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Quintet Colors  作者: 師走 扇
プロローグ
4/6

第二の家

翌日、ちょうど土曜日だったため俺はとある孤児院を訪れていた。そこは『藤崎(フジサキ)孤児院』と言って、ここには身寄りのない大勢の子供たちが住んでいる。


この施設、最初は気にしなかったがここは孤児院にしては規模があまりにも大きいし、設備は最先端のものばかり備わってるから孤児院なのかどうか最近疑問に思ってきた。


噂じゃあ、金持ちの知り合いがいて、そいつから孤児院の援助をしてもらっているとかないとか。


この噂が本当だとすると、院長とこの学園の理事長は知り合いということになる。とすると院長は何者なんだ!?


「翔吾ではないか。こんなところで何をしているのだ」


孤児院の門の前に立って考え事をしていたら孤児院の敷地内から一匹の犬……いや、狼といったほうが正しいだろう。狼が俺に話しかけてきた。


灰色の毛並みに肉を噛み切れる程の鋭い牙、獲物を絶対に仕留めんとするきつい目付き(本人曰く、これでも穏やかになっているらしい)。


名前はフェンリル。北欧神話で主神オーディンを食い殺した魔狼にして、現在はこの藤崎孤児院の番犬をしている誇り高い? 狼だ。


「おはよう、フェンリル。院長を訪ねてきたんだがいるか?」


フェンリルとは昔からの顔馴 染みで、この孤児院に遊びに行くたんびによく話している。


「義郎なら茶を飲みながらのんきに待っているぞ。お前が来るだろうから案内しろと指示されている」


フェンリルは踵を返し、ついて来いと言うように俺を院長のいる場所へと案内するため歩いて行った。


俺もフェンリルを見失わないように後をつけた。


「しっかし、院長には今日ここに来るなんて連絡してなかったのによく知ってたな」


「ふん、あの老いぼれのことだ。何も言わなかったのだろう」


今、俺はフェンリルと話しながら院長に会うために外から院長のいる場所へと歩いていた。


フェンリルの話によると、院長は和室の縁側で俺のことを待っていると言っていたからだ。


「それにしても義郎の奴、未だに気高き魔狼であるこのフェンリルに毎日ドッグフードを出すのだぞ。いい加減、霜降り牛やマグロの大トロを出して欲しいものだ」


「いやいや、支援を受けてるとはいえ、そんな贅沢品出せるはずないだろう。それに、ここに来るたびにその話をしてるぞ。おまえ」


いくら大金貰ってると言っても、ほとんどは子供の学費や食費に使っている。このやり取りは耳に胼ができるほど聞いてるし、口が酸っぱくなるほど言っている。


「何を言っておるのだ貴様は? この私が何回同じ内容の話をしたか数えているというのか?」


「ざっと八七四回だな。しまいにゃあ一日に二回も言ってた日もあった記憶があるぞ」


「数えるんじゃない!!」


機嫌を損ねてか、フェンリルは牙を剥き出しにしながら威嚇するように俺のことを睨んできた。


「お ぉ、こわいこわい。それに、何やかんや言いながら満更でもないんだろ。この前、うまそうにビーフジャーキー食ってたの見てたんだからな」


「何だと!?」


フェンリルは知られていないと思っていたであろう、自身の秘密がバレていたことに動揺したのか全身の毛を逆立て、狼のくせに驚愕した顔を俺に向けてきた。


「しょ、翔吾よ。このことは内密に頼む。余がビーフジャーキーを貪るほどに堕ちたとなっては魔狼としての品格を疑われてしまう」


かつて、北欧神話の時代の神々の黄昏(ラグラノク)と呼ばれた戦争で、主神オーディンを食い殺したと言われているこの狼。


神話で語られた存在としてのプライドがあるんだろう。そんな奴に俺は――


「あぁ悪い、孤児院のみんなそれ知ってるから?」


――あえて現実を突きつけた。


「バ……バカなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


自分の秘密がダダ漏れだった事実に叫ぶ横にいる狼。ここが森かなんかだったら鳥が驚いて飛んでいる位の大声を出した。


実際、隣にいた俺はもろに喰らって耳が痛いし、近所にとまっていた雀が結構な大群で飛んで行く音が聞こえた。


近所迷惑だと後から文句言われないか心配だ。


それにしてもプライドを砕かれたからか、耳や尻尾が元気なく垂れ下がって、暗い雰囲気を漂わせながら項垂れてる。


とにかくこんな奴のことはどうでもいい、ここに来てから気になっていたが、子供達の姿がまるで見当たらない。


いつもなら俺を見つけるなり帰さんと言わんばかりに囲ってくるはずだが……。


「なぁ、フェンリル。子供達はどこにいるんだ?」


小童こわっぱどもは他の職員と一緒に何処かに行ったわ。おおかた、義郎がお主との場をもうけようとして仕組んだのだろう」


バレていたのがそんなにもショックだったのか、覇気のない声音で俺の疑問に答えるフェンリル。


「いつまで落ち込んでんだ。いい加減開き直れ」


「ロキの子としてのプライドが……。北欧の魔狼の誇りが……」


あぁ、ダメだこりゃ。しばらくは立ち直りそうにもねぇな。


確か、お手やお座りに反応した時のような状態だ。こうなると一週間はこのままだった記憶がある。


……いや、下手すると一ヶ月は続くかもしれないな。


その後、世間話が終わってなんとも言えない空気のまま院長の所に歩いた。


歩くと和室と縁側に面したこの孤児院の庭に着いた。


この庭は結構広く、夏のお盆に孤児院の子供達と一緒にBBQバーベキューをよくやる。


そんな縁側に白髪でおでこが広く、七福神の恵比寿を思わせるような肥えた体と穏やかな表情をした一人の老人が、のんびりとお茶を飲んでいた。


この人がこの藤崎孤児院の院長である藤崎 義郎ふじさきよしろう本人だ。

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