表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第2章:成長 ――ログ利用編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/24

第17話:運命の回避(初成功体験)

 昼下がりの街は、太陽の光を反射した白い石畳がきらめき、店先からは活気のある呼び声が響いていた。人々が行き交い、荷馬車の車輪が軋む音、遠くの鍛冶屋の金属音、子供たちの笑い声――さまざまな音が混ざり合い、街の“生”を象徴していた。


 レインとフィアは、次の旅に備えて食材や衣類の補充に回っていた。フィアは初めて見る街並みに興味津々で、あちこちの店を眺めては小さく声を漏らす。その後ろ姿を見守りながら歩くレインの胸には、最近得た自信と、彼女を守るという決意が温かく灯っていた。


 だが――その穏やかな空気は、ほんの一瞬で変わる。


 レインはふと周囲の気配に引っかかり、無意識に《ワールド・ログ》へ手を伸ばした。

 視界の端で光がきらめき、透明な文字が浮かび上がる。


《ワールド・ログ 起動》


 街の雑踏が、一瞬だけ遠ざかるような感覚。

 そして、視界の中心に――赤文字。


対象:子供(約6歳)

HP:低

状態:無防備


【未来】死亡予定


 レインの身体が、ぴたりと固まる。


(……死亡予定……? まさか……今日中に……?)


 胸が、ぎゅっと締めつけられた。

 怖気と嫌な汗が背中を伝う。

 街の喧騒は変わらず響いているはずなのに、レインにはそれがまるで薄い膜を隔てた遠い世界の音のように感じられた。


 視線を向けると、対象となっている小さな子供――まだ幼い男の子が、石畳の上で木の棒を振り回し、無邪気に遊んでいる姿が見えた。彼の周囲には危険な気配など微塵も感じられず、ただ元気に跳ね回っているだけだ。


 しかしレインにはわかる。このままでは――“死ぬ”。


(……何が原因で……どうして……こんなにも未来が赤く染まっている?)


 《深層ログ》を開くには状況が騒がしすぎる。

 だが、レインの直感は告げていた。

 これは“すぐに起こる未来”だと。


「レインさん……?」

 隣のフィアが心配そうに問いかける。


 レインは小さく首を振り、子供の様子を注視する。

 その瞬間、視界の一部がかすかに揺れ――別の文字が浮かぶ。


《未来予測:車道への飛び出し → 即死》


(……車道!)


 目を凝らすと、子供の遊ぶ場所のすぐ隣に、馬車が頻繁に通る舗道があった。高級品を載せた荷馬車が慌ただしく往来しており、速度も速い。あれに飛び出せば――確かに死ぬ。


 レインは息を呑み、視線を子供の動きに合わせる。

 木の棒を振っていた子供の足元が、不安定に揺れている。

 何度も石に躓きかけて――それでも無邪気に笑っている。


(……このままだと……本当に……!)


 レインの心臓が痛いほど脈打つ。

 だが焦りではなく、奇妙なほど冷静な“計算”が頭の中を占拠していた。


(無理に声をかければ、驚いて逆に飛び出すかもしれない……

 近づきすぎると警戒される……周囲の動線を計算して……

 最適なタイミングで、後ろから肩を掴んで止める……)


 ログは“今”の行動だけでなく、“未来の危険”を教えてくれる。

 ならば――こちらも“未来”に合わせて動けばいい。


「フィア……少しそこで待ってて」


「え? レインさん……?」


「大丈夫。すぐ戻る」


 柔らかく言い残し、レインは静かに歩き出した。

 まるで獲物に悟られないように近づく獣のように、音を立てない歩幅で。


 その目は、確実に――“運命そのもの”を見据えていた。


 レインは周囲の視線を避けながら、子供の背後を回り込んだ。市場からの喧騒が薄れ、ひとつひとつの物音が妙に鮮明に聞こえる。荷馬車の車輪が石畳を擦る音、馬の嘶き、人々の話し声。それらが脈動するようにリズムを刻み――その中で、レインの呼吸は静かに深く整っていった。


(この位置なら……飛び出す直前に……届く)


 子供はまだ気づいていない。

 まるで運命に導かれるように、少しずつ、舗道の縁へと近づいていく。


《未来予測:3秒後 → 飛び出し》


 赤文字が視界に点滅する。


(……来る……!)


 子供の足が石畳の小さな段差に引っかかる。

 バランスを崩し――前のめりになった。

 無邪気な表情のまま、体が馬車の通る道へと倒れこむ。


 その瞬間、レインは地を蹴った。


「――!」


 音にならない声が喉を走る。

 周囲がスローモーションになる。

 風が逆巻き、時間がわずかに伸びて見えた。


 子供の小さな身体が前へ傾き、舗道へと触れようとするその一瞬。

 レインの腕が彼の胴を抱え込むように伸び――そのまま引き寄せる。


 子供の身体が軽い。驚きの声すら出ない。


 その直後――荷馬車が勢いよく横を駆け抜け、風圧でレインの髪が揺れた。

 もし一歩遅れていれば、間違いなく――。


 そして、レインの視界には大きな変化が起こる。


《ワールド・ログ 更新》

《深層ログ 書き換え中……完了》


対象:子供

【未来】死亡予定 → 生存確定


 赤文字で染まっていたログが、緑色へとゆっくり書き換わっていく。

 その変化を見た瞬間、レインの胸の奥から熱が込み上げた。


(……変わった……!

 俺の行動で……未来が……本当に……変わった!)


 震えが走り、息が乱れそうになる。

 だが、それは恐怖ではなく――喜びだった。


「ぼ、ぼうや、大丈夫かい……!」

 近くにいた母親らしき女性が駆け寄り、顔色を変えて子供を抱きしめる。


 子供は驚いた表情から徐々に笑顔に変わり、無邪気にレインへ手を伸ばした。


「おにーちゃん、ありがとうっ!」


 その言葉にレインは微笑み、軽く頭を撫でる。


「気をつけて遊ぶんだよ」


 息子を抱いた母親は、深々と頭を下げた。


「本当に……本当にありがとうございました……!」


 レインは照れくさそうに頷きつつ、少し遠くにいるフィアへ目を向ける。

 フィアは目を丸くし、口元を両手で押さえながら――喜びと驚きの入り混じった表情で駆け寄ってきた。


「レインさんっ……すごい……! 本当に、未来を……変えたんですね……!」


 その瞳は、尊敬と感動で揺れていた。


 レインはゆっくりと息を吐き、空を仰ぐ。


(……これが……俺の力……

 ただ記録するだけの“ログ係”じゃない……

 運命を書き換える者……)


 街の景色が、今までとは違って見えた。

 人々の笑顔も、喧騒も、子供のはしゃぐ声も――

 すべてが“守る価値があるもの”として胸に沁みた。


 夕暮れが近づき、街の影がゆっくりと伸びていく。

 その中で、レインは新たに心へ刻む。


【モノローグ】

 「……これからもっと……守れるはずだ。

  俺はもう、ただの観察者じゃない……

  未来を変える力を持つ者なんだ……!」


 黄金色の光が二人を包み、旅の新たな章が静かに幕を開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ