果報は寝て待て
「綿抜!駅前の商店街で乱闘騒ぎがあって、うちの市長が殴られたんだって。大変だね。」
「……木藤。それが、お前が楽しみにしとけとか言っていた嘘か。そんな誰にでも見破られるような嘘で俺を騙せると思っているのか?」
正午過ぎに、生徒会の会議が終わった。そして昼食の弁当を食べていた俺に、早速近づいてきた木藤加奈子が放ったのは駅前商店街の乱闘騒ぎの話であった。しかも、何故市長が乱闘騒ぎに巻き込まれているのか。
俺も、家を出る前に朝食をとりながら、テレビを見ていたが、そんな報道は一切なかった。そんな馬鹿馬鹿しい嘘に騙される者がいるのか。小学生じゃ、あるまいし。
「ええ? 信じようよ。嘘じゃないからさ。」
木藤加奈子は必死に弁明しているが、そんなの嘘に決まっている。
とはいえ、「まあ、楽しみにしていなさい。」などと大見得を切っていたくせに、本当に子ども騙しの嘘をつくものだ。
「『嘘をつく』と堂々と宣言したやつの話を素直に聞くと思うか?」
木藤加奈子は自分の話を全く聞いてもらえないことに腹をたてたらしく、ムスッといじけた表情をしている。少し可愛いなと思いつつ、木藤加奈子の様子を眺めていると、遠目から、こちらの様子を見ていた内田百花と中野彩音と目が合う。彼女らはすぐに目をそらしたが、どうして、俺達の様子を見ていたのだろうか。
とにかく、木藤加奈子の幼稚な嘘に騙されることはなかった。これならば、今日一日不安に思うことはない。
そう思っていたら、会議後、生徒会のパソコンでニュースを読んでいたらしい黒田が、ガシガシと俺の方に近づいてきて、こう言った。
「駅前商店街の店で乱闘があったらしく、市長が殴られたらしい。びっくりだな。」
「な、なんだって。」木藤加奈子の言っていたのは嘘じゃなかったのか…。 俺は驚く。
「ほれ見なさい。人の言うことは信用しないといけないのよ。さっき、ネットのニュ―スで見たんだからね。」
木藤はしたり顔でそう言った。なるほど、たしかに会議前に内田百花と中野彩音と一緒にパソコンをいじっていたが、ニュースをチェックしていたのかということで合点はいったが、「嘘をつく」と堂々宣言したお前に信用を語る筋合いはないだろうと思った。
何でも、市長を殴った犯人は、商店街を歩いていた市長を見咎めて「お前の娘がちゃんとしないから、週末の桜祭りは雨が降るんだ」という意味不明な因縁をふっかけて、暴行に及んだらしい。
何てひどい事件なんだ。
そう思ったが、そのつまらない犯行動機には思い当たるものがあった。俺が商店街を通った時に、テレビの液晶画面を凝視していた和菓子屋の店主が犯人で間違いない。たしか、市長の娘が地域ニュースのお天気キャスターだったからな。それで、因縁をふっかけたのだろう。気持ちは全く理解できないが。
「俺、その事件が起こる直前に、和菓子屋さんの前通ってたんだよ。その直後に、こんな事件が発生するなんて、本当に何が起こるか分からないもんだなあ。」こんな嘘みたいな事件が身近で立て続けに起こるなんて。いやあ、人生って、本当にわからないなあとしみじみ思う。
「そうだね。」と木藤加奈子は答える。
「で、お前はいつ嘘をつくんだ?」と俺は尋ねた。嘘をつかれる前に、プレッシャーを与える軽いジョブだ。
「え? えっと、ふふふ……それは後ほどのお楽しみということだよ。綿抜!」
ここで会話が一瞬途切れ、ばつが悪くなったのか、木藤加奈子は俺からそそくさと離れて、内田百花と中野彩音のところへ行ってしまった。いつの間にか、黒田もその場から立ち去っている。
何が、後ほどのお楽しみだ。
俺は「四月馬鹿」と馬鹿にされないように、こんなに気を揉んでいるのに。窓の外を見ながら考えに耽る。すると、時々、女子連中の声が聞こえてくる。主に、中野彩音の声だ。彼女は黒田同様、少し声が大きい。
「かなこぉ、何しに綿抜のところに行ったのよ。」と木藤加奈子に対して、少し、お怒り気味であった。そんなの俺が知りたいよ。
そう思っていると、中野彩音に「もう、何でもいいから話しかけてきなよ。」と促されて、俺のもとに来た木藤加奈子が開口一番放った言葉はこれだった。
「綿抜!地球に隕石が落ちてきたんだって、大変だね。」
「…木藤。それが、お前が楽しみにしとけとか言っていた嘘か。そんな誰にでも見破られるような嘘で俺を騙せると思っているのか?」
駅前の商店街での乱闘騒ぎは本当だったようだが、そんな頻繁に隕石が地球に落ちてくるわけがない。
「ええ? 今度こそ信じてよ。嘘じゃないからさ。」
木藤加奈子は必死に弁明しているが、今度こそ嘘に決まっている。
「まあ、楽しみにしていなさい。」などと大見得を切っていたくせに、本当に子ども騙しの見え透いた嘘をつくものだ。
木藤加奈子は自分の話を全く聞いてもらえないことに腹をたてたらしく、先程と同様、ムスッといじけた表情をしている。やっぱり可愛いなと思いつつ、木藤加奈子の様子を眺めていると、遠目から、こちらの様子を見ていた内田百花と中野彩音と目が合う。今度は目を逸らさなかったが、中野彩音は完全に呆れた表情をしていた。こんな訳の分からないことを言う木藤加奈子を送り込んで、この二人は俺にどうして欲しいのだろうか。
とにかく、隕石落下は木藤加奈子の幼稚な嘘に違いない。こんな見え透いた嘘ばかりであれば、今日騙されることはないだろう。
そう思っていたら、生徒会のパソコンでニュースを読んでいたらしい黒田が、またドシドシと近づいてきて、こう言った。
「大ニュースだぞ。綿抜氏!太平洋上に直径数㎝の隕石が落下してたみたい。何か、多少津波の被害もあったらしい。何でも、上空40㎞で爆発がなかったら、直径数十㎝はあったとか。大型ではないけど、衝突の予想とかは出来てなかったみたいだし、ちょっと恐ろしいな。」
「な、なんだって。また嘘じゃなかったのか……。」俺は驚愕した。
「ほれ見たことか。人の言うことは信用しないといけないのよ。これもさっき、ネットのニュ―スで見たんだからね。」
木藤はしたり顔でそう言った。ああ、またネットのニュースで見たのか。しかし、「嘘をつく」と堂々宣言したお前が信用について語る筋合いはないだろうと改めて思わずにはいられなかった。
にしても、隕石の衝突予想がされていなかったなんて、なんて恐ろしい事だ。
そう思ったが、そういえば、登校中。青い空に筋状の黄色い光が見えたのは、上空で爆発した隕石の光だったのかもしれない。
物知りの黒田に聞いてみると、「ナトリウムが多く含まれている隕石の場合、燃えると黄色に光る」らしい。なるほど。やはり、あの黄色い光は落下して爆発した隕石のものであったようである。
「俺が登校中に見た光が、隕石だったなんて、本当に何が起こるか分からないもんだなあ。」こんな嘘みたいな事件が身近で立て続けに起こるなんて。いやあ、人生って、本当にわからないなあとしみじみ思う。
「そうだね。」と木藤加奈子は答える。
「ところで、お前はいつ嘘をつくんだ?」と俺はまた尋ねた。本当にいつ嘘をつくのだろう。
「……え? あ、あーやとももに呼ばれてるから、また後でね。果報は寝て待てだよ。綿抜!」
そう言って、木藤加奈子は慌てて立ち去った。「果報は寝て待て」って、嘘つかれるのが果報なわけがない。あいつ、天然なんだろうか。というか、本当に何をしに来たんだと思う。
しかし、こんな嘘みたいな事件が身近で立て続けに起こるなんて。いやあ、人生って、本当にわからないなあとしみじみ思いながら、ハタと気づくことがあった。
こんな嘘みたいな事件が身近で立て続けに起こると、木藤が俺に嘘をついても、気付かないんじゃないのか、と。




