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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
14/24

5年前-4

ギィン!

「ぐぁっ・・・!」

亡者の腕に軽々と剣を弾き飛ばされて、マルクは尻餅をついてしまった。

「(流石に無理があったかな・・・)」

もうダメかとマルクが諦めかけていたその時に、

「うおおおお!」

後ろからそれは聞こえた。

「何だ?」

余裕があるわけでもないのに後ろを振り返る。

すると、剣を構えたクーナがこちらへと駆けて来る。

「うらあ!」

そしてそのまま、兜割りの一撃でマルクに迫る亡者を一刀両断にした。

「ウィ、ウィンタースさん!?」

「クーナで構わないよ。それにしても、随分と無茶をするね、アンタは」

「ご、ごめんなさい・・・」

「別に怒っている訳じゃないさ。多分そこがアンタのいい所なんだろうからね」

「・・・」

存外に優しい言葉を掛けられた為か、マルクの動きが一瞬固まる。

「それよりも、だ」

クーナが亡者達に向き直る。

ギィン!

同時に襲い掛かって来た亡者の一撃を、剣で受け止める。

「はっ!」

それをクーナは力で押し返した。

「ここにいちゃ色々マズい。取り敢えずは逃げるぞ!」

同時にマルクに号令を掛ける。

だが、

「ダメだよ!まだ、フランがあそこに・・・!」

それに素直に従うというわけにはいかない。亡者達の壁の向こうには、フランがいるはずなのだ。

「何だって!?」

そうとなれば話は変わって来る。クーナは再び亡者達に向けて剣を構えた。

「(ざっと見て、数は20・・・)」

普通なら、赤の他人の妹など見捨てて行けと言われるだろう。

「(まぁ、そういう訳にはいかないな!)」

しかし、そうはいかない。それが散っていった弟達との約束でもあるのだから。

「さぁ、そこをどきな!」

掛け声と共に、クーナは群れの中に突っ込んでいった。


***


「そらぁ!」

パダカが放った風の刃を、

「フン・・・!」

バルボアは片手で易々と打ち消してしまった。

「その程度か?大口を叩いている割には、大したことがないな」

「・・・じゃあ、これでどうだよ!」

ブオン!

一回り大きな風の刃が、放たれる。

「そんな単純な技で・・・」

再びバルボアはかき消そうと右腕を振るう。

だが、

バシャ!

「ぬっ!?」

先程とは違う動き。刃の中から雨が弾ける。

「(今だ!)」

パァン!

ずぶ濡れになったバルボア目がけ、稲妻の矢を放つ。凡そ生物が耐えられるはずのない攻撃だ。

「(・・・ダメだ!)」

思うと同時にパダカは横に飛んだ。その後を、バルボアの火球が飛んでいく。

ドォン!

背後の瓦礫にぶつかり、爆発を引き起こす。

「のわぁ!」

爆風に飛ばされて、パダカが地面を転がる。

「痛っ・・・って!」

起き上がってみれば、既にバルボアが次の構えを見せていた。

「死ねぃ!」

「ぐっ・・・!」

ここまでか、そうパダカが思った刹那、

ダン、ダン、ダン!

「ぬぅ!?」

銃弾が三発、バルボアへと飛んできた。

その後を、

「パダカー!」

ダラスが、銃を片手に駆けてくる。

「ダラス!?止めろ、無茶だ!」

「ぬはは、目障りな貴族がもう一人・・・!」

ドン!

掌からダラスに向けて、火球が放たれる。

「・・・!」

シュッ!

それを見越していたかのように、ダラスは三つの瓶を投げる。

ボゥン!

それらは火球と衝突し、大量の泡をまき散らす。

「何!?」

泡はバルボアを飲み込むように拡がる。

「パダカ、来い!」

「お、おう!」

その隙を突いて、パダカはバルボアと距離を置いた。

「小賢しい真似を・・・!」

泡を振り払い、バルボアは二人と対峙する。

「フン・・・」

そして蔑むような嗤いを見せた。

「無力な貴族が二匹、この儂に挑もうと申すか」

「その通りだ。貴方の所業、見逃すわけにはいかない」

ギリ、と銃を握る手に力が入る。

「その為に、命を落とすとは何とも愚かな」

「お前がやってる事程、愚かなつもりはねぇよ」

「儂の行いを愚行と申すか、貴族風情が!」

バルボアが語気を荒げる。

「儂の行いは国の救済だ!滅びを待つだけの国に力を与え、より高みへと導く!そしてやがては世界に名立たる国家と成す!儂の愛国心があってこその国家実験、吸血鬼計画だ!それが分からぬか愚か者!」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよトカゲ野郎!!」

その語気を掻き消すように、パダカは声を張り上げた。

「今、何と申した・・・!」

「何度でも言ってやるよトカゲ野郎。救済、愛国心?成程そいつは大層ご立派な事で。でもな!」

死体の転がる路地裏を、指さす。

「どんなご立派な身分だろうと目的だろうと!あんな事が許される根拠なぞ何処にもねぇんだよ!!」

そして叫んだ。声の限り。それが、目の前の狂人に届くはずがない事が分かっていたとしても、叫ばずにはいられなかった。

「何を言っても無駄なようだな、屑貴族共」

バリ・・・

荷電粒子が、バルボアの掌に集まっていく。

「ならばまとめて、黄泉の国へと送ってやろうでは・・・!」

ザシュ!

「「「!?」」」

三者三様に驚いたのは、その直後だった。

「な・・・に・・・?」

バルボアの胸部、鱗の隙間を、クナイが貫いている。

ぐるりと、怒りの表情でバルボアは振り向く。このような芸当が出来るのは只一人だ。

「・・・」

果たしてそこには、ケツァルがいた。

「ケツァル・ベルデ・・・何のつもりだ貴様!」

「たった今・・・」

そう言うと、一枚の紙をケツァルは取り出した。

「バルボア・モール、貴公の抹殺指令が下された。国家の、正式な決定だ」

「な、何だと!?」

バルボアが目を丸くする。自分の意思を通さずに、国家の決定が下るなど考えられない。

「わ、儂の意見はどうなっておる!?」

「・・・貴公は委任状をギルダー・デリゲート殿に提出したと記載されている」

「ぐっ・・・!」

王宮から離れた、自分の迂闊さが招いた結果だった。あの紙切れ一枚に、自分は殺されるのだ。

「お命、頂戴する」

「クッ・・・カカカ・・・!」

バサリと、バルボアの翼が展開する。

「ウォォオオオオオ!!」

そしてまずはケツァルに襲い掛かった。

「!」

すぐにケツァルは姿を消すが、

ピク

嗅覚で場所を突き止めると、

ドォン!

「!?」

ケツァルの身体を蹴り飛ばした。

「ガァアアア!!」

勿論それで終わる訳はない。反転すると今度はパダカ達に襲い掛かった。

ガッ!

右手でパダカの、左手でダラスの首を掴むと、

ダァン!

そのまま煉瓦の壁に叩き付けた。

「ぐおぁああっ・・・!!」

「くっ・・・!」

「貴様らは、貴様らは必ずコロス!!」

首の締め付けが強くなる。

「(!)」

同時にダラスが動いた。

ジャッ!

両袖からデリンジャーを取り出し、

パァン!

至近距離からバルボアの顔面に撃ち込んだ。

「ガァァ!?」

怯み、二人の拘束が解ける。

「(行ける!)」

大口径のリボルバーを取り出すと、魔導弾を装填。

「チェック!」

ダラスの声を認識して魔導弾が光る。

ドォン!

「!?」

放たれた光弾はバルボアの身体を拘束する。

「やれパダカ!」

「お・・・ぅ!!」

軋む身体を無理矢理動かす。

ギュィィイ・・・

全ての天気を右足に詰め込むと、

ダンッ!

飛びあがり、

「うおおおぉぉ!」

バルボア目がけ、蹴りを繰り出す。

「付け上がるなぁ!!」

ボゥン、ボゥン!

拘束されながらも、迎撃するようにバルボアは火球を繰り出した。

ドゥン、ドゥン!

しかしそれらは悉くパダカの右足に打ち消され、

「うらぁぁぁああぁ!!!」

ズドォォオオォン!!

パダカの必殺の蹴りはバルボアに直撃した。

「ぐおおおおおおおお!!!??」

衝撃を殺しきれず、爆ぜるようにバルボアは地面を転がる。同時に内部から電熱による炎が身体を包んでいく。

「ぬ、・・・ぬぉぉ・・・おお!」

それを無理矢理抑え込むと、

「こんな所で・・・こんな所で儂は死なぬ・・・!」

翼を広げて、飛び去って行った。


***


「はぁっ!」

クーナが振り下ろした剣が、三体目の亡者を斬り捨てた。

「(まだ、遠い・・・!)」

だがまだまだフランの姿は見えて来ない。

「(もたもたしている場合じゃないってのに・・・!)」

気持ちばかりが焦る。

「うわっ!」

その気持ちを逸らせるようなマルクの声が、後ろから響く。

「どうした!?って・・・!」

見れば、後方からも敵。マルクに一歩一歩、にじり寄って行く。

ガッ!

そこに気を取られた隙に、クーナの両腕が亡者に拘束される。

「しまっ・・・!」

「クーナさん!うわぁ!」

そしてマルクもまた、亡者の腕に絡みつかれる。

「マルク!」

何をやっているのだ自分は。身内一人も助けられず、勇ましく駆けつけては無能ぶりを発揮しているだけではないか。

「(このまま・・・)」

このまま死ぬのか。何も出来ず、無念を残したまま死ぬのか。

『ガァ・・・』

亡者の口が、開く。

「(そんな事・・・!)」

牙が、近づく。

「(認めてたまるかぁ!!)」

ドォン!!

クーナの内側から、爆ぜるように力が溢れだす。

「うぁあぁああああ!」

叫び、そして

ザン、ザン、ザン!!

大地から鋭利な石柱が現れ、亡者達を串刺しにしていく。

ものの3秒で、そこには亡者の速贄が出来上がっていた。

その向こう側で、

「あ・・・」

呆けた顔でフランがこちらを見ていた。

「フラン!」

「お兄様!」

マルクがフランに駆け寄り、強く抱き合う。

「(今のは・・・?)」

その横で、クーナは自分の覚醒した力に当惑していた。


***


「ハァッ、ハァッ・・・」

雨の降りだしたマラッカの道を、バルボアは邸宅に向かって進んでいく。

「(認めんぞ・・・儂があんな輩に・・・!)」

再び態勢を立て直し、次こそは葬ってやると、歪んだプライドが囁く。

「ぐ、ぉ・・・!」

バシャ!

だが心に身体がついていかない。醜く、水溜りに身体を投げ出してしまう。

「まだだ・・・この程度・・・!」

パチャ・・・パチャ・・・

身体に力を入れるバルボアの下へ、何者かが近づく。

「ん?・・・貴様!」

それはギルダーだった。バルボアの顔にたちまち憤怒の色が現れる。

「哀れな・・・だがそれが報いだバルボア・モール」

「報いだと・・・?この儂が、報いを受けねばならぬだと!?」

「そうだ」

抑揚なく、ギルダーは答える。

「貴方が吸血鬼計画を私物化していた事など、誰の目に見ても明らかだ。どれだけ理由を取り繕っても、それは隠せない」

「馬鹿者、儂は本気でこの国を・・・!」

「その前に、国を我が物にするつもりだったのだろう」

「ぐっ・・・」

何も言い返すことの出来ないバルボアに、ギルダーは溜息を一つ。

「・・・私が何故ここに来たか、それを説明する必要はないだろう」

「儂を殺しに来たか」

「そうだ。既に貴方の邸宅は国に接収された。そして、」

ギルダーは懐から未完成の血清を取り出した。

「これもだ」

「・・・!」

最早自分には何も残されていない。その事を自覚した悔しさに、バルボアの顔が歪む。

「これは、私が受け継ぐ」

「・・・何?」

だが続いた言葉に、バルボアの顔が元に戻る。

「貴様が引き継ぐだと?」

「そうだ。貴方とは違う。私は純粋に国のために、これを使いこなしてみせる」

「ウッ、ウハハハハハ・・・ハハハハ・・・!」

真面目に言い放ったギルダーの言葉を、バルボアは楽しそうに嘲笑った。

「そんな事が出来るものか。いくら貴様が清廉な騎士とはいえ、必ずその力に飲まれる!それ程までに、その力は甘美なものなのだよギルダー君」

「もう一度言おう。私は貴方とは違う」

「その力が、クローネ・フォルツァを蘇らせる事が出来ると言ってもか?」

「!」

ピシャァ!!

雷鳴と共に、稲妻が煌いた。

「ウハハ、ウワッハハハハハ!!」

その音に負けんばかりに、バルボアは笑い立てた。

「見ろ、たった一瞬で揺らぎおった!所詮その程度なのだ貴様は!」

「・・・もういい・・・!」

右手を、静かに振り上げる。

「苦しめ!力に惑わされろ!!」

「―グロリアスカノン―!」

ドォオオン!!

光の柱が、バルボアを押し潰した。


***


「こっちを曲がれば・・・!」

迂回路を辿って、ルフィヤが走る。この角を曲がれば、パダカと合流できるはずだ。

「パダカ様!」

果たして彼女の予測通り、主の姿はそこにあった。

但し

「よう・・・ルフィヤ・・・」

駆け寄った彼女が見たものは、ダラスの横で衰弱した弱弱しい主の姿だった。

「なっ!?フロイト様、これは!?」

「・・・先程の戦いでな」

バルボアに二人が叩き付けられた時、運悪くパダカの背中に少し飛び出た配管が刺さってしまったのだ。

「そうとも知らず私はパダカをっ・・・!」

「よせよダラス・・・」

力なく、パダカは口を開いた。

「パダカ様!」

「パダカ、あまり喋るな・・・もうすぐ国の医療団が到着する。それまでは安静に・・・」

「いや、間に合わねえよ・・・」

最早悟りきったようにパダカは言った。

「だからさ、ちょっと喋らせてくれ。何、時間は取らねえよ」

構わず話を続けるパダカを、二人は止めなかった。

「ルフィヤ・・・」

「はい・・・」

「マルクとフランを、頼む。特に、マルクの方を、な・・・」

「・・・はい・・・!」

「何だ、お前も泣いたりするんだな」

「っ・・・!」

「はは、悪い悪い・・・」

そして今度はダラスを向く。

「ダラス、お前にも頼む。だが、フォルツァからは、距離を置くんだ」

「・・・何?」

「フォルツァとフロイト。二つの家が近ければ、必ず国はいつか潰しに来る。俺とお前は、距離が近すぎた。どちらかが欠ければ、チャンスと見ていつでも潰せるようにしてやがるのさ。この馬鹿げた計画に、強硬な反対が無かったのも、それがあるんだろうよ」

「・・・」

「辛い事を押し付けて悪いけどな、あいつ等に、マルクとフランに嫌われてくれ」

「・・・良いだろう」

短く、ダラスは返事をした。彼もまた、長い返事をする余裕などないのだ。

「何だよお前ら、しみったれた顔しやがって・・・」

「パダカ・・・!」

「んじゃ、な・・・」

「(!!)」

一瞬、本当にその一瞬で、生が死に切り替わるのを、ダラスは感じ取った。

「(クローネ・・・俺もそこに・・・)」

「ダメだ、諦めるな!パダカ、おい!!」

「(あんまり名前呼ぶなよダラス・・・)」

ダラスの腕の中で、パダカが僅かに微笑む。

「(眠れないじゃねぇか)」


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