表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第2章:成長 ――ログ利用編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

第18話:変化するログ

 街外れの小屋は、一本の長い街道から少し離れた場所に建っていた。周囲は草の匂いが漂う静かな平原で、木製の壁には夕刻の光が柔らかく染み込んでいる。外では風がそよぎ、草原をさらさらと揺らしながら奥へ流れていった。


 小屋の中は薄暗いが、その静けさがレインとフィアにとっては心地よい安らぎだった。街の喧騒から離れ、二人だけの時間――そのはずだった。


 フィアは椅子の上で鎧についた埃を丁寧に拭き取り、時折レインへ微笑みかける。その笑顔は穏やかで、昨日までの不安を少しでも忘れようとしているかのようだった。


 一方、レインは窓際に座って《ワールド・ログ》を起動し、いつものように周囲の状況を把握していた。癖になりつつある確認作業。敵の気配、周囲の魔物の出現率、フィアの状態――ログは、旅の安全を確保するためのもっとも重要な手段であり、もはや手放せない存在になっていた。


 だがその日、ログはいつもとは違う反応を見せた。


「……あれ?」


 レインは無意識に眉をひそめる。

 視界に浮かんでいるはずの情報の波が、かすかな揺らぎを見せた。


 普段のログは淡い青白い光で整然と並び、静かに情報を提示してくる。しかし今回は――光が赤く滲み、脈動するように明滅していた。


(こんなの……見たことがない……)


 胸の奥がざわつく。

 レインは息を呑み、視界の中心へ意識を集中させた。


《ワールド・ログ 起動》

《解析中……》


 ログの文字列が一度すべて崩れ、霧のように揺らぎながら再構築されていく。

 その様子は、まるで“誰かがログの奥に手を伸ばして書き換えている”かのようだった。


 嫌な予感と共に――


 赤く光る一文が、ゆっくりと視界に浮かび上がる。


《監視対象に指定されました》


 その瞬間、レインの背中を冷たいものが走った。


(……監視……対象……?)


 その一文だけが異様な威圧感を放ち、周囲のログ情報と明らかに性質が違っていた。

 視界の端で、色を失ったログが揺れ、沈黙しているように見える。


 レインは硬直した。胸の動きが一瞬止まり、喉が乾く。


(だれが……? 何のために……?)


 これまで、ログは“見る側”がレインであり、一方的に情報を得る道具だった。それが、今は――自分自身が“誰かに見られている”。


 この不自然さに、恐怖がじわりと胸へと広がった。


「レインさん……?」

 フィアが心配そうに声をかけてくる。


「……あ、いや……ちょっと……」


 レインは答えながらも、視界から消えない赤文字に意識を奪われ続けていた。


《監視対象に指定されました》


 その文字は、まるで“注視しているぞ”と告げるように、淡く揺れ続ける。


(俺が……見られている……? いったい、誰に……)


 フィアの未来ログ、勇者カイルの世界破壊ログ、そして自分が初めて改変した未来。その全てに何か共通する“異常性”があった。


 もし――誰かが世界の未来を監視していて、

 何かが世界のログを操作していて、

 自分が“その領域に踏み込んだ”としたら――


(……気づかれた……? 俺の存在に……)


 その考えが浮かんだだけで、背中を冷たい汗が滑り落ちた。


 ログの赤文字は消えず、視界の中央で静かに震え続けていた。

 それは、ただの注意喚起ではない――“意図ある意思”のようにも見える。


 レインはゆっくりと息を吸い、小屋の木の壁に背中を預けるように寄りかかった。

 外では風が草原を撫で、さらさらと優しい音を立てている。

 なのに、小屋の中は一気に温度が下がったような感覚すらあった。


(……俺は今まで、未来を変えることを成功させた。

 あの子供の運命を回避し、フィアも救った。

 でも……それは“許されていた”ことだったのか?)


 未来を書き換えることは、本来――“世界のルールに干渉する行為”だ。


 勇者カイルのログで目にした『世界破壊』という未来。

 そのログは、誰かが定めた“運命の設計図”のようなものだとレインは直感していた。


 もしレインがその流れを変え続けることで、

 “本来予定されていた未来”が狂っていくとしたら――


(……誰かが、その異変を察知した……?)


 胸がざわつき、不安と恐怖が入り混じる。

 レインの視界は赤文字に支配され、風の音さえ遠く感じる。


「レインさん、本当にどうかしたんですか……?」


 フィアが近づき、心配そうに覗き込む。

 その青い瞳は不安に揺れながらも、レインの手にそっと触れようとする。


 レインは一瞬迷ったが、結局フィアには笑顔を向けた。


「……うん、大丈夫。ちょっと……気にかかるものがあって」


 それだけを伝えると、フィアは小さく頷き、また椅子に戻って装備の紐を整え始める。

 彼女は何も知らない。その無垢な横顔と、《監視対象》という冷たすぎるログの対比が、レインの胸をさらに締めつけた。


(フィアは何も悪くない……

 なのに、もし俺の行動が原因で“監視”が強まるのだとしたら……

 この子まで巻き込みたくない……)


 レインは、ログに意識を集中させる。

 赤文字に触れるように手を伸ばすが、いつもなら反応するログは今回だけは沈黙した。


 まるで――“返事をする必要はない”と言われているようだった。


(……俺を監視しているのは、ログのシステムそのものか……

 それとも……もっと上位の存在……?)


 かつて勇者カイルのログで見た《深層ログ》の奥――

 あの時感じた“システム的な存在”の気配が、再び胸の奥で疼く。


(……世界に、俺たちが知らない“管理者”がいる……

 そんな気配を……感じる……)


 レインは拳を強く握りしめた。

 恐怖は確かにある。胸を荒らし、呼吸を浅くするほどに。


 だが――それ以上に、強く湧き上がるものがあった。


(……逃げない。

 監視されても、怯えていても……

 フィアを守るために、この力を使い続ける……!)


 ログに赤文字が点滅し、まるでレインの決意に反応するように揺れた。


 夕暮れの光が窓から差し込み、部屋の中に長い影を作る。

 その影の中で、レインの表情は静かだが、瞳だけは確かな強さを宿していた。


【レインの内心】

 「……誰が見ていようと……

  俺はもう、引き返せない。

  運命を変える力を持ってしまった以上……

  守るために前へ進むだけだ……」


 赤文字の《監視対象に指定されました》が、

 小さく、しかし確かに揺れながら――次章の“脅威”を予告していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ