行ってきます
グラ・・・
ケツァルに斬られ、後方に倒れかけた身体。
「こ・・・の・・・っ!」
それを、エリーは踏みとどまらせて見せた。
バチィ!
そして能力を使い、傷口を無理矢理塞ぐ。
それなりの血を流したようで、少しばかり意識が遠のいた。
「これが・・・貴方の技量・・・恐れ入りましたわ・・・」
それでも、降参の意志は見せない。それどころか、戦いを再開するといわんばかりの構えをエリーは取っていた。
「バ、バカ!」
それを見たマルクが、再度エリーに駆け寄る。そして彼女の身体が倒れぬよう、前方から支えた。
血は既に止まっているものの、思うように力が入らない様が身体を通して伝わってくる。
「・・・」
刀を構えなおし、ケツァルがこちらを振り向いた。
そのまま、こちらに近づいてくる。向こうも戦いを続けるつもりなのだろう。
だが、こんな状態のエリーを戦わせる訳には行かない。
「(俺が・・・!)」
戦わなければならない。それが自分の責任だ。
「マルク・・・!おやめなさい、貴方では・・・!」
「そういう訳には、いかないな」
剣を抜くと、マルクはケツァルに向き合った。その目に、迷いも恐怖もない。
「・・・」
だが、ケツァルは二人の手前で歩みを止めた。そして、
「私の、負けだ」
思いもよらぬ言葉が、その口から漏れた。
「なっ・・・?」
「何の、つもりですの・・・?」
二人とも、ケツァルの意図する所が分からない。マルクから見ても、攻撃を直接受けたエリーから見ても、ケツァルに敗北の要素は無かった。それなのに、何故?
「―秘剣・蓮華落とし―それは私の持ちうる技量をすべて叩き込んだ必殺の一撃。受けた者の五体が、別々に宙を舞う技。だが、エリー・・・貴殿には通じなかった。私の持ちうるものを全て吐き出しても、貴殿を殺し得なかった」
「そんな・・・事で・・・」
「それだけではない」
言うと、ケツァルは二本の刀を突き出した。
そこには、
「ヒビ・・・?」
「そうだ。貴殿の力に、我が愛刀も膝を付いた。・・・私の負けだ」
どこか嬉しそうにそう言うと、ヒビの入った刀をケツァルは鞘に戻す。
そして懐から、ゴルドの紋章が入ったバッジ―騎士たるものの証を取り出すと、
「そして、第三席も、ここに死んだ」
躊躇することなく、それを踏み潰した。
「ア、アンタ・・・!いいのかよ・・・?」
「気にするな。あのようなもの、もっと早くに捨て置くべきだった」
エリー達に背を向けると、ケツァルは裏門から城へ入る。
「来い。首席の所へ、案内しよう」
***
「こんなものか・・・くだらん」
トゥグルグ宮殿正門側の庭にて、一つの戦闘が終結しようとしていた。
日は沈み、月明かりが庭を照らす。
散らばる宝石、所々で抉れる地面。乾いた血の上に、上塗りされた新たな血。
そして、力無く倒れる少女。
「どうした、倒すのだろう私を」
リエルの目の前に悠然と立ち、ディルハム卿が挑発する。
「・・・そうよ、見て、なさい・・・」
魔導書から、更なる力を引き出そうとする。
だが、上手くいかない。引き出す元となるリエルの身体がほぼ限界に近いのだ。
「フン、愚か者が」
「うぁっ・・・」
リエルの首を掴むと、ディルハム卿はそのまま吊り上げた。
キィン・・・
そして隠し腕含め三つの腕が、剣を向ける。
「怯えろ・・・貴様はこれから、糞のように殺されるのだ。さて、まずは指と耳からそぎ落としてくれようか・・・フハハハハハ・・・!」
だが、下卑た笑いも脅し文句も、リエルの耳には入ってきていなかった。
彼女はただ、悔しかった。何も出来ず、嬲られるだけの自分がただ情けなかった。
「(力が、あれば・・・私に、もっと・・・)」
「さぁ、始めようか・・・!」
「(ごめんなさい、みんな・・・!)」
カァオ!
刹那、二人の間を何かが通り過ぎる。
「何ィ!?」
同時にリエルを掴んだディルハム卿の腕が吹き飛び、
キィィン・・・
残響音がその後を通り過ぎた。
「(長距離対物狙撃銃だと!?まさか・・・!)」
こんな代物を持っているのは、
「(まさかっ・・・!)」
ディルハム卿が睨み付けたその先に、
「・・・少し遅れてしまったか・・・アルバ、行動を開始してくれ」
その男が、ダラスがいた。
「あの男・・・!ん?」
そして、ディルハム卿に刃を向けてきたのはダラスだけでは無い。
「せやぁあ!」
影の刃を振りかざし、アルバがディルハム卿に斬りかかってきた。
「この、小童が!」
剣を振るい、アルバを引き離す。
「吹き飛べ!」
そして、盾の内臓砲で追い討ちをかけた。
「その程度なら・・・!」
影を剣から壁に変え、アルバはそれを迎え撃った。
ドォォォン!
アルバの壁は砲弾を防ぎ切ったが、爆風でアルバの身体はリエルの所まで転がされた。
「アル、バ・・・?」
「リエル、大丈夫か!?」
「・・・うん」
安堵の色をその顔に浮かべて、小さくリエルは頷いた。
「ネズミ共がぁ!」
腕の砲を、ディルハム卿は二人に向ける。
「いかん!」
カァオ!
ダラスが、二発目を放つ。
「ぐぉっ!?」
それは、右肩の盾を半壊させた。
同時に、対物狙撃銃の残弾0。ダラスはディルハム卿の方向へ駆け出す。
それと共に、アルバが仕掛けた。影で巨大な腕を作り、殴りかかる。
「!」
それを見たディルハム卿。スラスターでアルバの攻撃範囲から離れる。
「まずは貴様からだ!」
腕の砲をアルバに放つ。
「ちっ・・・!」
腕を再び壁に変え、アルバは砲弾を防いだ。
「馬鹿め!」
ディルハム卿もそれで仕留めようと考えていた訳では無い。腕からの砲撃はただの足止めだ。
「死ねぃ!」
距離を詰め、動きの止まったアルバに上から容赦なく斬りつけた。
「クソッ!」
すかさず影を剣に変え、アルバはそれを防ぐ。
だが、それはディルハム卿の思い通り。
「終わりだ」
斬りかかると同時に、アルバに砲を向ける。
ダァン!
しかしその砲撃よりも、ダラスの援護が早かった。
ライフルを放ちながら、距離を詰めてくる。
「くそっ、忌々しい・・・」
ディルハム卿がアルバから離れる。同時に内臓砲をダラスへ向けた。
「ご主人!?ダメだ!」
「問題ない!」
ダァン!
ダラスの放った弾は、内蔵砲の内側に入り込み、
ボン!!
「何!?」
暴発を引き起こす。ディルハム卿の右肩の盾は完全に崩壊した。
「小癪な・・・!」
左肩の内臓砲を、ダラスに向ける。
「なんの!」
それを予測していたダラス。火炎瓶を砲の中へ投げ入れる。
ボォン!
左肩も、同じように暴発を引き起こした。
「ぬぅっ、貴様・・・!」
「頂く!」
ダラスはディルハム卿の足元へ滑り込むと、
ドガァン!
携行大砲を至近距離で炸裂させた。
「ぬぉぉ!?」
ボディをへこませ、ディルハム卿が城壁まで吹っ飛ばされる。
「ご主人・・・!」
「ダラス・・・!」
「二人共、怪我はないか!?」
「僕は大丈夫。リエルが少し・・・」
「大丈夫、よ・・・これ位・・・」
「だが無茶は良くない。取り敢えず安全な場所へ・・・」
ダラスが、アルバに指示を出そうとする。
「安全な場所だと・・・?」
そこへ、機械のくぐもった声。
「驚いたな、あの砲弾の直撃を受けて生きているとは」
「鍛え方が違うのだ、貴様らとはな」
「ならば、もう一度叩き込むまで」
「やってみろ、貴族風情が・・・!」
三本の腕が剣を構え、三人に近づいていく。
「来るか・・・行けるな、アルバ?」
「勿論さ。リエル、お前は?」
「えぇ、大丈夫よ。お陰様で」
三人は、怯む事無く鉄の塊に対峙した。
「まとめて嬲り殺しにしてくれるわ!」
ディルハム卿が加速を掛ける。
「分かれろ!」
直後にダラスの指示。一方はダラスがリエルを抱え、もう一方はアルバと二手に分かれる。
「死ね!」
ディルハム卿、まずはダラス達に向け腕部から砲撃を放つ。
「リエル!」
「まかせなさい!」
―CORUNDUM―
二人の前方に展開された壁が、砲撃を防ぐ。
「小賢しい・・・!ぬっ!?」
直後、ディルハム卿の背中に衝撃。アルバが、影の拳で殴りつけたのだ。
「こっちを忘れてもらっては困るな」
「ええい・・・!」
さすがのディルハム卿も、この状況は分が悪い。
「(ならば片方ずつ叩き潰すまで!)」
バシュバシュバシュ!
背中から上方へ、三発のスモークを撃ち出した。
「煙幕か!」
「ご主人、気を付けて!」
キュピン・・・!
「!」
スモークの中に、ダラスは光るものを見つけた。
ブワッ!
直後、煙の中からディルハム卿が斬りかかってくる。
「リエル!」
それをダラスは読んでいた。
「よーしきた!」
―MAGNET―
二人の身体が、ディルハム卿へ『近づく』。
「何だと!?」
スモークの中にいた為予備動作を見抜けなかったディルハム卿。剣は空を切り、二人の身体はディルハム卿の股を潜る。
「なぁっ!?」
「これで・・・!」
ドゴォォン!!
背後からゼロ距離で、携行大砲を撃ち込んだ。
「ぬおぉぉおぉ!?」
地面に二、三度跳ねながら、金属の身体が転がっていく。
「アルバ!」
「任せてよご主人!」
そこにアルバが追撃に掛かった。影で巨大な槌を作る。
固い装甲の相手に対して、打撃でダメージを与えようという公算だ。
「・・・舐めるなよ、小僧!」
ガコン!
左肩の内臓砲が、アルバに狙いを定める。こちらは完全に破壊し切れていなかったのだ。
「なっ!?」
とっさの判断で槌を分解。全身を纏う鎧に変える。
ドォン!!
しかし、それでは守りは薄かった。
「ぐぁあぁぁああ!?」
アルバの左腕が、衝撃でちぎれ飛んでいく。
「驕ったな、雑魚が!」
ガコン!
次は身体を全て吹き飛ばさんと、ディルハム卿が次弾を装填。
「させるものか!」
そこへダラスが爆薬瓶を投げ、
ダァン!
狙撃。瓶は内臓砲の手前で炸裂し、ディルハム卿の射角を狂わせた。
ドォン!
爆炎の中にディルハム卿は撃ち込むが、放たれた弾はアルバを掠りもしない。
「ぐ、ぅぅぅ・・・」
しかし、初撃だけでもアルバの戦闘能力を奪うには十分だった。
「アルバ!」
リエルを抱えたまま、ダラスが駆ける。
「アルバ!おい、大丈夫か!?」
「アルバ、返事しなさい!」
それを、爆炎の向こう側からディルハム卿は捉えていた。
「ククク・・・」
「!ご主人っ・・・ダメだ!」
バシュ!
ディルハム卿の左腕が、アンカーとなってダラスに射出される。
「ダラス!?」
突如、ダラスはリエルを放り投げた。
直後
バキャ!
嫌な音と共に、アンカーがダラスにヒット。
ガッ!
そのまま、ダラスの身体を鷲掴みにした。
「まずは一人目」
ウォン・・・
モーターの唸りと共に、アンカーに力が掛かっていく。
「ぐっ、ぉぁあぁあ・・・!」
ミシリ、とダラスの身体から嫌な音が軋む。
「やめろ・・・」
「あ・・・」
絶望と懇願が入り混じった目を、二人が向ける。
「さーて、いつ死ぬかな貴様は?ウハハハハ・・・!」
そんなもの、ディルハム卿が気に掛ける訳もない。
「グッ、ガッ・・・!」
軋む音と共に、ダラスの口から苦しげな声が漏れる。
「安心しろ!葬ってやった貴様の使用人どもが迎えてくれるだろうさ、フハハハハ!」
「やめろおおおお!!」
「(ダラス・・・!私に力があれば・・・!)」
カタ・・・
「(力が・・・!もっと強い力が・・・!!)」
カタタ・・・
「(何でもいい、力を、力を頂戴!!)」
パキン・・・!
その時、『鎖』が切れた。
「何だ!?」
力の奔流を、ディルハム卿も感じた。
リエルの魔導書が、解き放たれて宙に浮く。
解放された魔導書が、リエルに力を流し込む。
「うああああああ!!」
―STAB―
ピュン!
そして放たれた黒曜石が、アンカーをつなぐワイヤーを断ち切った。
「なっ!」
「消えて無くなれぇ!!」
―COMBAT FANG―
ドガッ!!
無論、それで終わる訳がない。続いて二撃、ディルハム卿へ牙が向かう。
どれ程の魔力を込めたのか、リエル本人も認識できていない。
「馬鹿なっ!?」
だがその攻撃は、タングステン合金の身体を傷つけるに足りるものだった。
「削り取ってやる・・・!!」
黒曜石を折り返させ、再度アタックを試みる。
「同じ手に・・・!」
ディルハム卿は黒曜石を撃ち落した。
それは確実に『隙』になる。
「うぉぉぉ!」
ちぎれた左腕に影を宿し、アルバが殴り掛かった。
重い一撃が、ディルハム卿の背後を捉える。
「その程度でなぁ!」
マニピュレーターが影を捕え、
「思い上がりも甚だしいわ!」
地面にアルバを叩き付ける。
「ぐっ!」
叩き付けると同時に、ディルハム卿が飛び上がる。
「ゴミ虫の様に、潰してくれるわ!!」
月光を背に、機械の身体が降ってくる。
「リエル!!」
アルバの叫び、
「オーケー!!」
それに、リエルが答える。
―CHARGE―
リエルを介して、アルバに魔力が流れ込んでいく。
「何をしようが今更!」
「(・・・いける!)」
ドォォォン!!
地響きと共に、ディルハム卿が踏み潰した。
「(・・・違う!)」
だがそこに、アルバはいない。踏みつけたのは地面だけ。
「!」
代わりに、アルバは背後にいた。
「(月光に移った影と本体を入れ替えただと!?)」
―影武者―、本体と影を入れ替える、アルバがまだ未収得だった技。それをリエルの魔力を使って無理矢理発動させたのだ。
「はぁっ!」
リエルが削り取った隙間に、剣を突き刺す。
「何をッ!?」
「チェックメイトだ!ディルハム卿!」
そして供給された魔力を直接流し込む。
全て、容赦などなく。
「シ、システムが、オーバーロードをっ、ぬおぉぉおぉ!?」
体内のモーターが、逆回転と正回転を繰り返し引き起こす。
「ぬわぁぁああぁぁああ!!」
程なく、ディルハム卿は内側からのエネルギーに耐え切れず、五体を爆発四散させた。
「・・・」
「・・・やった・・・」
暫く、二人は放心する。だが、
「ご主人!」
「ダラス!」
呆けている暇など無い、傷ついた主人の下へと二人は駆け寄る。
「グッ、あぁ・・・二人共・・・よく、やった・・・」
「あまり動かない方がいい、ご主人・・・」
「そうよ、すぐどこかの医者に・・・」
すぐにも手当をしようとする二人を、
「いや、いい・・・」
ダラスは、制した。
「肺と、内蔵を少し潰されてしまった・・・余り、長くは無いだろう・・・」
「そんな、ご主人・・・」
「いいか、二人共よく聞け・・・」
そう言うと、ダラスはゆっくりと上体を起こした。
「今、この国は滅びへの道を歩んでいる。それも厄介な事に、その事実に気が付いていない。誰かが止めなければ、取り返しのつかないことになってしまう・・・私が止めようと思ったのだが・・・どうやらここが私の器らしい・・・」
ゴボッ、と音を立ててダラスは血を吐いた。
「ダラス・・・!」
「聞け・・・確かに私には無理だった。だが、お前達なら出来る・・・ディルハム卿を打倒したお前達なら、必ずできる・・・この国を、ギルダーの馬鹿野郎を、お前達が止めてくれ・・・これが、最後の頼みになるだろう・・・」
「「・・・」」
沈黙。そして、
「・・・わかったよ、ご主人」
「・・・しょうがないわね」
二人は、覚悟を決めた。
「ありがとう、アルバ、リエル・・・」
「ご主人、それは僕達の言葉だ」
「全くよ」
その言葉と共に、二人がダラスに抱き付く。付着する血液など気にしない。
「貴方は、紛れもなく僕達の父だった」
「アンタがいたから、ここまで生きてこれたのよ」
「だから」
「だ・か・ら」
二人が、声を合わせる。
「「ありがとう」」
それは、ダラスの心に深く、深く沁みていった。
「・・・あぁ」
二人の身体をダラスが包む。こうするのも、何年振りだろう。
もっと、こういう事をしてやれば良かったと、僅かな後悔がダラスの胸を打つ。
「さ、二人共・・・」
「うん」
「えぇ」
静かに、名残惜しく、二人がダラスから離れていく。
「ご主人・・・もう、安心してくれていい」
「見てなさいよ。国が何をするか知らないけど、私がぶっとばしてやるんだから!」
「・・・あぁ、頼んだよ・・・」
二人は再び声を合わせる。
「「それじゃ、行ってきます」」
立ち去る二人の背中を、ダラスはじっと見つめていた。
そして二人が城に入ったことを確認すると、銃を支えにしてゆっくりと立ち上がり、
「さて、私は最後の仕事をしないとな・・・」
ゆらりと、月明かりの中を歩き出した。
まだ、死ぬわけにはいかない。




