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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
20/24

第二次吸血鬼計画

「・・・お仕え出来光栄でございました、ニュルタム王・・・」

トゥグルグ宮殿、王の間。今ここに、ニュルタム王はその生涯の幕を閉じた。

末期癌。

王がそう診断され1年。献身的に支え続けたギルダーは、深く深く尊敬と哀悼の意を示す。

「ゴルド王国の事、次代の王の事・・・諸々このギルダーめが手配致します。どうか、安らかに・・・」

そう誓い、ギルダーは目を開く。

計画を、進行させねばならない。

―ゴルドに、白金の輝きを―


***


―トゥグルグ宮殿、一階東通路―

「・・・」

何も言わず、ただ前を走るケツァルを

「速いなー、あの人・・・」

「本当に案内するつもりなのか、分かりませんわね」

マルクとエリーはひたすらについていく。

普段は騎士達が徘徊している王宮である。しかし表のリエルたちの騒動やクーナ達の脱走もあり、只でさえ数の少ない騎士達に王宮内のパトロールの余裕はない。

その状況を頭に入れた上で、ケツァルは二人を案内していた。王宮の経路を全て頭に叩き込んだ彼にとって、この状況で最短経路を策定する事位は朝飯前である。

「しかし・・・」

追いながら、マルクが口を開く。

「一体何が目的なんだろうな、吸血鬼計画って」

「あら、ある程度想定はつきません事?誠実な人間が力に魅せられその身を堕とす事など、よくある話ですわ」

「うーんでもなぁ。確かにバルボアもそうだったみたいだけど、今回のはどうも違う気がするんだよ」

「と仰いますと?」

「親父の日記によると、前回のはもっとこう無理矢理仕掛けていたみたいじゃないか。でも今回は違う。刺客を放ったり、フランを攫ったり、その上でフォルツァとフロイトを別々に潰しに来たり・・・力に溺れているとしても随分冷静な感じがするんだ」

「・・・ふぅん。で、そこの所はどうですの?」

エリーはケツァルに話を向けた。

「・・・」

「あら、貴方がこの中では一番詳しいと思うのですけれど?」

「・・・今回の吸血鬼計画、その最終目的に関しては知らされていない」

しかし返って来たのは空の答えだった。

「知らされていないって、諫言の騎士にすらにもか?」

「然り。あくまで決議されたのはフラン・フォルツァの誘拐、吸血鬼血清の完成、計画の障害となりうるフォルツァ、フロイト両家の壊滅の3点」

「・・・つまり『手段』しか知らされていない、と仰いますのね」

「然り。最終目的を知るのはギルダーのみ」

「分かりましたわ」

するとエリーは別方向で質問を投げた。

「では、貴方の意見をお聞かせ頂けますこと?首席とやらの目論見に関して、何も考えずに行動していた訳ではないのでしょう?」

「・・・私見ではあるが」

ケツァルがゆっくりと口を開く。

「ギルダーは吸血鬼による人の生命への触れ方に興味を持っていた。特に、それを利用した『生命の帰還』というものに」

「生命の帰還?」

「それが何を示していたのかは不明。だが、私はこう推測する」

「・・・まさか」

「然り。―死者の蘇生―だ」


***


バリン!

天井のガラスを破り、クーナとフランがそこから舞い降りる。

「よっと。大丈夫、フラン?」

「は、はい。ちょっと怖かったですけど・・・」

「ああ、ごめんごめん。こういうのは流石に慣れてないか」

ハハハ、と軽く笑うとフランを降ろす。

王座のある白金の間。その一歩手前のホールに二人は立っていた。

「あの扉・・・」

白金の間とこのホールを隔てる荘厳な扉。

「そう、あの向こう。そこに王はいらっしゃる・・・行くよフラン。王様を止めに」

その扉に向け、二人が歩みだそうとする。

「待ちなさい」

それを、背後の声が止めた。

「!」

その言葉が、たった一言が、

「お前・・・は・・・」

フランの足を止め、クーナの足を凍らせた。

「残念ながら、その先に王はいません。王は自室にいらっしゃる」

「・・・そうか」

ゆっくりと、まるで子供が怖いものをそろそろと見に行くように、クーナは振り返る。

そこには今、最も出会いたくない者がいた。

「ギルダー・デリゲート・・・」

「クーナ・ウィンタース、貴方にはフラン・フォルツァ様の監視を命じていたはずですが」

「・・・いや何、ちょっと散歩がしたくなったもんでね。この子もあんまり王宮の中見て回った事ないだろうからさ」

「最初は南西角の花畑でも見せるつもりでしたか?」

「!何故・・・」

「どうも不自然に馬車が止まっていたようですが」

勿論、知っている。それで国の外へ逃げるつもりだったのだから。

「・・・最初から最後までバレてるって事ね」

「そうです」

そしてギルダーは鋭い眼光をクーナに向けた。

「クーナ・ウィンタース。今すぐ元の任務に戻りなさい。諫言の騎士と言えど、発動された国の命に背くことは、重大な反逆行為です」

「・・・断れば?」

「言わせるつもりですか?」

「いいや、分かってる」

そして、クーナは剣を抜いた。

「クーナさん・・・」

「・・・それが答えですか」

「そうさ。アタシはもう戻るつもりはないよ」

「・・・」

剣を抜かず、ギルダーはクーナと対峙した。

「・・・ギルダー、何でこんな計画を進める必要があるんだ?」

「国の為です」

「違う。アタシが聞きたいのはアンタの願望さ。これは本当にアンタが望んでやっているのか?」

「・・・」

「アタシが知っているアンタはそんな男じゃない。あの時、騎士団へと導いてくれたアンタは・・・」

そこまでクーナが言った所で、ギルダーの気配が変わる。

「それはお前が知っても仕方の無い事だ」

「・・・そうかい」

クーナの眼光が、ギルダーを鋭く捉えた。

「じゃあこれ以上は聞かないよ。その左胸にしまっている血清、アタシが捨てといてやる」

「・・・やってみろ」

「!」

クーナの剣が、ギルダーに向けて煌いた。

ヒュォ・・・

次の瞬間には、ギルダーのすぐ横を剣が素通りする。

「ぐっ・・・」

「昔よりはマシだが・・・」

グン!

「相変わらず踏み込みが弱いな」

ダァン!

直後、掌底がクーナに叩き込まれていた。

「クーナさん!」

「ぐっ・・・!」

体制を立て直す為、クーナは一歩下がる。

「そらっ!」

続けて、鋭い突きを繰り出した。

その突きも先程と同じく、紙一重で躱される。

「(想定通り!)」

ドンッ!

回避の先に、クーナは石柱を出現させた。

ギルダーは自ら、石の塊にぶつかっていく。

ドゴオ!!

筈だった。

「んなっ!?」

しかしそうとはならない

「能力の洗練も、発展途上」

右の拳で、ギルダーは石柱を砕いたのだ。

「バケモノがっ・・・!なっ!」

そして驚く間もなく、ギルダーはクーナの懐に入り、

ダンッダンッダンッ!!

正中線に下から3発、左の拳を叩き込んだ。

「ク・・・ソッ・・・!」

「安心しろ。殺しはしない」

「・・・!」

そのまま仰向けに倒れ、クーナは昏倒した。

「クーナさん!」

駆け寄るフランを、

グッ!

「は、放しなさいギルダー・デリゲート・・・!」

ギルダーが捕まえる。

「いいえ。貴女には、別の役目がございます」

「役目・・・?」

「はい・・・この国の未来を支える、非常に重要な役目です」


***


「ここは・・・」

ケツァル、マルク、エリーの順にホールへと入っていく。

「王座のある白金の間、その一つ手前」

「ここに首席のギルダーがいるって事か」

「然り。最後の仕上げの為、ギルダーはここにいる筈」

だが、エリーがギルダーよりも先に誰かを見つけた。

「・・・!あれは!」

「おいエリーどこへ・・・って、誰か倒れてる!?」

駆け出したエリーを、マルクも追う。

果たして、ホールの真ん中で誰かがうつ伏せに倒れていた。

「・・・貴女は」

顔を見て、エリーが驚く。後を追ってきたマルクも同じだった。

「ク、クーナさん!?」

周囲の様子から何者かと戦った後であるのは明白。

「大丈夫ですか!ねぇ、クーナさん!」

「落ち着きなさいマルク。気を失っているだけみたいですわ」

「・・・」

ケツァルは凹んだクーナの鎧を見ていた。

「(正中線に正確に3発・・・鎧を砕かんと言わんばかりの威力・・・)」

このような芸当が出来る者を、彼は一人しか知らない。

「・・・ギルダーか」

「え?」

「間違いない。ウィンタースはギルダーと戦ったのだ」

「・・・そうだとすると」

エリーもケツァルと同じように、鎧を見る。

「想像以上に覚悟を決めなければならない様ですわね」

エリーは自身の手に少量の汗を感じた。

そこに、

―その覚悟、無駄にならないと良いですが―

声。そしてそれだけで

「(!?)」

エリーは感じた。少量、ほんの少しではあるが確かな『恐怖』を。

「・・・ギルダー」

ケツァルが、声の方向に顔を向ける。白金の間から現れた、ギルダー・デリゲートへと。

遅れてマルクとエリーも、そちらへと顔を向けた。

「ケツァル・ベルデ。貴方までこのような事をするとは。同じ騎士として、少々心が痛みますよ」

「申し訳ないが、私は既に騎士ではない。一人の人間、ケツァル・ベルデとしてここに来た」

「そうですか・・・」

残念そうに、ギルダーはケツァルから視線を外す。

「おい、ギルダー・デリゲート!」

そこへ、マルクが声を向ける。

「・・・なんでしょうか。マルク・フォルツァ様」

鋭い眼光と共に、ギルダーが応じた。

「うっ・・・テ、テメエが何を企んでいるのかは知らねえが、フランを返して貰うぞ!」

「・・・成程、やはり取り戻しに来ましたか。従者も連れて。その勇気、ここまで辿り着く実力、流石と言った所ですね」

「(やはり?)」

「う、うるせえ!フランはどこだよ!?」

「フラン様でしたら・・・」

白金の間をチラリと見やる。

「あちらの間にいらっしゃいます」

「そうかい・・・」

一つ、息を飲むとマルクは剣を引き抜いた。

「だったら、そこを通して貰うぞ。俺は、フランを連れて帰らないといけない」

せめて体が震えないようにと、全身に力を込めてギルダーに伝える。

しかし

「ええ、どうぞ」

返って来たのは予想外の答え。

「え・・・?」

「どうぞ、と申し上げたのです。残りの方々をお通しする訳には参りませんが」

「・・・」

暫し、固まる。

普通に考えればこれは罠だ。通り過ぎようとした所を斬られる。

だが、今回の場合その可能性は弱まる。なぜならこちらが弱いからだ。

そんなことをしなくとも、こちらを斬捨てることなど彼には容易だろう。

「・・・行け」

迷うマルクの背中に、ケツァルが言葉を投げかける。

「ケツァルさん?」

「案ずるな。ギルダーは背中から斬る男ではない」

「・・・」

エリーを見やるマルク。それに応じてエリーも首を縦に振った。

「・・・オーケー」

剣を鞘に納めると、マルクは白金の間へと歩みを進める。

そしてギルダーの横を通るとき、

「(その勇気は父親譲りですかね?)」

「(!?)」

ボソリと呟いたギルダーの言葉がマルクの心を響かせる。

だが彼は振り向かない。今は、妹を優先させる時なのだ。

「「・・・」」

白金の間へと入っていくマルクを、二人は確かに見届けた。

「私を、疑わなかったのですね」

「・・・貴殿はその様な男ではない。貴殿は常に『正しく』ある」

「それはどうも」

「だがその『正しさ』が『正しく在る事』が、貴殿を狂わせてしまったのだな」

「・・・」

ケツァルの問いかけには答えず、ギルダーはエリーを見た。

「そちらの方も止めませんでしたね。確か、私とは初対面のはずですが」

「何か変な事をすれば殺す。それだけの事ですの」

「随分と物騒なメイドさんですね。流石はフォルツァ家」

「お褒めに預かり光栄ですわ。ついでに、一つお尋ねしても?」

「えぇ、どうぞ」

「貴方、何故このような事を?」

吸血鬼計画。過去に否定したはずの計画を、何故もう一度実行に移そうと考えたのか。

「・・・」

「お答え下さらないのですね。それでも構いませんが」

バチ・・・

エリーの両手に、強化が施される。

「理由がどうあれ、あの妹君を吸血鬼にする事を放っておけませんわ」

その言葉に、

「何?」

ギルダーは、疑問を持った。

「私がフラン様を吸血鬼にする?」

「ええ、過去にバルボアとやらがやったように」

そしてエリーの返事を聞き、

「・・・フフフッ」

笑った。純粋に、何かおかしなものを見て笑った様な笑みだった。

「あら、何か可笑しなことでも?」

「ええ。十分。どうやら貴女は勘違いをされているようです」

「勘違い?」

「はい」

そして微かな笑みを顔にたたえたまま、

「吸血鬼になるのは私なのですから」

エリーの推測を、否定した。


***


ガチャリ・・・

白金の間に、マルクが入る。ここに立ち入るのは初めてだ。

「おぉ・・・」

まずマルクはその広さに圧倒された。

「スゲェな・・・」

次に、その煌びやかさに再び圧倒される。赤を基調とした壁紙や家具と白のカーペット。

所々に吊り下げられたシャンデリアは黄金で作られており、王座を彩っている。

「・・・ん?」

白のカーペットの上に敷かれた一本のレッドカーペット。その先にある王座に、マルクは人を認めた。

「・・・フラン!」

間違いない、そこに座っているのは妹だ。

「おいフラン!俺だ、兄ちゃんが来てやったぞ!」

どこか興奮を覚えながらマルクは離れた場所から声を掛ける。

「・・・」

だが、フランから返事は来ない。

「おい・・・」

嫌な予感が胸を這う。それを打ち消すために、マルクはフランへ駆け寄った。

「フラン・・・!」

「(すーすー・・・)」

マルクの呼びかけに、フランは寝息で返した。

「ほっ・・・」

どうやら嫌な予感は外れてくれたようだ。まずは一安心である。

「(しかし・・・)」

どうしてフランがここにいるのだろうか。妹は吸血鬼にされる為に連れ去られたのでは無かったのだろうか。いや、それ以前に、

「ニュルタム王はどこにいるんだ?」

ポツリと、そんな疑問が口をつく。

その疑問に

『ニュルタム王は、先程崩御されました』

後ろから、何者かが答える。

「・・・!!」

その声の方向を、マルクはすぐに振り向けない。

『フラン様をここにお連れしたのは、次代の王となって頂く為。申し訳ありませんが、貴方には手を引いていただく必要がございます・・・マルク様』

「お前、は・・・」

恐る恐る、マルクは声の方向を振り向いた。

その先には、

「・・・初めまして。諫言の騎士首席補佐を務めます、ルフィヤ・ディナールと申します。この場から即刻お立ち退き頂ますよう、宜しくお願い申し上げます」

槍を構えた、見慣れた女性がいた。

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