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スケープゴートの逆襲  作者: おにすずめ
10/24

二度目の迎撃


『ニュルタム歴754年、銀の月13日

最近、王宮で不穏な言葉を耳にする。『革命』だの『戦争』だの。

しかしこれはどうやらゴルドの事ではないらしい。隣国、ゲヴェールの事だ。

元々内部が完全に腐っていたあの国だが、遂に倒れたらしい。異世界から英雄がやって来て、民を導いたの何だの。これが『革命』だ。

で、その勢いに乗ってこの国にまで攻め込んで来ないかという心配。これが『戦争』だ。

そんな心配などないだろう。新しい国が出来るというのであれば、体制の立て直しに時間が掛かる。しかもあの国だ。殆ど1から作るに等しい。異世界から来た英雄とやらがどれだけ有能なのかは知らないが、今日明日に戦いが起こるとは思えない。無駄な心配は民に不安を植え付けるだけだ。

しかし、もう1つ不穏な言葉を耳にする。

『吸血鬼』

確かにその言葉を聞いた。

1回切りではあったが確かに聞いた。

これは、何なのか』


パダカ・フォルツァの手記より


***


ヴォン・・・

ディルハム卿のモーターが唸りを上げると、

フォンフォンフォンフォン・・・!

両手のマニピュレーターが、サーベルを持ったまま回転する。

さながら刃の扇風機だ。触れれば一瞬でミンチになる事間違いなし。

「随分と、面白い芸を持っていますのね」

それでもエリーが余裕を崩すことはない。

「その余裕がいつまで持つかな?」

ジリ・・・

一歩一歩、恐怖を煽るようにディルハム卿は近づいていく。

「フハハハハ、どうだ怖かろう!」

嗜虐の悦に浸りながら、下卑た嗤いを浮かべる。

「・・・それほどでも」

そこへ、エリーは思い切った行動に出た。

ギィン!

強化した左腕を突き出し、刃の回転を無理やり止めたのだ。

「何ィ!?」

エリーの能力を知らないディルハム卿は、必然、対応が遅れる。

「フフッ♪」

そのまま刃を上に弾かれ、

「グゥッ!?」

懐に潜り込んだエリーに、肘打ちを食らった。

強化された一撃が、鋼に包まれた身体に重く響く。

「(何だこの小娘は!?)」

だが、ディルハム卿は下がらない。

「小娘がぁ!」

鋼の足で、エリーの身体を前方に蹴り飛ばした。

ドォン!

正面の石壁に、エリーの身体がめり込む。

「ハァッ、ハッ・・・」

久しぶりに、ディルハム卿の息が上がる。

「(この小娘、異能者か・・・)」

それならば先ほどまでの余裕も解せる。殺気を隠そうともせず、不意も撃たないとは中々に勇敢だったのかもしれない。

「だが、愚か者だったな」

吐き捨てると、ディルハム卿はエリーに背を向ける。

ガラ・・・

しかし、歩み出す前に意識を後方に取られた。

「(まさか・・・)」

先程の一撃は確かに『入って』いた。内臓が、全て砕け散る勢いを叩き込んだはずだ。

「ウフフ、中々いいモノをお持ちですわね・・・」

ディルハム卿は再びエリーの方を向く。

立っている。あの一撃を叩き込まれた人間が、両の足で立っている。

「ただの異能者ではないという事か。面白い!」

久々に、いきり立つ。

「ならば私のとっておきを見せて・・・!」

そこまで言った時、

ドサリ

不意に、エリーが倒れた。

「ぬっ?」

何が起きたのか。その思考を巡らせる前に、

「そこまでにしておけ、ディルハム卿」

小娘を倒した張本人の真面目腐った声がする。

「ギルダー、貴様の仕業か」

横槍を入れられたと知り、聊か不機嫌な様子で返答する。

「その通りだ」

「何を考えているのだ。他人の闘いに横槍を入れるなど・・・」

「『何を考えているのか』ならば、こちらから問うべきことだと思うのだが」

「何?」

「ディルハム卿、貴方に与えられた使命は『ダラス・フロイトの誘拐』のはずだ。無駄な殺戮と争いは、騎士たる者の本懐に反するぞ」

「細かい事をグチグチと・・・!」

「王宮に戻れ。それと貴方は、日頃の素行から見直した方が良い」

「・・・フン」

納得がいかない表情を浮かべながらも、素直に従う。こちらは次席であちらは首席。位が1つ違うだけだが、それが大きいのだ。

「(青二才が、今に見ておれ・・・)」

「・・・」

恨み節を噛み殺した彼の背中を、ギルダーは黙って見ていた。

そして、視線を倒れたエリーに戻す。

「(フォルツァにこの様なメイドがいたとは・・・聞いていないぞ)」

だがそこまでの脅威ではないと判断したのか、すぐにその場を後にした。


***


『March!』

楯を構えた騎士を最前列に、騎士達が行進を始める。

「な、成程なぁ。じわじわと相手に恐怖心を植え付ける戦い方か」

その光景を見て、マルクは少しばかり恐怖心を煽られる。

「ですね。流石はディルハム卿直轄の第二班といった所でしょうか」

ルフィヤは相も変わらず無表情だ。

「最前列に盾を構えた騎士。その後ろを大勢で追従する、か」

「理に適っています。あの楯ではボウガンはおろか、投槍も、銃弾も通さないでしょう」

「じゃあ俺達は、あの行進になすすべなく踏み潰されてしまうのかな?」

「いいえ」

ここで、ルフィヤに悪い笑顔。

「そんな事はありません」

その瞬間

バチン!

何かが閉じる音。同時に騎士の行進が止まる。

『何だ!どうした!?』

『ト、トラバサミです!』

最前列の騎士達が、甲冑の上から罠に掛かった。負傷は無いが、動きが封じられる。

「マルク様」

「ああ。止まったぞ、やれ!」

マルクから合図が出ると、フォルツァ邸の二階の窓が全開になる。

『なっ!?』

そこから覗いたのは、4門の大砲だった。

「撃て!」

ドォン!!

轟音を響かせて、大砲が無慈悲に発射される。

『ぐわぁぁぁ!!』

最前列の騎士は粉々になり、後方の者達も爆風に飛ばされる。

「次弾装填急げ!」

『くそっ!装填される前に侵入しろ!急げ!』

騎士達は陣形を解く。固まっていてはいい的だ。

「そう来ると思ったぜ!三班、四班!ボウガン用意!」

マルクの指令が続いて飛ぶ。

「撃て!」

ヒュンヒュン!

音と同時に矢が飛ぶ。だがそれらは悉く山なりの軌道を描き、騎士達に命中する事は無い。

『フン、こけおどしが』

「そうかな?」

こんどはマルクに悪い笑顔。

ポンッ!!

その後に何かが弾けるような爆発音。そして、

『ぐわぁぁぁ!!』

金属片が、鎧の隙間に突き刺さる。

『さ、炸裂弾だ!矢に炸裂弾が括り付けてあるぞ!』

騎士達の言う通り、ボウガンの矢には金属片を撒き散らす榴弾が付いていた。

「こうでもしないと勝てないんでね!五班、六班続け!三班四班は再装填!一班二班は大砲の準備を急げ!面だ!徹底的に面で攻撃しろ!七班八班は五、六班に続け!奴らに頭を上げさせるな!!」

『このっ・・・!飛び道具とは卑怯な!』

「卑怯?舐めて正面から突っ込んで来る方が悪いんだ。」

『ならば、もてなしに応じてやろうじゃないか』

一人の騎士が槍を取り出す。

そして、

ヒュン!

二階を目がけて投擲した。

「危ねぇ!」

マルクが叫んだ時はもう遅い

ドサリ

首に短槍を突き刺したメイドが、庭に落ちる。

「あ・・・」

『我らも続け!』

それを皮切りに、次々と短槍が投擲されていく。

ドサリ、ドサリ・・・

次々と、メイド達が落ちてくる。

グチャ・・・!

飛び散った肉片が、マルクの顔に付着する。

「あ、ああ・・・」

「マルク様、撤収命令を!」

「・・・」

「マルク様!・・・全班、館の中に戻りなさい!早く!」

呆然自失としたマルクに代わり、ルフィヤが指示を出す。

「マルク様、貴方も!」

「で、でもよ・・・」

「ここは私が持たせますから!」

ドン!

ルフィヤはマルクを館の中へと突き飛ばした。

ガチャ!

そして扉が閉じられる。

『マルク様!』

転がったマルクに、撤収したメイド達が駆け寄って来る。

『マルク様、お怪我は・・・?』

服に付いた血を見ながら、彼女達が心配する。

「大丈夫。俺の血じゃねぇよ。・・・それより、何人やられた?」

『8人です・・・あの、ところでメイド長は・・・』

その言葉に、呆然とさせていた意識を回復させる。

「ルフィヤ!」

何をしているのだ自分は。あの状況で、彼女を1人置いてきていい訳がないだろう。

ガッ!

はやるその身体を、メイド達が抑えた。

「お、おい!」

『いけません!この状況では死んでしまいます!』

「で、でもよ!ルフィヤが!」

『あのお方は大丈夫です、大丈夫ですから・・・!』

確かにルフィヤは強い。そんな事は分かっている。

「けどアレじゃいくらルフィヤだってよ・・・!」

メイド達の手を、無理矢理解こうとする。

ガチャリ・・・

その時、いつもの様に玄関の扉が開いた。

「只今戻りました」

そして、いつもの様にルフィヤが帰って来る。

「え、ルフィヤ?」

メイド達に抑えられながら、間抜けな顔でマルクが言う。

「はい」

それに、いつもの様な無表情でルフィヤが返す。

「えっと、騎士達は・・・」

「追い返しました」

平然と、彼女は即答した。

「・・・マジか」

開いた口が塞がらない。

「はい。敵の陣形もバラバラで、1人ずつ突撃してきましたので。追い返すのは簡単でした」

「お、おう・・・」

最早突っ込みも入れるまい。

『や、やっぱりすごい・・・』

メイド達も唖然としながらマルクを放す。

「そ、その何だルフィヤ・・・」

未だ落ち着かない心が外に現れない様、マルクは慎重に言葉を出す。

「何でしょう?」

「お茶にするか」


***


「ん・・・」

フランの目がゆっくりと開いていく。

「ここ・・・は・・・?」

見覚えが無い事は無い。この豪華な壁紙は、

「王宮?」

そのどこかと考えられる。

「・・・お目覚めかい」

その推測は正しいようだ。

「クーナ・・・さん」

「久しぶり、と言うのもおかしいかな?」

「いえ、直接お話しするのは久しぶりだと思います」

「そうか、そうだったな・・・」

中途半端に、会話が途切れる。

「何があったというのですか、クーナさん」

そしてフランから、問い。

「さてね。アタシは詳しく知らないよ」

それに明後日の方向を見ながらクーナは受け答えする。

「そんな事はない筈です」

その答えを、フランは是としなかった。

「へぇ、そりゃまた何で?」

「私をここに連れて来たのは貴女と同じ諌言の騎士、ケツァル・ベルデでした。しかし、彼は最初からは動かなかった。襲撃者を雇い、悪党を雇い、私を攫おうとしました。しかしそれらは全て計画性もない急ごしらえの様なもの。まるで時の狂いを許さぬ計画が急に狂い、それをその場凌ぎで繋ごうとしている様なものでした」

「・・・」

「しかし今、諌言の騎士が動いています。恐らく、残りのお二方も。時計の歯車が、直った様に。・・・クーナさん」

「何だい?」

「貴女ではないのですか。この計画に反対し、諌言の騎士の動きを鈍らせたのは。もしそうであれば、今私の身に何が起ころうとしているのか、貴方はご存知のはずです。貴女が反対していなくても、最早この一件は国が動いているとしか見ることが出来ません。諌言の騎士たる貴女に、その全容が知らされていないとは考えられない」

凛とした視線と言葉が、クーナに向けられる。

「・・・少ない手掛かりから、よくそこまで推理を積み上げたもんだね。何か証拠でも掴んでいるのかい?」

「特には、無いんですけど・・・」

少し、フランが俯いたがすぐにクーナに向き直った。

「クーナさんが、何か負い目を感じているように見えましたので・・・」

「・・・つまりは勘って事かい?」

「え、えへへ・・・」

どこか照れくさそうに笑う。何だかんだ言っても年相応の少女なのだ。

「・・・」

クーナはフランに歩み寄る。

そしてフランが座るベッドの隣に腰かけた。

「あ、あの。的外れだったら申し訳ないんですけど・・・」

「いや。アンタの勘は正しいよ」

「え?」

そしてハァ、と溜息が一つ。

「・・・いいよ、教えてあげる。この国が、何をしでかそうとしているか」


***


「どうぞ」

カチャリ、とルフィヤは紅茶の入ったカップをテーブルの上に置く。

「ああ、ありがとう」

マルクはそれを取って口元に持っていく。

「・・・青いな」

「マローブルーティーでございます」

「何とも斬新な・・・ところでエリーは?」

一口啜って渋い顔を作ると、マルクは気がかりな事を問う。

「路地裏で気絶している所をメイド達が保護しました。目立った外傷は無く、気絶しているだけとの事です」

「全く・・・何してたんだろな」

「思うに、ディルハム卿と交戦していたのかと」

「・・・アイツならやりかねない」

つくづくとんでもない奴を拾ってしまったと思う。そもそも何故あそこで自分は手を差し伸べたのだろうか。考えながら角砂糖を一つ摘まむ。

ガチャリ

そして角砂糖を入れたタイミングで、エリーが入って来た。

「エリー。もう大丈夫なのか?」

「ええ、お蔭様で」

エリーはそのままマルクの横に座る。先程の戦いが中途半端に終わったせいか、幾分不満の色が顔に現れていた。身体を揺すったり、悶々とした感じまで出ている。

「丁度いい所でしたエリー」

「何か私に用事でもございまして?」

「ええ。マルク様と貴女に伝えたい事がありまして」

するとルフィヤは棚から一冊の本を取り出した。

「・・・これは、親父の日記か?」

手に取ったマルクが物珍しそうに外観を眺める。こんな物を父が遺していたとは知らなかった。

「何やら付箋が貼り付けてありますわね」

エリーが目聡くそれを見つける。

「そこのページからお読み下さい。恐らくは今回の事件の真相に迫る事が出来るかと」

「・・・分かった」

促されるまま、マルクは本を開く。

エリーも隣から覗き込んだ。


***


ザッ!

「・・・51人目」

これで、全員だ。

遺体を埋め終えて、ダラスはスコップを置く。

「全員、終わったねご主人・・・」

その後ろから、力なくアルバの声が掛かる。

ダラスとアルバとリエルの3人は、あの後すぐフロイト邸に戻った。

そこに広がっていたのはまさに地獄ともいえる光景だった。

ある者は首をもがれ、ある者は四肢をもがれ、ある者は縦に両断されていた。

拷問でも受けたのか、指が潰されていた者や歯が折られていた者もいた。

しかし誰一人、背中に傷を受けていなかった。

リエルは卒倒し、アルバは目を背け、ダラスは只その光景を見つめていた。

その後アルバはリエルを介抱し、ダラスは死者を一人一人埋葬した。

散らばった肉片も、一片たりとも欠けずに集めた。

「リエルはどうだ?」

いつも通りの声がダラスから返って来る。

「・・・大分落ち着いたけど、まだショックを受けてるよ」

「アイツには、可哀想な事をしてしまったな」

リエルにとって、殺されたメイド達は本当の姉妹のようなものだった。アルバとは違い、彼女は家族というものを持っていなかったのだ。

「違う。ご主人は悪くは・・・」

言おうとして、言葉が詰まる。自分の言葉がさらにダラスを追い詰めはしないかと、そう不安になってしまったのだ。

その気持ちを察したのか、ダラスはニコリと笑って答えた。

「優しいな、アルバは」

「・・・」

そして墓の前で目を閉じ、そのままゆっくりと立ち上がった。

「アルバ、落ち着いたらリエルを連れて来てくれるか」

「・・・いいけど、どうするんだい?」

「少し、昔話をしたくてね」

「・・・分かったよ」

それ以上は問わず、アルバは館へ入っていく。

「(パダカよ、国は又愚行を繰り返すつもりらしい・・・)」

やり場の無い虚しさが、ダラスの胸を吹き抜けた。


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