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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
17/24

王宮へ

「ちょ、ちょっと待ってよ・・・」

フォルツァ邸地下牢。衝撃的な話の前に、コルナの思考は暫し停止していた。

「つまりその吸血鬼計画とやらを、もう一回やろうってんだな国は。俺達が投入されたのは、二つの家をかく乱する為。抵抗勢力を削ろうって意図でなぁ」

「てっきり、フラン様を狙ったのかと思ってたけど」

「ま、余裕があるなら攫ってこいとは言われたけどな。あんなメイドがいるなんて聞いてなかったぜ」

「・・・」

「あ、信じてねえな!」

コルナの冷たい視線に気がついて、ドブラが息巻いた。

「当たり前でしょ。確かに一定の筋は通っているけど・・・これといった証拠もないじゃない。それに、そんな国家機密レベルの過去、何でアンタが知ってるのよ」

「ん?あぁ、そういえば説明を忘れて・・・」

その時、

ドゥン・・・!

「へ?」

「な、何?」

鍵の壊れた地下牢の扉から、轟音。

何者かが、外から叩きつけているような音である。

ドゴン!

そしてそのまま、扉ごと壊される。

「・・・アイツは」

「騎士?」

土埃の向こうに移る人影の正体を、二人は掴む。そこにいるのは一人の騎士だ。それもディルハム卿配下の、第二班。

「なんだなんだぁ?宝物庫かと思って来てみれば地下牢かよ、シケてんなぁ」

期待外れな感情を露骨に表し、その男は地下牢へと入って来た。

「せっかく王宮を抜け出してまで来たってのによ・・・ん?」

そして程なく、彼はコルナの存在に気が付いた。

「・・・ん、なんだお前、この家のメイドか」

「・・・」

「大軍が押し寄せているというのに逃げずに留まるとは立派な事だなぁ。いや、それともここに閉じ込められてしまったマヌケかな」

「大軍?」

「何だお前、知らねえのかよ。今この館は、国が全力で潰しに来ている。何か槍を持ったとんでもねえメイドが頑張っているみてえだが、時間の問題だろうな」

「そんな・・・メイド長が・・・!?」

言葉と同時に体が動く。自分も加勢に向かわねばならない。

「おっと」

そんなコルナの前に、騎士は立ちはだかった。

「ちょ、ちょっと・・・」

「なんで立ちはだかるのかってか?そりゃそうだろ。こちとら王宮を無断で抜け出してきたんだ」

ここで、騎士が剣を抜く。

「手土産の一つでもなけりゃ、始末書事だからな。宝物庫の場所、無理やりにでも吐き出してもらうぜ」

「・・・そういう事。悪いけど・・・」

「!」

ギィン!

コルナの袖から、刃。

ギィン、ガキィン!

二撃交わして、コルナは引いた。

「・・・短刀二本か。メイドが物騒なもん隠し持ちやがって」

「悪いけど。そっちがその気なら、こっちも応じるわよ」

「ふーん・・・」

余裕の顔を、騎士は崩さない。それも当然だ。相手はメイドの小娘なのだから。

「お、おいコルナちゃん」

「大丈夫よ。こんな奴一人位・・・」

ダッ!

「私にも倒せる!」

ギャリン!

コルナが、再び切りかかった。

「(畳み掛けて、隙を与えない!)」

ルフィヤから習った事を、忠実に実行する。

「成程、ただの小娘じゃねぇってか!」

「減らず口もそこまでよ!」

ギギギギギギン!!

決して二つの刃を同時に出さない。

相手を押し、防御を捨てる。

「はぁっ!」

「ちっ!」

そして、相手の剣がバランスを崩す。

「(いける!)」

勢いに乗り、短刀の一つが、突き出される。

「待て!」

ドブラが叫んだ時、既に短刀は宙に舞い、

「ぐぁっ・・・!?」

コルナは膝をついていた。

騎士の膝蹴りが、鳩尾に入ったのだ。

「随分良い教育を受けてきたようだな。だが・・・」

「!」

顔を上げたコルナの身体を、騎士は蹴り飛ばした。

「教科書通りじゃ、戦いにならねぇよ」

「テメェ!」

騎士にドブラがくってかかる。

「焦るな囚人。次はお前を殺してやる」

「次?」

壁に張り付いたコルナの身体がピクリと動く。

「随分とキツイ冗談じゃない。私がアンタに殺される?」

気丈に立ち上がると、残った一本の短刀を突き出した。

「思い上がりも甚だしいわね。まだ勝負はついてないわ」

「・・・あぁ、そうだな」

コルナの言葉を受け、騎士も剣を構えなおす。

「さっさと勝負をつけてやるよ!」

そして止めを刺さんとばかりに飛び出した。

「(かかった!)」

同時にコルナが動く。右手で戸棚のボウガンを引っ張り出し、

「それっ!」

正面から来る騎士めがけて放った。

「なっ!?」

不意打ちに騎士も怯む

が、

「このっ!」

床に剣を立て、無理やり射線上から体を逸らす。

ヒュン・・・!

矢は騎士の耳元を抜け、通り過ぎた。

「残念、外れだなぁ!」

「いいえ」

ニヤリと、コルナが笑う。

「大当たりよ」

パァン!

直後、地下に響く破裂音。

「しまった!」

騎士が気づいた時は既に遅い。

「ぐあぁぁぁ!」

炸裂弾の金属片が、鎧の隙間を縫って彼に降り注いでいった。

カラン・・・

そして無機質な金属音とともに、彼はその場に倒れた。

「ふぅ・・・」

一仕事終え、コルナはため息をつく。

「へぇ、なかなかやるじゃん」

「これでもメイド長に鍛えられた身よ。舐めないで」

そして立ち上がると、出口へ向かう。

「おい、ちょっと待ってくれよ」

「なに?」

「外へ出るんだったら、ここの鍵外してくれねぇか?さっきの話からするに、ここ攻められてるんだろ?火でも放たれたら窒息しちまう」

「別に私はそれでも構わないんだけど?」

「おいおい、冷たい事言わないでくれよ。それに、アンタらが聞きたいことはすべてさっき喋っちまった。これ以上、俺をここに置いておく意味があるのかい?」

「・・・」

それもそうだ。これ以上こいつをここに置いても、食費とストレスがかかるだけである。

「しょうがないわね・・・」

鍵を取り出し、コルナが牢に向かう。

ズッ

「・・・え?」

「・・・あ」

そして、コルナとドブラは同時に声を上げる。

「何・・・こ・・・れ・・・」

見れば、コルナの胸元を、騎士の剣が貫いている。

「へっ・・・ざまぁ・・・みやが・・・」

最期の力で、騎士が剣を突き立てたのだ。

「うそ・・・こん・・・な・・・」

「コルナ!」

そして地下牢に血溜まりを作りながら、二人はその場に倒れこんだ。


***


ゴルド王国。トゥグルグ宮殿。

普段は数多くの兵士が警備に当たっているこの王宮だが、今日は人影が少ない。

その殆どが、フォルツァ邸に向かっている証拠である。

その代わりに、王国の騎士たちが今日は警備に当たっている。

数は少なくなっているが、警備レベルは変わらない。中には下級の仕事を押し付けられて不満そうな騎士もいるが。

『しかし、兵がいないとこれ程までに閑散とするとはな』

『あぁ、全くだ』

門の両脇に立った騎士が二人、欠伸をしながら呟く。彼らも含め、騎士達にこれといった緊張感は見られない。特に大した問題も起きないだろうという心と、何があっても対処してみせるという己の力に対する自信が、そこには表れていた。

そこへ、

『ん、なんだアイツは?』

白と紫の法衣を纏った何者かが、まっすぐ正門へと歩いてくる。

『止まれ』

勿論その者は、行く手を遮られた。

『何者だ、この王宮に何か用か?』

「・・・」

『何を黙り込んでいる。用がないのならさっさと・・・』

「フッ、ウフフ・・・」

突然、静かに笑い出すその少女。

「何者かですって?」

『・・・?』

「何の用かですって?笑わせないで」

騎士達は、そこに不穏と不安を感じ取る。

『おい、様子がおかしいぞ』

『ああ、いったい何が・・・』

―HEAT―

ブォッ!

すると突如、騎士の身体から炎が立ち上る。

『なっ!うわああぁああ・・・!!』

叫びは一瞬。もう片方の騎士が気づいた時には、彼は既に炭に変わっていた。

『貴様・・・!異能者か!』

「・・・いいえ」

―THUNDER―

パァン!

彼女のつぶやきと同時に稲妻が走り、彼もまた黒焦げになる。

「異能者と一緒にしないで。私は魔術師。ただの・・・まがい物よ」

『何だ、何があった!』

『正門に騎士を動員しろ!襲撃者だ!』

『気を付けろ!敵は妙な技を使うぞ!』

続々と、騎士達が集まってくる。

それを眼の前にして、

「さぁ、来なさい・・・貴方たちも、皆殺しにしてあげる・・・」

静かに、それでいて期待を滲ませながら、リエルは笑っていた。


***


トゥグルグ宮殿、二階。西側廊下。

『止まってくださいウィンタース様!』

「そうはいかないってね!」

クーナの声に合わせて、石柱が騎士の足元から現れる。

『うわぁあ!』

「悪いね。殺しはしないから勘弁な!」

「ウィンタースさん、あれ!」

「ん?っと・・・」

フランに指摘されて、前方を注視する。するとそこにはクーナの行動を聞きつけて、通路を固めている騎士達がいた。

「数にしておよそ20、か」

「どうしましょう・・・」

「突破は出来るだろうけど・・・」

あの数が相手だと、手加減というわけにはいかない。だがこの計画、彼等に罪はない。

『クーナ・ウィンタース!そこまでだ!貴女の行いは国家に対する反逆に・・・』

「はぁ、いちいち煩いねぇ。ま、真面目な証拠なんだろうけどさ」

「クーナさん・・・」

「そう不安な顔するなって。あいつ等を殺したりなんかしないさ。だから・・・!」

ドゴォン!

クーナは左腕を振り、石柱で壁を貫いた。石柱はそのまま外に貫通。即席のバルコニーが出来た。

「こうするのさ」

そしてフランの小さな体を掬い上げると

「え?」

外に伸びた石柱の上へと移る。

「最初からこうすればよかったかもね」

「ええっと、何を・・・?」

ドン、ドン、ドン!

そして次々と城の壁から石柱を出現させ、今度は即席の階段を拵えた。

「さぁ行くよ。振り落とされないようにね!」

「は、はい!」

甲冑姿からは想像のつかない軽い身のこなしで、その階段をひょいひょいと駆け上がっていく。

「よっと」

あっという間に、城の屋根へとたどり着いた。

「あっちだ」

クーナが北を指さす。

「あっちの方に、王の部屋がある。そこまでこの上を走っていく。フラン、高いところは大丈夫?」

「は、はい。問題ありません!」

「いい返事だ。それじゃ、行くよ!」

威勢のいい掛け声とともに、再びクーナは駆け出した。

「・・・」

その後ろに、

「それが貴殿の答えか。クーナ・ウィンタース」

彼女たちを見守る者がいるとは知らずに。


***


「クソッ、あの小娘め・・・!」

金属音を響かせ、王宮の床を揺らしながらディルハム卿は帰投した。

『ディルハム卿、お戻りで』

『そ、そのお怪我は・・・!』

彼の姿に、騎士団第二班の誰もが驚く。

「チッ・・・!」

それが彼にとっては不快だった。

「おい貴様!」

怪我を心配した部下に、ディルハム卿は詰め寄った。

『は、はい・・・!何でございましょうか・・・』

「発注していた品は届いているだろうな・・・!」

『え、えぇ・・・今朝機術府より届いておりました。既にあちらに・・・』

騎士が指さす方向には、幕がかけられた物体。

「そうか・・・」

それを見てニヤリと笑うと、そばまで歩み寄り、一気に幕を取った。

「・・・素晴らしい」

そこには、ディルハム卿が予てより機術府に作らせていた追加装甲が置かれていた。

両肩に盾、各所に追加装甲。それだけではない。

「注文通り、内蔵武器も増えておるな・・・ククク・・・」

満足げに笑うと、ディルハム卿はすぐに追加装甲を自身に取り付けた。

「ハハハ、これはいい。これならあの小娘も、捻り潰す事が出来る・・・!」

これから来る殺戮へ興奮を抑えられないと言わんばかりに、下卑た笑いが漏れ続けた。

『い、いかがでしょうか。ディルハム卿・・・?』

どうやら機嫌を取り戻したと感じたのか、騎士の一人が尋ねてくる。

「ん、ああ・・・」

ディルハム卿は騎士達の方を向くと、

『え、ディ、ディルハム卿?何を・・・!?』

ドドドドド!!

盾の裏に付いた砲を、彼らに向けて掃射した。

「100点だ。マヌケ共」

殺しに満足げな表情を浮かべると、

「・・・ん?」

騒ぎの声を聞きつけて、ディルハム卿は正門側の窓に立つ。

「・・・ほぉ、どうやら試しがいのあるネズミが入り込んでいるようだ」

そして、リエルの姿を捉えると、その顔に笑みを重ねた。


***


トゥグルグ宮殿、裏門。

いつもは下級兵士が門番をするこの場所も、今日は騎士が張り込んでいた。

ガササ・・・

近くの茂みから、人の頭が二つ出てくる。

「(あそこが宮殿の裏門だ。正門に比べりゃ警備は手薄。ただ、入った後側面に回り込まなきゃ城に入れないってのが不便だがな)」

「(門番の下級兵士にしては、随分と腕の立ちそうな殿方のようですわね)」

「(ありゃあ兵士じゃない、騎士だな。恐らく俺達の館を襲うために兵が出払ってしまってんだろ)」

そう言いながら、マルクの顔に一瞬影が差したのをエリーは見逃さなかった。

「(成程)」

だが、そこには触れない。もう、彼女とは別れたのだ。

「(正面突破って訳にもいかねえなありゃあ・・・ん?)」

マルクが訝ると同時に、裏門の前から人が掃けていく。それも何やら慌ててどこかへ向かうように。

「(何か、トラブルのようですわね)」

「(だな。だがこっちにとっちゃ好都合だ)」

ニヤリと顔を見合わせると、二人は茂みから飛び出し、裏門へと駆けていった。

「!」

しかし、先を走ったマルクの足が急に止まる。

「っ・・・一体何ですの?」

少々不満げな顔を浮かべるエリー。だが、マルクが足を止めた原因はすぐにわかった。

騎士達が掃けた裏門に、一人の男が立っている。

忍者装束の、一人の男が。

「ケツァル・ベルデ・・・!」

「知っていますの、マルク?」

「あ、あぁ・・・諫言の騎士第三席の騎士だよ。・・・二つ名は―暗殺騎士―」

「・・・いかにも」

マルクの紹介を、ケツァルは肯定する。

「ふぅん・・・」

そんな肩書など全く気にも留めず、エリーはスタスタと歩いていく。

「お、おいちょっと待てエリー!」

「待ってどうしますの?宮殿のうち、一番侵入しやすいのはここだと仰っていたのは貴方でしてよ?」

「いや、そうだが・・・」

「そこの殿方がどなたか存じ上げませんが、どの道通らねばならぬ道・・・」

そしてエリーとケツァルは、3メートルの距離まで近づいた。

「そこを、通して貰いますわよ」

「・・・貴殿は」

「はい?」

「何故、貴殿はそこの少年と共に闘う?」

「マルクには少々の借りがありますの。それに・・・」

「?」

「・・・友を助けるのに、理由がいりまして?」

「!」

その言葉は、ケツァルにとって新鮮であった。何かの命でしか、動くことのなかった彼にとっては。

「貴殿がここを通ったとして、その先には更なる試練が待ち受ける。それでも、闘うか・・・?」

「だからこそ、ここで立ち止まる訳にはいきませんの」

「・・・」

スラリと、ケツァルが背中の刀を抜く。

「ならば、来るがいい。貴殿の力を、試させてもらおう」

「フフ・・・」

エリーも、ナイフを右手に構える。

「手加減は、できませんわよ!」

そして全身に強化を回すと、ケツァルへと斬りかかった。


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