第一話 今日から牧場主
ウイニングポスト10 2026
3月26日発売予定!
あれだけ若いのに牧場手に入れる主人公何者なんだと、いつもいつも思ってたので、自分で書きたくなりました。
三月某日。
「かんぱーい!」
ジョッキがぶつかる音が、安居酒屋の天井に跳ね返った。
大学から徒歩五分。四年間、何度も来た店だ。
「いやあ、とりあえずみんな無事卒業おめでとー」
向かいのイズミが、わざとらしく声を張る。
「それなー。とりあえず皆、就職決まったしなー」
「なー。とりあえずみんな何とかなりそうだもんなー」
俺――桜井朔は、特に深い意味もなくそう返した。
農学部四年。二十二歳。もうすぐ卒業。
やりたいことが明確にあったわけでもないが、なんとなく大学に入り、なんとなく単位を取り、なんとなく就職を決めた。
人生、まあ、大体みんなそんなもんだろう。
「朔のとこも安定企業だしな。商社とか勝ち組だろ」
イズミがニヤニヤしながら言う。
「勝ち組かどうかは知らんけどなー。まあ、給料は悪くないらしい」
「ほらな。勝ち組」
「お前は?」
「俺?企業するぜ!!目指せ年収一千万!!」
「企業するならもっと上目指せよ」
「うるせぇ!!」
「お前は?」
「俺は公務員」
「うっわ、ド安定!」
どうでもいいことで笑い合う。
テーブルの上は唐揚げとポテトと焼き鳥で埋まっている。
ああ、終わるな。大学。
そんなことをぼんやり思いながら、ビールを飲む。
その時だった。
平和だった。
本当に、平和だった。
そんな時、ふとテレビの音が耳に入る。
『――次のニュースです。先程、〇〇商事が突然倒産することになりました』
俺の手が止まる。
「え?」
画面に映る、見覚えのある社名。
『負債総額は――』
テレビは無慈悲に続ける。
「……え?」
隣で、箸が止まる音。
「……〇〇商事って」
「……朔の……」
「……うわぁ」
テレビは次のニュースへ移っていく。
『――次のニュースです』
さっきの出来事が、まるでなかったことみたいに。
俺は、しばらく無言でテレビを見ていた。
「……」
「……」
「……」
気まずい空気。
うわあ、って感じの空気。
イズミはジョッキを持ち上げた。
「よし、今日は朔の分は奢ってやる!!」
こういう時に、こう言ってくれるのはコイツのいいところだ。
「飲むかぁ!!」
「お、おう!? そうだな!」
「そうだな!今日は俺らの奢りだ!!」
「とりあえず飲め!!」
「そうだな!!」
笑い声が戻る。
俺も笑う。
なんか、よく分からないけど笑う。
別に、今すぐ死ぬわけじゃない。
明日も飯は食える。
卒業はできる。
なら、まあ。
なんとかなるだろ。
◇
それから一週間。
「まあ、なんとか、なるか?」
ベッドの上で、天井を見つめる。
カーテンの隙間から、春前の光が差し込んでいる。
内定先は、文字通り消えた。
「うーん……」
やる気が出ない。
焦っているわけでもない。
でも、前向きでもない。
「どーすっかなー」
求人サイトを開いてみる。
閉じる。
動かない。
「どーしたいってのも、特にないんだよなー」
そもそも、やりたいことがあって商社に入ろうとしたわけじゃない。
なんとなく。流れで。
農学部だから、食品関係でいいか、みたいな。
だから、なくなったところで、ショックはあるが、絶望はない。
「……うーん」
スマホをいじる。
就活サイトを開いて、閉じる。
履歴書を書こうとして、やめる。
「……あ」
ふと日付を思い出す。
「今日、ウイニングポスト10の発売日じゃん」
やべぇ、忘れてた。
急にテンションが少し上がる。
パソコンを開く。
Steamを開いて、カートに入れる。
「まあ、これくらいはいいよな」
どうせ暇だし。
購入ボタンにカーソルを合わせた、その瞬間。
電話が鳴った。
画面には「爺さん」。
「……うわ、タイミング」
爺さんからの電話なんて珍しいなーと思いつつ、出る。
「もしもし」
『朔か』
「うん」
『暇だろ』
「は?」
『とりあえず一度帰ってこい』
「え?」
『詳しい話は帰ってきてからだ』
「なんの?」
ツーツーツー。
「……切れた」
画面を見る。
購入ボタンが、そこにある。
数秒。
「……」
ため息。
パソコンを閉じる。
「まあ、いっか」
ウイニングポストは逃げない。
でも、爺さんはいつどうなるかわからない。
そういう年だ。
◇
バスの窓から見える景色は、子供の頃とほとんど変わっていなかった。
バスは、今はもう電車が来ない駅前で止まった。
かつて線路があった場所には、草が伸びている。
俺の地元。
桜と馬の町。
そこから数少ないタクシーで爺さんの牧場へ約20分ちょっと。
門をくぐると、広い草地が見えた。柵。馬房。倉庫。古いトラクター。干し草の匂い。
どこか懐かしい。
「ただいまー」
返事はない。
馬のいななきが、聞こえる。
「爺さん、帰ってきたぞ」
厩舎の奥から、老人が出てくる。
「おう」
桜井牧場。小さな小さな牧場。
昔はもう少し大きかったらしいが、今は数頭の馬と、年老いた爺さんがいるだけだ。
「なんの用さ」
「会社、潰れたんだってな」
「知ってたのか」
「孫の就職先くらい気にするわ」
「そーなんだよ。どーしよっかと思ってさー」
爺さんは、腕を組む。
身内ながら迫力ある。
「継ぐか?」
「え?」
「この牧場だ」
「え?」
さっきから「え?」しか言ってない気がするな。
「昔は、ある程度デカかった。俺が馬主の資格取れるくらいにな」
「へー」
「でも今は何頭かしかいない小さい牧場だ。これくらいならお前でもどうにか出来るだろ」
早い。
展開が。
「いや普通に考えて出来ねぇけど」
「継ぐなら出来るようになるまでみっちり教えてやる。で、継ぐのか?継がないのか?」
「えー……」
「継がないなら普通に売る。その金くらいやる」
「うーん…………」
俺の馬知識なんて、ウイニングポストとダビスタとウマ娘くらいなんだが。
でも。
やりたいことが、あるわけでもない。
けど、ここは、嫌いじゃない。
自信なんて当然ない。
でも、空は広いし、匂いは知ってる。
「……じゃあ、継ぐよ」
やってみるのもアリかな、って思った。
爺さんは、小さくうなずいた。
「わかった」
あっさり決まった。
人生って、案外こんなもんかもしれない。
「継いだ結果、牧場潰しても恨まないでくれよ?」
「お前が継がなきゃ売ってたんだ。早いか遅いかの違いだ」
そう言ってもらえると少し気楽だな。
◇
「まあ、細かいことは明日からみっちり叩き込んでやる。今日は挨拶してこい」
「誰に」
「馬に決まってんだろ」
厩舎に入り、馬房の前に立つ。
鼻息。
干し草と馬糞の匂い。
何頭かの馬が、こちらを見る。
「よろしくな」
そう言った瞬間。
「よろしくな、坊主」
「……え?」
隣の馬が首をかしげる。
「あらー、おっきくなったわねー」
「爺さん!ごはん!」
「……は?」
馬が、こっちを見ている。
口は動いていない。いや、動いてるのか? でも、馬だぞ。喋らないだろ。
振り向く。
「どうした?」
爺さんは普通の顔だ。
「……いや、気のせいだと思う。うん」
俺は、誤魔化すように言った。
聞き間違いだ。
疲れてるんだ。
内定が消えて、急に田舎に戻されて、脳がバグってるだけ。
そうだ。そうに違いない。
「どうした、坊主?」
「あらー、もしかして聞こえてるー?」
「ごはん!!」
…………。
俺は、ゆっくり振り返る。
「……馬たち喋ってね?」
「……何言ってんだ、おまえ?」
爺さんが、心底不思議そうな顔で俺を見ている。
こうして、俺の牧場主としての新たな人生がスタートした。
いや、新たすぎるわ!!
一頭を除いて、オリジナル馬名を付けて書いていくつもりです。
実在馬と被ってしまったらごめんなさい!
作者の知識はウイポとダビスタとウマ娘と『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』だけです。




