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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
21/24

バケモノ

「貴方が、吸血鬼に?」

ギルダーの返答に、エリーは疑問で返した。

「その通りです。フラン様をお連れしたのは、血清の仕上げを手伝っていただく為。決して、吸血鬼にしようなどとは考えておりません」

「・・・」

それでも、エリーは構えを解かない。どの道、止めねばならない計画だろう。

「貴殿は・・・」

暫くして、ケツァルから言葉。

「そこまでして、何がしたいのだ。それは、人を捨ててまで成し遂げねばならぬのか」

「・・・ええ」

「答えよ。貴殿の目的は、何だ」

「・・・」

「・・・答えよ・・・!」

鋭くケツァルが言葉を詰める。それに押し負けたように、ギルダーは溜息をつくと

「いいでしょう、折角ここまでおいで頂いたのですから」

自身の計画に、話題を向けた。

「私が吸血鬼に対する研究の中で何に興味を持ったか、貴方はご存知ですね?」

「『生命の帰還』と言ったか」

「ええ、その通り。それを聞いて、貴方は何を連想しましたか?」

「・・・死者の蘇生だ。それが貴殿の目的ではないのか」

「成程。流石に良い読みを致しますね・・・でも、少し違う」

「違う?」

では、何だというのか。ギルダーが人を捨てるという禁忌まで犯して成し遂げたいものとは。

「確かに吸血鬼は生命力を操ります。しかしその力をもってしても、死んでしまった者を蘇らせる事は出来ない。彼等にとっても死は絶対であり、否定されて良いものでは無かったのですよ」

「ならば何を目的に研究を続けた?」

「フフ・・・」

ゾクリとするような笑みをギルダーは浮かべた。まるで子供が秘密を打ち明ける、その楽しみを噛み締めるような微笑みだ。

「恐らく貴方達が想像する通り、吸血鬼は人間から血を吸い取る生き物です。しかし、彼等が本当に吸うのは血ではない。血の中にある『生命力』です。それを吸い、自らのものにする事で彼らは半永久的に生きることが出来る。彼等も本質的には他の悪魔とそう変わりはないのですよ」

「・・・まさか、不死の身になることが目的とでも仰いますの?」

「話をややこしくするようで申し訳ないのですが、それも少し違います。彼等は生命力を吸い取ることで老化を止めることが出来る。・・・では、それを更に進めたら?それに対する答え、仮説を私は立て研究を進めた。その結果は私の仮説通りで、目的とも合致するものでした。これで、大体分かりますか?」

「・・・まさか、貴殿・・・若返る事が目的とでも言うか・・・!」

「その通りです、ケツァル・ベルデ」

だが、それでギルダーの回答は終わらない。

「ただ、そんな生温いものではありません。大量の生命力を吸収し私は若返りを限界まで進める・・・そう、」

ここで、ギルダーの微笑みが消えた。

「私は、やり直すのです。生まれる前の存在まで自己を巻き戻して」


***


「・・・そうかい」

白金の間にて、マルクはルフィヤから計画の目的を聞いた。

彼が問いかけた訳では無い。ルフィヤの方から一方的に語ってきた形だ。

「この計画が、ゴルドを繁栄へと導く事になります。申し訳ありませんが、マルク様はここで・・・」

「あのなぁルフィヤ」

マルクは最後まで言わせない。

「俺が聞きたいのがそんな事じゃないってのは、お前なら分かるだろ?」

「・・・」

「本当だろうな、諫言の騎士だってのは。お前は嘘をつくのが下手だしな」

「・・・」

「騎士達が襲撃を掛けた時、何故お前は応戦した?」

「あれはディルハム卿下の騎士です。今後のゴルドには悪影響をもたらすものと判断致しました」

「兵士の大軍に応戦したのは?」

「血清素材の一つに『大量の血』がございます。それを、集める為」

「・・・5年前、何故親父を助けようとした?」

「いいえ、そのつもりはございませんでした。そもそも、コルナを王宮に差し向けてパダカ様が現場に来るようにしたのは私です」

「・・・そうかい」

大きな喪失感と共に、マルクの口から言葉が漏れた。

「・・・いつからだ?」

「私がフォルツァ家へ来た26年前より、私は諫言の騎士に所属しておりました。パダカ・フォルツァの代にて大きくなり過ぎたフォルツァ家の内部調査と、その弱体化という任務を受けて」

「・・・」

「しかしフォルツァ家の弱体化は難を極めました。そこに、バルボア・モールの暴走が起こった。我々は、それを利用する事にしたのです。正義感の強いパダカ・フォルツァであれば、決してバルボアを放っては置かないと踏んで」

「お前等が、親父を・・・!」

「・・・パダカ・フォルツァが死亡したのは想定外でした。我々としては国の中枢から遠ざかって頂くだけで構わなかったのです」

「そうかい・・・!」

今度は何かの覚悟と共に、マルクは言葉を吐き出した。

「それで、計画が成就した時、お前等は何を望む」

「無論平和と繁栄です」

「その為に、どれだけの犠牲を払うつもりだ」

「・・・」

「・・・なぁ、ルフィヤ。何がお前をそうさせるんだ?お前はそれでいいのか?」

「私は騎士の務めを果たすのみ。そこに私の私情は、介入させません」

「お前は言ってくれたじゃないか。例え世界中が俺の敵になったとしても、お前は俺の味方だって・・・」

「・・・」

「あの時見たお前は・・・俺の『母親』だったお前は・・・」

「・・・全て、幻」

「・・・あぁ、そうかい!!」

迷いを、言葉と共に吐き捨てた。

同時に鞘から荒々しく剣を引き抜くと、そのまま無造作に鞘を放り投げた。

「だったら容赦しねえぞルフィヤ。お前はもう家族じゃない・・・俺の、俺達の敵になった・・・なってしまった!」

「初めから、その覚悟を持って下されば良かったのです」

それに応じて、ルフィヤも槍を構える。

「来なさい、マルク・フォルツァ。倒します、貴方を」

「上等だぁああ!!!」

そのまま、マルクは突撃する。

ギィン!

王座を背にして、二つの刃が交叉した。


***


「生まれ変わる・・・だと?」

暫く言葉を失った二人の内、先に言葉を取り戻したのはケツァルだった。

「そうです。私が完全な存在、この国の守護者となる為に、必要な事なのです・・・長年鍛錬を積んで思い知りました。後天的な努力で『完全』にたどり着く事など出来ません。初期に発生した歪みは、どう足掻いても修正できない。私の場合、その歪みに気が付くまでに時間が掛かってしまいましたが」

「・・・下らない理由ですこと。国の為に人間を捨てて、貴方が幸せになれるなどと思いませんけれど」

「私は人である前に騎士でなければなりません。人が望む幸せなど、諦めなければならないのですよ」

どこか、寂しげな表情を、エリーはギルダーから見抜いた。

「さぁ、もういいでしょう。これ以上聞いても貴方達には意味のない事だ」

「「・・・!」」

ギルダーに応じるように、二人が構える。

そこへ、

『成程。確かに止めるべき計画だ』

『・・・ダラスが身体を張る訳ね』

上から降る、二つの声。

タッ!

それを追うように、割れた天窓から二つの人影が降ってきた。

「これはこれは、フロイト家のお二方。確か正門でディルハムと戦っていると聞いていたのですが」

「悪いが、討たせて貰った」

「そうですか。ディルハムめ、存外に不甲斐ない・・・」

「まぁ・・・次はアンタなんだけどね!」

ブォン!

―FLASH―

アルバの周りを影が覆い、辺りが眩い光で満たされる。

「(目くらまし!)」

「やっちゃいなさい、アルバ!」

―SUPER CHARGER―

影で光を遮断したアルバ。リエルの魔力を受けながら、一気にギルダーとの距離を詰める。

「(一撃で、終わらせる!)」

シュパン!!

刃となった左腕が、ギルダーに向けて容赦なく振り下ろされた。

視界を奪って、完全にアルバの間合いから仕掛けた攻撃。

しかし、

「なっ・・・!」

「・・・足りませんね。色々と」

その刃はギルダーに届かない。

アルバが振り下ろしたその袈裟斬りを、ギルダーは二本の指で摘まんでいたのだ。

「馬鹿な・・・!」

「アイデアは良し。ですが・・・!」

「(マズイ!)」

アルバは剣を盾に変える。

ドゴン!

「ぐ・・・ぉ・・・!?」

だが、ギルダーの拳はそれを貫通してアルバを吹き飛ばした。

「視界を奪った位で、勝てると思わない事ですね」

そして視界を取り戻し、

「(げっ、こっち来る!?)」

リエルに向けて構える、

「こんのぉ!!」

―LIGHTNING―

電撃が、ギルダーを迎え撃つ。

それを彼は、上方へ避けた。

「(しめた!)」

ニヤリと笑うリエル。黒曜石を取り出すと、

―STAB―

「空中なら、身動きもとれないでしょう!?」

一直線に、ギルダー目掛けて射出した。

だが、

パリン!!

それも、届かない。側面を拳に叩かれた石は空中で見事に砕け散った。

「何ですって!?」

「芸達者のようですが・・・」

ダァン!

ふわりとリエルとの間合いを詰めると、

「きゃぁ!?」

ギルダーはアルバと同じ場所へ彼女を吹き飛ばした。

「これではすべてを束ねても無理でしょうね・・・さて」

止めの構えを、ギルダーが取る。

「いかん!」

ビュオッ!

それをさせるまいと、ケツァルは愛刀をギルダーに投げる。

「っと・・・危ない・・・ん?」

フォンフォンフォン・・・

それを避けたギルダーは、刀の軌道に気が付く。

大きく弧を描き、戻って来ているのだ。

「(戻りの刀で・・・?いや・・・)」

その刀を迎え撃とうとして、止めた。

ブォン!

果たしてギルダーの予想通り、ケツァルはもう一本の愛刀を投げる。

バリィン!

二つの刀は空中でぶつかり、刃の雨がギルダーに降りかかる。

「(そう来ますか、面白い・・・!)」

「―終の太刀―・・・」

そこへ、小太刀を構えたケツァルが斬り掛かる。

「『昇り時雨』!」

上から降り注ぐ刃と、ケツァルによる下からの隙の無い切り上げ。

愛刀を犠牲にする、禁断のこの奥義を、

バキィン・・・!

「ぬ・・・ぅ・・・!!?」

ギルダーは、破ってみせた。

上からの刃は己が剣で防ぎ、片腕で小太刀をへし折りながらケツァルを殴り飛ばしたのだ。

「技量は私を上回っているようですが・・・それだけでは勝てませんよ」

「ぐ・・・」

バケモノ。人間でありながらここまで到達した彼を形容するのに、これ以上適切な言葉があるだろうか。

「さて・・・」

スッ、とギルダーの目がエリーを捉える。

「次は、貴女ですが。宜しいですね?」

「・・・」

その時、エリーは気が付いていた。

自分の足が、一歩後ずさった事に。


***


「ゲホッ!・・・こんの・・・」

5度目の打ち合いもルフィヤに軍配が上がる。

下腹部を蹴り飛ばされたマルクは情けなくその場を転がった。

「もう諦めてはどうですか?これで・・・いや、戦う前から勝負は見えておりました」

「・・・やだね」

「まだ戦うつもりですか」

「参ったなんて言ってねぇぞ」

剣を取り、6度目の打ち合いにマルクは挑む。

ギィン!

「っと・・・!」

打ち合った直後、マルクは一歩下がる。

「そらっ!」

そこから流れるように突きを繰り出す。

「!」

ほぼ反射的に、ルフィヤは剣を弾いた。

バキャ!

そしてほぼ同時に石突でマルクの横顔を殴りつける。

ドゴッ!

怯んだところに膝蹴り、

「はっ!」

そして浮いた身体に掌底を打ち込む。

「うぉ・・・がっ・・・!?」

肺の空気を押し出されながら、マルクの身体は宙を舞った。

ドシャ

そしてそのまま、彼の身体は落ちてきた。

「・・・!」

ヒュー、ヒュー、と呼吸を整える。それを、憐れみを含んだ目でルフィヤは見下していた。

誰がどう見ても、勝負の行方は明らかであった。

「(ダメ、なのか・・・?)」

遠い。あまりにも遠い。

あれだけ近くにいて、あれだけ一緒に笑ったのに、こうして刃を交えるとその遠さに心を打ち砕かれそうになる。

「さぁ、諦めなさい。元々、貴方の力では無理な話だったのです」

「馬鹿・・・言え・・・俺は・・・」

力を入れようとするが、それすら出来ない。

手足が滑稽に震えるだけだ。

「・・・」

コロコロ・・・

そこへ、一本の小瓶がルフィヤから転がってきた。

「これ、は・・・?」

手に取ってみれば、中はどす黒い液体で満たされていた。

中で液体同士が蠢いているようにも見える、そんな禍々しい瓶だ。

「・・・吸血鬼血清。それの試作段階のもの」

「何だって・・・?」

「治験はおろか最終工程も経ていない出来損ないですが、それなりの力は与えてくれる筈です」

「・・・飲めってか」

「このままではあまりにも退屈です。どうせ戦うならもう少し手ごたえがある方が良いので」

「馬鹿に・・・しやがって・・・」

「しかし貴方も分かっているはずです。このままでは、どうしようもないと」

「・・・バケモノになれって言うのか」

「人としてこの場で死にたいですか?」

「・・・」

ルフィヤの言う通りかもしれない。目の前にいる相手は、想いや言葉だけで超えられる壁ではないのだ。

「・・・」

瓶を手に取り、マルクはゆらりと立ち上がった。

そして、

パリン!

何の躊躇いもなく、その小瓶を叩き割った。

「ふざけんじゃねぇ、誰が飲むかよこんな寝覚めの悪いもん」

「・・・」

「俺は強くなるんだ、誰にも頼らなくても守りたいものを守れるように」

「・・・」

「あんなもんに頼って、人間やめないと強くもなれねぇような・・・テメェらなんぞと一緒にすんな!!」

「!」

虚を突かれたようなルフィヤの表情。

そこから一瞬、ほんの一瞬だが微笑みが零れた。

「・・・そうですか」

「だから次こそ、討たせて貰うぞ・・・ルフィヤ」

鞘を拾い、先程より低めに構える。

「だったら、全力で来る事です。次こそ、死にますよ?」

「・・・」

「どうしました?ここにきて怖気付きましたか?

「いや・・・上等!」

ルフィヤに向けて、マルクが駆け出す。

だが、只走るだけではない。

「(さっきの反応からするに・・・!)」

ブオン!

予備動作をほぼ排して、マルクは鞘を放り投げた。

「!」

この予想外の行動に、ルフィヤは鞘を弾いて対処する。

「(やっぱり!)」

それはマルクが思った通りの行動。自分の突きへの対処と同じ。

ルフィヤには戦闘時に飛来したものを『弾く』癖がある。

ブワッ!

そして、弾くと同時に鞘の中から何かが舞う。

「(ガラス片!?)」

先程割った小瓶の破片を、マルクは鞘に詰めたのだ。

それを避けようと、ルフィヤのバランスが少し崩れる。

「(今だ!)」

恐らくこれが、唯一の好機。ルフィヤに勝てる、たった一度の瞬間。

「ルフィヤ!!」

迷うことなく、マルクは斬り掛かる。

「!」

ルフィヤもただ立ち尽くすだけではない。

瞬時に槍を構えなおし、マルクを迎え撃つ。

ザン!

7度目で、決着はつく事となった。

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