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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
13/24

5年前-3


「こっちだフラン!」

フランの手を引いて、マルクが路地裏をひた走る。

大通りまで出てしまえば取り敢えず安心だ。だが、かなり奥深くまで進んできてしまったせいか、まだまだ光は見えてこない。

『ガァァッ!』

「うわっ!」

おまけに、どんどんと亡者の数は増えてきている。このままでは全ての道が塞がれてしまうだろう。

「お、お兄様・・・!」

「戻るぞフラン!この道はもうダメだ!」

「は、はいっ・・・!」

少々強引にフランの手を引いて、マルクは新しい道を探す。だが、その足取りに計画性は無い。進めば進むほど、迷い込んでいく。

マルクだってそれを分かっていない訳ではない。ただ、足を止めてしまえばそれまでなのだ。最悪の選択を回避する為に、ひた走る。

「きゃっ!」

不意に、マルクの手にガクンと重みが掛かる。フランが何かに躓いてしまったのだ。

「お、おいフラン。大丈夫か?」

「は、はい・・・でも、ちょっと・・・待ってください・・・」

明らかにフランの息は上がっている。普段から運動はおろか外に出ることすら稀なのだ。いきなりこんな状況に身体が対応できる訳もない。

『グルル・・・』

「「!」」

そして、亡者が角から一体。タイミングとしては、最悪だ。

「(フランは・・・無理か・・・)」

これ以上、妹に負担を掛ける訳にもいかない。元々は、自分がここに来てしまったのがいけないのだ。

スラァ・・・

腰の剣を、抜き放つ。

「お兄様!?いけません!」

「大丈夫だフラン。兄ちゃんが、お前を守ってやるからな・・・!」

戦うのが、自分の責任だ。

「(それにまだ相手は一体・・・!)」

やってやれない事も無いはずだ。

「うおおおぁぁぁ!!」

叫び声を上げながら、マルクは踏み出した。

「(え?)」

自分の身体が宙を舞っていることに気が付いたのは、その直後だった。

ドサッ!

正面から立ち向かったのに、亡者の背後まで投げ飛ばされていた。

「い、いや・・・来ないで・・・」

フランが直接、亡者と向き合ってしまう。

「クソッ!逃げろフラン!」

だが、

クルリ

まるで襲う意志など全く見せないように、亡者は振り返りマルクに対峙した。

「(え?)」

一瞬、戸惑いが生じる。しかし、思考の時間を与えてはくれない。

『ガァァ!!』

「うわっ!」

襲い掛かる亡者に、再びマルクは吹き飛ばされた。


***


バルボア・モールの邸宅。

ここに、国の調査が入り込もうとしていた。

ただ調査といっても大規模なものではない。1人の貴族が特命を貰い、1人のエージェントを引き連れて行う小規模なものだった。

「どうだ、アルバ?」

その貴族はダラスである。亡者が溢れかえったという一報を聞いてすぐ、彼はすぐ王の下へ向かった。

そして事情を簡潔に、しかし無駄なく説明し、バルボア・モールへの強行調査権を王より貰ったのだ。騒ぎそのものへはどうせパダカが向かっているだろうと思いながら。

「・・・静かだね。何というか、生気が感じられない・・・」

館に忍ばせた影を全て身体に戻すと、アルバは報告を行う。

「静かだって?」

「・・・」

首肯でアルバは答えた。

「(妙だな)」

計画を実行しているのはほぼ間違いなくバルボアだ。その確信がダラスにはある。

国の金銭を管理しているダラスにはバルボアの周りで渦巻く汚い金の流れが筒抜けだったからだ。

しかし実行に移しているこのタイミングで邸宅が静かというのはどういう事だろう。彼は黙って計画の進行を見つめていられる程大人ではない筈だ。

「どうする、ご主人?」

「・・・」

暫し、考える。

「行こう。アルバ、先行してくれ」

そして考えが固まった。何かの罠の可能性は非常に低い。ならば、行かねばなるまい。

館にいるであろうバルボアを、止めねばならないのだから。

「OK」

ギィ・・・

正門から、堂々と入っていく。

「・・・」

いつでも主を守れるようにアルバは影を展開するが、

「・・・あっけないね」

特に何の罠に会う事もなく、正面玄関まで辿り着けてしまった。

「(・・・まさか)」

その扉に、手を掛ける。

ガチャリ

するとダラスが予想した通り、鍵は掛けられていなかった。

「「!」」

だが館の中の光景は、2人とも想定していなかった。

「これは・・・」

「・・・酷いね」

館中で、使用人が倒れていた。それも只倒れている訳ではない。

一部だけ肥大化した筋肉、変形した顔、内側から爆ぜたような死体。誰もかれも、まともな死に方をしていない。しかし、その中にはバルボアらしき人物はいない。

バルボア本人はこの館にいないのである。

「一体何が・・・いや・・・」

これで疑いは確信になった。今回の騒動、その主犯がバルボアであると。彼等はバルボアの実験台にされてしまったのだろう。

「何て惨い事を・・・」

「!ご主人!」

ドンッ!

感傷に浸るダラスを、アルバが突き飛ばす。

ゴォッ!

直後、火の球がアルバを襲う。

「くぅっ・・・!」

身に纏った影で何とかそれを防ぐ。

残った火の粉を振り払うと、ダラスとアルバは球が飛んで来た方向に視線を移す。

「あの子・・・?」

「・・・」

視線の先には1人の少女。それもアルバと同じくらいの年の少女だ。左腕には鎖が巻き付けられた分厚い本を持っている。

その顔はひどく怯え、錯乱状態である。

「帰って・・・こっちに・・・来ないで・・・」

「怖がらなくてもいい。私達は・・・」

「来ないでって言ってるでしょ!!」

―FRAME―

ドゥン!

再びダラスに向けて、火球が放たれる。

ボゥン!

その球は、再び影に阻まれた。

「このっ・・・!」

鋭い瞳でアルバが少女を睨むと、影を練り上げて巨大な拳を創り出す。

「ひっ・・・!」

少女の瞳には怯えの色が宿る。

「止めるんだアルバ!」

「?どうして?」

「戦っては・・・いけない・・・!」

この子は、違う。討つべき者じゃない。

スッ・・・

ゆっくりと、少女に歩みを進める。

「い、いや・・・」

「大丈夫。私は君に酷い事なんてしない」

「・・・違う。嘘つき!」

―VOLT―

バリバリバリ!

「ぐぉぁぁ!」

電撃が、ダラスに走る。

「(やっぱり、魔術師・・・!しかし何故・・・?)」

「ご主人!」

「大丈夫だ!」

戦闘態勢に入りかけたアルバを、ダラスが制す。

「(この子を抑えるのに必要なのは力じゃない・・・!)」

倒れかけた身体を無理やり両足で支え、ダラスは再び歩み出す。

恐怖を与えないように、ゆっくりと。

「怖い・・・怖いよ・・・!」

それでも尚、少女は止まらない。

―TYHOON―

「みんな・・・私に乱暴する・・・だったら・・・みんな、みんな・・・!」

今度は両の手に風を纏わせる。

「(これは、マズイ・・・!)」

その風は、尋常なものではない。このまま発動されてしまえば、自分はおろか、アルバの命も危ない。

「止めるんだ・・・!」

「消えてしまええぇぇー!!」

「止めるんだっ!」

ダッ!

ダラスが、少女へと駆け出し、

ギュッ・・・!

その身体を、抱きしめる。

「え・・・?」

「辛かったんだな・・・あんな男に囚われてしまって・・・君がどれ程の屈辱を味わって来たか・・・ちっぽけな私には想像も出来ない・・・」

ヒュォ・・・

纏った風の力が、薄くなる。

「でも、もう大丈夫だ。ちっぽけな私だが、君を救い出すことは、出来る」

「・・・」

「家に来なさい。君を、新たな一員として迎えよう」

「・・・」

ギュ・・・

風を解いて、少女はダラスの身体に手を回す。

そして緊張の糸が切れてしまったように、ガクンと気を失った。

「ご主人!」

アルバが駆け寄って来る。

「大丈夫かい?ケガは・・・?」

「ありがとう。大丈夫だよ」

「・・・よかった。しかし、彼女は一体・・・?」

「多分・・・いや、彼女は魔術師だ。間違いない」

「魔術師・・・」

アルバもその名前は聞いた事がある。しかし、魔術師を生み出す実験は失敗に終わったはずだ。

「君と同じように、私も驚いているよ。でも先ほどの能力を見る限り、魔術師以外に考えられない」

「それを、バルボアが捕えていた・・・」

「そうだね。どんな手を使ったのか知らないが・・・全く、権力という奴は厄介なものだ」

そして恐らく、吸血鬼の血清とやらは、彼女の力に因る所が大きいのだろう。何という外道だ。

「・・・所でご主人?」

「何だ?」

「バルボアは、一体何処へ行ったんだろうね?」

「・・・」

暫しの沈黙の後、

「しまった!」

叫んでダラスは走り出す。

「ちょ、ちょっとご主人!?」

「アルバ、その子を頼む!」

完全に失念していた。ここにいないという事は、バルボアは自ら現場に行った可能性が非常に高い。

血清の完成に、自ら近づく為に。

そしてそこには

「(パダカがいる!)」

鉢合わせになると、危険だ。バルボアの強さは、本物なのだ。

「(くそっ!)」

少しでも早く、気ばかりが焦る。

「・・・」

その背中を見送って、

「取り敢えず、連れて帰るか・・・」

アルバは少女の身体を持ち上げる。

少女の名はリエル・エルメス。

魔術師計画被験者の内、唯一の成功体だ。


***


『ぐぁああ・・・』

路地裏の死闘は、クーナ達が押され気味となっていた。

「おい、大丈夫かい!?」

『アイツはダメです、姐さん・・・』

「何人残った?」

『半分です・・・』

まだ生き残っている者達の声も覇気に欠ける。

「(負け戦ってのは分かってたけどさ・・・!)」

それでも、諦めたくはない。

「ほら、アンタ達!シケたツラしてないで・・・!」

ガシャァァァン・・・!!

檄を飛ばそうとしたその時、クーナの後ろ、少し離れた所から何かが崩れ落ちる音がした。

「今度は何だってんだい・・・って!」

振り返って、クーナは目を丸くする。

視線の先では、マルクが亡者相手に剣を振るっていたのだ。

だがその太刀筋はどう見ても素人。たった1体相手に、完全に押されている。

「あのガキ・・・まだあんな所にいたのか・・・!」

放っておけば、間違いなく死ぬだろう。

「(だからと言って・・・)」

『姐さん!』

踏ん切りの付かないクーナに、声が掛かる。

『行ってください!』

「!?」

続けて飛んで来た声に、クーナは当惑する。

「な、何言って・・・!」

すると舎弟達は顔を合わせて笑い合った。

『行ってくださいよ、姐さん』

『どの道、ここはもうダメですしね』

『少しでもあのバケモノ共を足止め出来るように、頑張っときますから』

「アンタ達・・・!」

『いや~しかし、あのガキは羨ましいなぁ』

『全く』

『頑張って面倒見てやって下さいね~姐さん』

ハハハ、と、いつもの笑い声が響き合う。

「・・・この、馬鹿共が!」

泣きながら、クーナも笑っていた。

こんな光景も、これで最後。

『・・・姐さん、俺達の事、忘れないで下さい』

「ハッ!」

まだ、クーナの涙は止まっていなかった。

「アンタ等みたいな馬鹿共、忘れられる訳ないだろう!」

『そいつぁ、ありがたい事で!』

『よっしゃあお前等!もう一寸、根性入れていくぜぇ!』

『『『うぉぉおおぉぉ!!』』』

そして彼等は全員、二度と戻らぬ戦いへ赴いていく。

「・・・ホント馬鹿だよ。アンタ等も、アタシも・・・」

クーナは剣を構えると、

「感謝しなよ、クソガキ!」

彼等とは反対の方向へ、駆け出した。


***


「くそっ!一体どんだけいやがんだ!」

「・・・キリがありません」

一体一体薙ぎ倒しながら、パダカとルフィヤは路地裏を進む。進めば進むほど、亡者の数は増えていくようであった。

心には焦りがある。一刻も早く、子供達の下へ辿り着かなければならないと。

ドォン!!

その焦りが、崩れて来た壁への対処を少し鈍らせた。

ガラガラガラ・・・!

「ルフィヤ!」

「パダカ様!」

2人の間に瓦礫が積もり、彼等は分断されてしまった。

「くっ・・・しょうがねぇ、俺だけでも先に・・・!」

「そうはいかんよ」

そこに、耳障りな声が上から響く。

声の主は、パダカには分かっている。

「バルボア・モール・・・」

「如何にも」

フワリ、とバルボアは地に降り立った。

ザッ・・・!

パダカは、臨戦態勢を取る。この男が黒である事は、ほぼ間違いない。

「おいおい、どうしたねフォルツァ君?」

「今更とぼけないで頂きたい。貴方が今回の騒動に関わっている事は分かっている。国の金を、横流しした事も」

「横流しとは人聞きの悪い。アレは予算計画で決まった事だ」

「議決の場には、貴方の支持者以外いなかったとダラス・フロイトから聞いております」

「あの男・・・余計な事を」

忌々しそうに舌打ちをする。やはり、黒だ。

「それで、だったらどうする?」

「貴方を倒す・・・と言いたい所ですが・・・」

それよりも、優先すべき事がある。

「今は貴方に構っている暇もないので。失礼致します」

そしてバルボアの横を通り過ぎようとする。

「・・・」

その道を、バルボアが塞いだ。

「何ですか?」

「儂はな・・・」

ギョロっとバルボアの目玉がパダカを睨む。

「貴様に用があるのだよ!」

ギュォッ!

「!」

薙ぎ払われた右腕を、紙一重で躱す。

「バルボア・・・貴様何を・・・!?」

「ククク・・・」

下劣な嗤いがバルボアから漏れる。

そして彼は一本の針を取り出した。

「それは・・・」

「血清だよ、フォルツァ君。遂に私は完成まで後一歩の所までこぎつけた」

「・・・」

「そして今回の実験で、分かった。確実に吸血鬼化を進める為に必要な物、それは『血』であると」

「血・・・?」

「いくら路地裏のクソ虫共に針をぶち込んでも覚醒しない訳だ。あのゴミ共には資格がない。偶然でも1体位覚醒して貰いたい所だったのだがなぁ」

「それと俺の血に、何の関係がある?」

「ハッ!」

見下すように、バルボアが嗤う。

「まだ分からんのかね?吸血鬼の血清に必要なのは、貴様の高貴な血なのだよ!純粋な、貴族の血を持つ、貴様のな!・・・今から、貴様を吸血鬼にしてやる。そして貴様からさらに血を抜き出し、新たな吸血鬼を生み出していくのだ!ハハハハ・・・!」

「何故だ?」

「あん?」

「何故そんなに、吸血鬼の力を欲する?」

「そんなもの、単純だ!純粋に力が欲しいのだよ私は!この世界の、誰よりも上に立つ強大な力が!」

ギリッ!

パダカが、奥歯を噛みしめる。

「そんな・・・そんな幼稚で身勝手な欲望の為に!これ程の犠牲を払ったというのか、貴様は!!」

「ハハッ、何とでも言え・・・」

バキバキバキ・・・

バルボアの腕が、鱗のようなものに包まれていく。

「いつの時代も、力ある者が正義なのだ。」

―竜騎士―、その二つ名を持つバルボアが、力を解放していく。

あっという間に、バルボアの全身は鱗で覆われた。

宛ら、いや竜人そのものが、そこには立っていた。

「さぁ・・・その血を私によこせ・・・!」

「へっ・・・」

その姿を見ても、パダカは全く臆さない。

「嫌に決まってんだろ。能無しが」

ヒュォォ・・・

パダカが、全身に風を纏う。

「そらぁっ!」

そして風の刃を、バルボアに向けて繰り出した。


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