表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

壱話


 一寸法師は、大人です。


 ・・・いえ、何言ってんだこいつ、みたいな目で見ないでください!?

 事実は事実。たとえあなたがなんと言おうと、一寸法師は成人男性の平均位の身長で、妻帯で、そう他人と変わったところもない、大人な男性なのです。

 むむ、ここまでいっても想像がつきませんか。

 だったら、百聞は一見に如かず。こちらをご覧ください。



『なあ小夜。実はさ・・・』

『はいはい、また賭博で負けたのですね』

『うっ・・・はい、そうですゴメンナサイ』

『全く・・・旦那様は、運も肝っ玉も、名の通り“一寸”でございますか』

『それは言わんで下さい。すまん、ちゃんと倍にして返すから。ほら、鹿苑寺並みの寺建てちゃうから。な?』

『期待しないで待っています』



 と、いった具合でございます。

 まあ良くも悪くも(?)期待を裏切る感じで。はい、これが彼らの日常風景なのです。

 彼も、あそこは半ではなく丁で・・・ゴホン。失礼。

 どうやら随分とまるで駄目なオッサン、略して“マダオ”ぶりに磨きがかかっているようですが、ひとえに彼らが日々食い繋いでいけるのは、妻の小夜さんのおかげだったりします。あんな男にはもったいない、よくできた奥さん。どうも近所に住んでいた幼馴染だとか。そんなのラノベっつーかこの時代の御伽草子位でいいんだよコンチクショー!



 はあ、いつまでもこの調子では、本題に入ることすらできやしません。

 さてさて、それでは、御開帳。



 物語は一寸さんが、宝具“打出の小槌”を手に入れるところから。動き出します。

 さてさて、現代では秘匿されたロストストーリー。

 どうぞ、お楽しみください・・・。



  日本昔話『一寸法師』~リアル編~


(壱)

「あ~もうこんちくしょー。なんでぇ、最近とんとついていない・・・」

 沿う愚痴をこぼす、遊び人一寸さん。前座ですでにご存じですね?まあ、早い話が、彼はプータローなわけです。

「はぁ、小夜に迷惑ばかりかけてらんねーし・・・かといって仕事すんのも嫌だし・・・」

 言いたい放題。これでは、幸運のほうが逃げていくというもの。

 時は夕暮れ、酒場も徐々に盛り上がってくる頃です。ですが、このところ、京の都は不穏な気配に支配されていました。

 足利義教。時の為政者です。神託っつーかぶっちゃけくじ引きで将軍になった彼は、その責任の軽さゆえか、暴政の限り。将軍の牛車を横切っただけで、死刑。あまりにもおっかなく、誰もかれもが暗い顔をしています。

 かくいう彼の勤め先でも、親方が将軍直々の仕事を断ったとかで首を斬られ、一団もろとも路頭に迷うというわけでした。

「仕方ない、今日はこれで止めにすっか・・・」

 一軒の賭博場の前に立つ一寸。流石にここまで負けが込めば、飽きが来るというもの。十時間ぶっ続けでPSPをすれば、三日は本体すら見たくなくなるように、です。

「さて。元手はっと・・・」

 懐をまさぐってみたところ、ガマ口から出てきたのは、

 銅銭、一枚。

「・・・」

 さて、なにができるというのか。

 少なすぎる、と断られれば、お終い。

(それでも・・・諦めるわけにはいかねぇ!!)

 グッと拳を握り、力強く一歩踏み出し。

 戦場へ、いざ、参らん―――



 ま、いざとなれば体を売ればいい話ですがね・・・。




 さて、意外にもあっさり登録はすみ、胴元たちのもとへ。

 まだ人はにぎわっておらず、空いている卓は、頬が痩せこけ、前歯が出ている、見た目だけなら一寸も貧相なイメージの男でした。

 ちなみに一寸は、顔だけなら、鬼退治で有名な、源頼光公にも負けず劣らず、まあ服装がダサいので、めったに声はかけられませんが。

 『旦那様のいいところ?まあ・・・顔くらいですかね』小夜さん談。要するに、残念イケメンなわけです。

 そんな顔立ちなわけですから、それに異常なほど負けが込めば、自ずと噂も立つというもの。

(よっしゃあ、ドベの一寸じゃねぇか!これで今日は白星だな・・・うひょうひょ、諦めがも悪いって噂だからなぁ・・・)

 とらぬ狸の皮算用。それも仕方がありません。参か月ずっと負け越しなら、今回も負ける。当然の心理でしょう。

 それに、出っ歯も、先ほどの賭けで勝ち、戦利品を手にしたため、気分も舞い上がっていたのです。

(おいなに、出っ歯って。褒めたいの、貶したいの?)

 出っ歯が何やら喚いていますが、それはさておき、大事なのは。


 一寸さんの、覚悟でした。


「お前さん・・・お相手、頼めるかい?」

「どうぞ、こちらこそ」

 勝負成立。胴元の方がジャラン、と二つの賽を振ります。ガン、とツボをかぶせ、ジャラジャラ。

「半か・・・丁か」

 さて、この賭け、ただの運任せのように思えますが、実はトリックは存在するのです。

(基本的に賽の目が変わるのはカチンとなるとき・・・つまり、直前の目を記憶すれば、予想はある程度可能っ!!)

 そんな簡単なものではありませんが、事実この男、この方法で勝ち越してきています。

 しかし、順は一寸が先。勝負は、次となるようです。

「さあ、どうぞ、一寸さん」

 ニヤリ、と笑いながら勧める出っ歯。大丈夫、選ぶわけがない。負け続けのやつが・・・半を選ぶはずがない。

「では、ちょ・・」

 ザワザワザワッ!!不意に、頭の奥に蠢くノイズ。これでいいのか、と囁いてきます。

 本当に半でいいのか、いや丁にしたところで、むしろここは半で・・・

(あーだめだ。これは負ける思考だ)

 いつもの、グダグダとした思考。意味のない、なにも生産性がない。

『まったく旦那様は、運も肝っ玉も、名の通り“一寸”でございますか』

 今朝の、小夜の言葉。今なら・・・わかる。彼女のの、言わんとしたことが。

(小夜・・・俺は、勝つっ!!)

「丁で」

 打って変わって、力強い声。胴元の方は少し驚いたように目を開き、次いで出っ歯に促します。

 もちろん、出っ歯の心中は歓喜で満ちていました。

(きたぁぁぁ!!これでこの勝負もらったっ!!一回勝てば次は自分に優先して決められる・・・今日は大漁だぜ!)

「半で。ぜぇっったいに!半ですっ!からっ!」

「あ、ああ・・・分かったから。では、開帳」

 ゆっくりと、上空にあげられたツボ。その二つの目を見た出っ歯は・・・喜びのあまり、飛び上がっていました。

「よっしゃぁぁぁ!!キタ!!半だぁ!!四と二、半だ・・」

「いや、丁ですよ」

「ですよね俺のか・・・え?もう一回」

「だから、四と三、で丁です」

 胴元の証言を内心馬鹿にしながら見直してみますと。

 何てことでしょう、二と三を見間違えていたとは。

 いえ・・・あまりにあり得ない事象だったため、自然に体が拒否したのでしょうか。

「よ・・・よっしゃ」

「は・・・はぁぁぁっぁあぁあっぁぁぁ!?」

 一寸らしく喜ぶ一寸。

 敗者の絶叫は、賭博場一帯に響き渡りました。



 その日、彼は思い出した・・・

 賭博で負け続ける恐怖を・・・

 ガマ口から生活費が消える虚無感を・・・。




「いやー勝った勝った。一寸復活記念ってことで赤飯ものだな、こりゃ!!」

 パンパンに膨れ上がる麻袋と木箱を抱え、ほくほく顏の一寸。あれから勝ちに勝ち続け、泣き疲れて戦利品とか言う木箱で手打ちにした後も更に勝ち続け、もうそれは夜の帝王と崇められそうなほどでした。

「一度でも袋開けたら、光でばれちまうな・・・厳重にっと」

 銅貨より金貨のほうが光沢が強いのは当然です。月の光を反射して、道中で襲われては元も子もありません。

 しかし、この額。きっと、小夜さんも喜んでくれることでしょう。

 気になるのは。この木箱。出っ歯がいうには何やら勝ちのある代物らしいですが、ただの調度品ごときであんなに渋るとは思えません。

 なにせ、入っているのは、すすけた小槌ひとつなのですから。

「さぁて、どうしたもんかねぇ・・・」

 道は分かるとはいえ、やはり行燈だけでは不安が残ります。家を見つけるなり、すぐに転がり込みあがりました。

 どうやら小夜さんは着物を縫いながら寝てしまったようです。無理もありません、二人分の稼ぎを内職だけで賄っているのですから。

(もうそんな心配はいらねぇからな・・・小夜)

 そもそも真面目に職を探せ、と突っ込みたいところですが、せっかくの幸運、横やりを指すのは無粋というもの。

 それに、この男の思考は、まるで駄目なオッサン、所以マダオなのですから。

















まだ終わりませんよ?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ