非日常の幕開け
信じられなかった…。信じてたものが全て崩れた気がした…。
大好きな家族、大切な時間、たくさんの思い出。
全て嘘だった。私は"彼ら"の子ではないのだ。
ならば…
私は誰なの?
誰にも頼れない気がした、無意識にスマートフォンに手が伸びる。自分の名前を検索して何がわかるわけでもないが、それしか"自分探し"の方法が思い浮かばなかった。
一件だけ検索がヒットする。
『…調べなければよかった』
2007年 12月24日
家族を乗せた乗用車がOO川沿いの林で発見される。乗用車は大破、中から小島エリさん(12)の遺体が発見される。他の家族の安否は不明、現地警察による捜索が続けられるものの捜索は打ち切られる。
…5年前の記事。見覚えのある車、見覚えのある顔写真、見覚えのある風景。
『…私の顔だ。でも、どうして…』
瞬間。スマートフォンの画面は真っ黒になる、電池が切れた?いや、充電器にはさしたまま使用しているのだから切れるはずはない。
なぜ?
チャイムが鳴った。玄関からのようだ。
『小島さん!いらっしゃいますか⁈警察です!返事してください!』
"彼ら"は今家にいない、私は嫌々応答にでた。
『よかった…。今、空き巣がお宅の家に入ってくとこを見たとの通報があったので…。とりあえず署までご同行ください、ご家族の方にも連絡はとってあります。ではこちらに…』
何が何だかわからぬまま私は、白黒の車に乗せられる。今日は何かがおかしい。そうだ、これは夢なんだ…夢であってよ…
彼女の頭にはそんな言葉が浮かんだ、しかしそれは強い願いに変わった。
だってそうでしょ?向こうから黒塗りのセダンがすごいスピードでこの白黒の車に突っ込んでくるところをみれば誰だってそう願うわ。
キキィーーッ!
セダンは白黒にブチ当たり10mほど先で停車する。
セダンから、見慣れぬ服を着て仮面を被った少女たちが降りてくる。よく雑誌で見るような…ゴスロリ?といったかな?そんな感じの服装だ。
少女の一人が叫ぶ。
『エリ!今すぐ逃げて!』
警官は銃を構える。
少女達ではなく
私に
タタタタタタッ!
警官は血を流して崩れた、少女の一人が警官に煙が登る銃口を向けていた。
エリには何が何だかわからなかった、叫ぶことしかできなかった。
少女の一人が手をつかむ
『逃げてって言ったのに…。しょうがない、一緒に逃げるよ!サーシャ!車を出す準備して!エレナはビック・フィフティの準備、アンジェラ姉さんこの娘を運ぶよ!手伝って!』
彼女たちは黙々とリーダーらしき少女の命令をこなす。
一度に状況を整理できない。私の意識は遠くなっていく…
『…目が覚めた?』
私は現実に帰れなかったようだ。いや、もうここが現実のようだ…夢ならよかったのに…
『さっきはごめんね…こうでもしないと君を助けられなかったから。』
エリは"彼女"に言った
『助けるって…?あの人はお巡りさんだよ?…なんで。私を撃とうとしたの…』
『君が気づいてしまったから。』
運転をしている少女が言った。
『そう…気づいちゃったんでしょ?自分が君の両親の子ではないって。…ここからは、かなり複雑な話になるし受け入れがたい話になるよ。それでも…聞く覚悟はある?』
エリは戸惑った…でも、聞くしかない。聞かなければ先へ進めない気がした。
『…お願い教えて、私は誰なの⁈』
運転手ではない、"彼女"の方が仮面をとる…
エリは何も言えなかった…。細部こそ違うものの自分と同じ顔がそこから出て来た…
そして"彼女"が口を開く。
『あなたは…いえ、"私たち"はクローンなの…。5年前に死んだ"小島エリ"という少女のね…』
自分は誰なのか知りたかった…
でも知らなければよかった、献血など受けなければよかった、検索なんてしなければよかった、お巡りさんについてこなければよかった…
自分が"誰なのか"ではなく、"誰でもない"なんて…
狂った歯車が回り出す