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追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第5章:干渉 ――運命改変編

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第51話:報酬と注意

 村の空気は、どこか春先の陽だまりのように柔らかかった。山から吹き下ろす風はすこし冷たさを含んでいたが、その鋭さが逆に心を引き締めるようで、レインは無意識のうちに深く吸い込んでいた。村外れの大きな木は堂々とした幹を広げ、まるでこの土地を守る古い番人のように影を落としている。その根本に腰を下ろし、レインとフィアは束の間の休息をとっていた。


 木漏れ日が揺れ、フィアの頬にやわらかな光が落ちる。彼女の銀髪は風のたびに揺れ、その度に光を受けてきらりと反射した。村の子供たちの笑い声が風に乗って届き、家々の方からは鍋をかき混ぜる音や水を汲む音が聞こえてくる。ささやかな営みのすべてが、穏やかで、美しかった。


 レインはその光景を眺めながら、胸の奥で静かに息を整えた。


【モノローグ/レイン】

 「……運命は変えられる……

  これで人を救える……!」


 フィアが隣で小さく微笑み、木の幹に背を預けている。彼女もまた、この村で起きた小さな奇跡を感じ取っているのだろう。転ぶはずだった子供は転ばず、実りが悪くなるはずだった畑は元気を取り戻した。誰もそれに気づかない。ただ、日常が少しだけ穏やかに変わっただけ。


 それが、どれほど価値のあることか。


 レインは胸の奥に温かな満足感が広がるのを感じていた。


 そのときだった。

 風がふと止まり、木陰に“影”が立った。



 黒い輪郭。

 長い外套。

 腰に下げられた一本の黒い剣。


 その人物を見た瞬間、レインの背筋に緊張が走る。


 ゼクト。

 黒剣の異名を持つ男であり、確かな実力と経験を備えた剣士。


 彼は木の影からゆっくりと歩み出て、レインたちの前に立った。


【ゼクト】

 「……やるじゃねぇか。

  小さな村とはいえ、複数のフラグを同時にいじるとはな。」


 その声音は淡々としていたが、どこか鋭さが潜んでいるように感じられる。レインは反射的に身構え、フィアもぎゅっとレインの腕を掴んだ。


【レイン】

 「ゼクトさん……いつから見ていたんだ?」


【ゼクト】

 「最初からだ。

  お前の“力”がどう動くか確認していた。」


 ゼクトの眼差しは静かでありながら、見透かすように深かった。まるで、レインの行動のすべてを読み取ろうとするかのようだ。褒めているような言葉の裏に、何か重たいものが潜んでいることは明らかだった。


 ゼクトは一歩近づき、レインの肩へと手を置いた。その手は強く、だが乱暴ではない。重さは、経験と覚悟の象徴のように感じられた。


【ゼクト】

 「……褒めてやるよ。

  だがな――“改変”は危険だ。」


 レインは思わず息を飲む。

 その続きが、ただの忠告ではないと分かったからだ。


【レイン】

 「危険……?」


【ゼクト】

 「ログを変えるってのはな、

  【世界の安定値】を削る行為だ。」


【レイン】

 「安定値……?」



 ゼクトは地面に落ちていた石を拾い、親指で軽く弾いた。

 それは不自然な軌道で跳ね、ありえない方向へ飛んでいき、乾いた音を立てて転がる。


【ゼクト】

 「運命を変えるたびに、世界の“自然な流れ”が歪む。

  大きな歪みになるほど、世界はエラーを起こしやすくなる。

  お前も見たはずだ――」


 レインの頭に、あのノイズが走った瞬間が蘇る。


ERROR

部分データ破損


【レイン】

 「……あれは、俺の……?」


【ゼクト】

 「ああ。

  お前の“改変”のせいで、世界のログが乱れた。」


 その言葉に、フィアは驚愕し、思わずレインの腕を強く掴んだ。

 レインの胸にも、冷たいものが落ちていく。


 自分が引き起こした“善意”が、

 世界そのものに傷をつけていた――?


 ゼクトはレインの表情を静かに見つめたまま、さらに続ける。



【ゼクト】

 「いいか、レイン。

  世界を救うために必要な改変もある。

  だが――

  “どこまでやるか”の線引きを間違えると、世界そのものが壊れる。」


 言葉は淡々としていたが、その重みは容赦なく胸に落ちた。


 レインの喉がかすかに締まり、拳が震えた。


【モノローグ/レイン】

 「……俺は……軽い気持ちで未来を書き換えた……

  その裏で……世界が壊れていたかもしれないのか……」


 フィアはそっとレインの手を握り、柔らかく力を込めた。


【フィア】

 「……大丈夫です。

  あなたなら……きっと正しい使い方ができます……」


 その言葉は、静かだが揺るぎなかった。

 レインの胸に、ほんのわずかに温かさが戻る。


 レインはゼクトへ向き直り、深く息を吸った。


【レイン】

 「……ありがとうございます。

  気を引き締めて使います。

  この力も、世界の未来も……」


 ゼクトは満足げに一度うなずき、口角をわずかに上げた。


【ゼクト】

 「その意気だ。

  なら――次に進める。」


 風が再び吹き、枝葉がざわめいた。

 その音は、まるで世界が静かに息をつくようだった。

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