをお願い致しますわ。私、そこまで辛抱強くありませんの」

「・・・よろしいでしょう」

そう言うと、ギルダーはエリーに右手を翳す。

「何を・・・」

身構えるエリーに、

「・・・やく・・・げ・・・」

微かに、ケツァルの声が届く。

「ケツァル・・・?」

「速く・・・逃げろ・・・!」

「もう、遅いですよ」

カッ!

ギルダーの能力が、展開される。

「!!」

同時にエリーは、声も出せずに倒れこんだ。


***


決着は、ついた。

バランスを崩しながらも、ルフィヤはマルクに対応した。

初動はルフィヤが早かった。

刃の軌道も、ルフィヤに分があった。

リーチもルフィヤに有利であった。

そして相手の身体へ、先に刃を突き立てたのもルフィヤであった。

しかし、

「・・・マルク・・・様・・・」

それでも、勝ったのはマルクであった。彼の剣はルフィヤの身体を切り裂き、

「ルフィヤ・・・お前・・・」

ルフィヤの槍は、マルクの胸ポケットの指輪に阻まれていた。

「・・・本当に・・・お強くなられましたね・・・」

「お前には・・・まだまだ及ばねぇよ・・・」

「・・・」

「何故だ・・・何故、わざと指輪を突いた・・・?」

ぐらり、とルフィヤの身体が仰向けに傾き、

「何故わざと俺に斬られやがった!?」

どさりと、そのまま倒れた。

「あ、貴方は・・・私の、息子、です・・・斬る、なんて・・・」

「お前、最初から・・・そのつもりで・・・」

「・・・貴方の、成長が見たかった・・・ただ、それだけかも・・・しれません」

「・・・馬鹿野郎が・・・」

「マルク、様・・・」

震える手を、ルフィヤはマルクへと差し出す。

「あの人を・・・ギルダーを、止めて下さい。あの、計画は・・・犠牲が・・・大きすぎます・・・そして誰も、幸せになれない・・・」

「それが分かっていながら、どうして・・・」

「これまでも・・・数多の犠牲が、計画に・・・騎士として、私はその責任を負わなければ、なりませんでした・・・」

「・・・お前に責任は無いだろう・・・全ては、ギルダーの・・・!」

「・・・いいえ、私を信じて、国のためにと犠牲になった者達も、います・・・そんな彼等を・・・私は裏切ることが出来ませんでした・・・」

「・・・本当に馬鹿だよ、お前・・・失われた命の為に未来を捨てて、それで何が得られるっていうんだ・・・!」

「・・・貴方は本当に、強くなりました・・・その言葉、あの人にも、言ってあげて下さい・・・そして・・・そして、フラン様と共に・・・この、国、を・・・」

「おい・・・」

「最期に・・・貴方の傍にいられる・・・贅沢な、事です・・・あぁ、でも・・・もっと、貴方の成長を見ていたかった・・・貴方と一緒に笑いたかった・・・貴方と一緒に歩いていたかった・・・」

「おい馬鹿!」

「・・・お去らばです、マルク様」

「おい!!」

「・・・ごめん・・・ね・・・」

震える手が、床に落ちる。

「・・・『母さん』」

そしてルフィヤは、二度と、二度と目覚めなかった。


***


「ゲボッ、ガッ・・・ウオェッ!!」

床に横たわるエリーは、痙攣しながら血と吐瀉物を交互に吐き出す。

何が起きたのか、彼女には全く分からない。ただ、とてつもない衝撃が、一気に複数の方向から押し寄せてきた。

「これが、私の異能ですよ」

そこへ、ギルダーが種明かしを始める。

「―『鏡界』―、あらゆる反射を司る異能。貴女が殴り続けていたのは、鏡に映った貴女自身だったのですよ。その蓄積ダメージを、一気に与えてあげたのです」

「・・・ウ・・・グ・・・ァ・・・!」

ギルダーの種明かしを聞きながらも、それにまともな返事など出来ない。

「身体強化の異能者は、只剣で斬りつけても意味がない。そして貴女程の異能者となれば、私の拳もどこまでダメージを与えられるか疑わしい。だから貴女の力を借りることにしたのです。そして私の思惑通り、貴女の攻撃は凄まじかった。8撃程あれば、十分なダメージが与えられると確信しましたよ」

「・・・ぐっ!」

やはり最初から、罠。しかし、この罠を自分は見抜けなかった。

「(完全に、掌の上・・・)」

「それから、私の異能は少し応用が利きまして」

キィィィ・・・

「反射の向きを上手に操ることで、光を収束させることが出来るんです・・・これをどう使うか、察しはつきますね?」

「・・・!」

察しはつく。そして分かる。ここで逃げねば、自分は死ぬ。

「・・・こ・・・の・・・」

しかし、身体が動かない。動かねば死ぬと、頭で分かっていながら、身体は思い通りに動かない。

キィィ・・・

ギルダーの指先に、光が収束していく。

「お疲れ様でした。これで、おしまいです」

キュン!!

そして限界まで収束された光弾が、発射された。

ジュワッ!!

高温の弾は、着弾点をドロドロに溶かす。

しかし、

「・・・?」

そこに、エリーはいない。着弾したのは、エリーの少し右手側だった。

「・・・まだ、動けましたか」

見れば、ギルダーの右腕に鎖が巻き付いている。

その先には、這いつくばりながら鎖を手繰るケツァルの姿があった。

「殺しは・・・させぬ・・・」

「何故、邪魔をするのです。貴方程の騎士であれば、この計画の必要性は理解できるでしょう」

「生命力を民から奪う事に、理解を示せと言うのか貴殿は」

「そうでなければ、この国は守れません。・・・隣国の大帝がどんな人物か、ご存じですか?」

「・・・」

「弱体化しつつあったとはいえ、彼はたった一人でゲヴェールを潰したのです。私の情報網によれば、彼の側近には巨人族すらいるという。攻められればゴルドがどうなるか、貴方に想像出来ない筈もないでしょう?」

「・・・」

「完全なるものがいなければ、絶対の守護者がいなければならない。そしてその役目を、運命を、重石を背負うのは、私でなければならない」

「その為に、その左胸のものを使って化け物となるか。・・・いや、違うな・・・貴殿一人が化け物となった所で、この国全体を守る者にはなれない。どうしても数が足りぬ」

「・・・」

「貴殿、民も吸血鬼にするつもりであろう。それを持って、国の防衛力とするつもりだ」

「!」

ギルダーの表情が、ケツァルの推理を肯定する。

「愚か者・・・結局はバルボアと同じ道を歩みおって・・・!」

「彼とは一緒にしないで頂きたいですね。私の行動原理は私欲ではない。国の為だ」

「人が集まって、支えあって作るから『国』なのだ。化け物が一方的に統治するそれは国ではない、『地獄』だ・・・それに、血清に適応できない多くの民が命を落とすことになるだろう。それでも国の為と言うか」

「どう形容しようが自由ですが、地獄とて国の一つの形です。それに時が経てば、悲惨な情景は記憶から消え、後には平和と繁栄と言う結果だけが残ります。弱き者が国の為に命を落とし、強き者が後の繁栄を築いていく事で、国は成長する」

「弱者は消えろというのか・・・クローネ殿のように?」

「・・・・・・・・・・・・・・・それは、強者が守るのだ」

キィィィ・・・

鎖を振りほどき、再び光がギルダーの指先に収束する。次のターゲットはケツァルだ。

ガッ!!

その右腕を、今度はエリーが無理矢理抑えた。

「もう動けましたか」

「打たれ強さには、少々自信がありましてよ・・・」

「・・・フン!」

ギルダーは右腕一本でエリーを放り投げ、地面に叩き付ける。

「はっ!」

そして跳ね上がったエリーの身体を、追撃と言わんばかりに蹴りつけた。

「・・・!」

無言のまま、エリーは床を転がった。

そして、すぐに起き上がる。

その顔は、笑顔であった。

「何を笑って・・・?」

ギルダーが訝る。その答えはすぐに出た。

「フフ・・・」

微笑みながら、エリーは手にしたものを見せつける。

それは、今ギルダーの左胸からくすねた未完成血清が入った瓶であった。

「・・・まさか、それを破棄すれば計画が終わるとでも?」

「いいえ。それ程頭の弱い人間ではありませんわ。でも・・・」

パキン・・・

瓶の蓋を、エリーが開ける。

「弱い人間である事は、確かみたいですわ。貴方と同じ、人間でいる事に耐えられない、弱き者」

エリーが何をしようとしているのか、この場にいる全員が理解した。

「止めなさい」

それを真っ先に止めたのはギルダーだった。

「あら、貴方にとってもこの展開は良くないのかしら?」

「それは未完成品です。力だけが閉じ込められ、人に適合させる段階まで進んでいない。使えば・・・死ぬ可能性も十分にあります」

「ここに来て、私の心配?随分とお優しいのですね」

「それだけではありません。凶暴な力に飲み込まれ、本当にただの化け物となってしまうかもしれません」

隣の間にはフランが待機している。そちらまで被害が広がるような事態は避けなければならない。

「そう・・・でしたら・・・」

その忠告を聞いたうえで、

「頑張って止めてみなさいな!」

エリーは瓶を口に持っていく。

「(貴方には、後で怒られるでしょうね、マルク)」

そして迷いを振りほどくように、一気に飲み干した。

パリン!

そして直後に、エリーは瓶を取り落した。

「ぐ、ぅぅうぅうっぅっうぅ」

熱い。身体が内側から焼かれているようだ。

「・・・馬鹿な人ですね。その血清に、人間の身体が耐えられるはずもない」

キィィィ・・・

三度、指先に光を収束させる。

「せめて、苦しみの少ないうちに葬ってあげますよ」

ピキュン!

そして今度は的確に、光弾を放つ。

ヒュン!

だが、

ドォン!

放たれた光の弾は、エリーを捉えない。そして、

グォッ!

「(上方!)」

上からの蹴り。それをギルダーは後退して避ける。

ギュン!

エリーは追撃を掛ける。

「馬鹿ですね!」

その動きに、ギルダーは勿論対応。鏡界を発動する。

ドゴォ・・・!

「なっ・・・!?」

しかしギルダーの想定通りに進んだのはそこまでだった。

彼の異能はエリーの拳を反射せず、彼女の拳は正面からギルダーの腹部にめり込む。

ギュン!!

そのまま、

ダァン!

ギルダーの身体は壁へと叩き付けられる。

「フゥー・・・」

拳を前に突き出したまま、エリーは息を整える。

「き、貴殿・・・」

ケツァルがエリーの姿を捉え、そして驚愕する。

尖った牙、赤い瞳、鋭い爪、側頭部に生えた2本の角、背中から歪に生える2対4枚の羽根。

吸血鬼と言うよりは、悪魔と形容する方が多くの人間は納得するかもしれない。

「エリー・・・なのか・・・?」

それでも、

「・・・ええ。一瞬、何かに飲み込まれかけましたけど」

心は、間違いなく人間のエリーだった。

「何というか・・・失礼ながら悪魔のようだな」

「吸血鬼の狂暴性を凝縮でもしたのでしょう・・・まぁ、醜い姿なのは変わりませんが」

「・・・しかし驚いた、ギルダーの異能を破るとは。一体・・・」

ガラ・・・

「成程・・・『吸血鬼は鏡に映らない』、という訳ですね」

瓦礫の中から現れたギルダーは、現状を正確に認識していた。

「いやいや私とした事が情けない事です。自分で作ったものに、足元をすくわれるとは」

「その様ですわね。これで、反射に関しては封じさせて頂きましたわ」

「みたいですね。でも、これで勝ったつもりにはなっていないでしょうね?」

「ええ。むしろ、ようやく同じ土俵に立った、といった所でしょう」

「宜しい。それが分かっているのでしたら、それなりに楽しめそうですね!」

ダンッ!!

互いに笑顔を浮かべて、二人は同時に飛び出した。

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