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追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第2章:成長 ――ログ利用編

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第14話:初めてのログ活用(依頼編)

 街の中心にそびえる冒険者ギルドは、朝日が街並みに黄金色を落とし始める頃にはすでに熱気に包まれていた。

 木造の大きな建物は年季が入り、無数の武器痕や鍛えられた冒険者たちの手によって磨かれた柱が、長い歴史を感じさせる。入口の前には荷物を背負った冒険者や商人の姿があり、内部からは笑い声や怒号、武器の擦れる音が絶え間なく漏れ出している。


 レインとフィアはその前に立ち、しばし建物全体を見上げていた。

 フィアは緊張したようにレインの袖をそっと掴んでおり、その青い瞳には不安と期待が入り混じった色があった。


(……これが、冒険者の世界か……)


 レインは胸の内で呟きながら、ゆっくりと扉を押す。

 ギィ、と少し軋む音と共に、活気に満ちたギルドホールが姿を現した。


 中には、数十名を超える冒険者たちが思い思いの席に座り、食事を取り、談笑し、依頼について語り合っていた。

 武器を磨く金属音、仲間同士の笑い声、受付付近の議論の声――それらが混ざり合って、まさに“冒険者の巣窟”といった雰囲気を作り上げている。


 フィアはその喧騒に驚いたようで、肩を少しすくめる。


「……すごい……こんなに……たくさん……」


 か細い声で呟くフィアに、レインは微笑んで答える。


「大丈夫。俺たちも少しずつ慣れていけばいい」


 フィアはこくりと頷き、緊張気味の表情のままレインの少し後ろに寄り添った。


 二人が真っ先に向かったのは、ギルドホールの最も目立つ場所――依頼掲示板だった。

 大きな掲示板には数十種類もの紙が貼られ、討伐・護衛・採集・探索などの依頼がぎっしりと並んでいる。


 レインは一枚一枚を慎重に眺め、初心者でも達成できそうなものを探した。

 高難度の依頼は危険であり、いまの二人にはまだ早い。


 やがて、彼の手はひとつの依頼に止まった。


「……ゴブリンの討伐、報酬100ゴールド。これなら……」


 フィアも掲示板を覗き込み、弱々しくも興味深そうにその紙を見つめる。


「……いけそう、ですか……?」


「ああ。このくらいなら、まずは力を試す絶好のチャンスだ」


 レインは紙を剥がし、受付へ向かう。


 受付に立つのは、落ち着いた雰囲気の女性職員で、二人を見ると優しく微笑んだ。


「はい、ご依頼の受注ですね? 初心者の方でも取り組みやすい内容になっています。注意点は……」


 必要な情報を丁寧に説明してくれる彼女に、フィアは何度も頷き、レインも真剣に耳を傾けていた。


(……いよいよか……)


 受付を済ませ、ギルドを後にした二人は、討伐対象であるゴブリンの出没地域――街の外に広がる小さな森へ向かった。

 森の入口に着く頃には、太陽はすっかり昇りきっており、木々の間から差し込む光が緑の葉を美しく照らしていた。


 しかし、森の奥からは、どこか湿った臭気と獣の気配が漂い、油断できない空気を感じ取ることができた。


「レインさん……?」


 フィアが心配そうに声をかけてくる。

 レインは頷き、森の奥を静かに見つめた。


「……大丈夫。まずは、この力を活かす」


 レインは深く息を吸い、意識を研ぎ澄ませる。


《ワールド・ログ 起動》


 視界に淡い光が広がり、森の奥に潜んでいたゴブリンが姿を現した瞬間――


 光の文字がスッと表示された。


 目の前に現れたゴブリンは、身長こそ低いが濁った黄色の瞳をギラギラと光らせ、手には錆びた斧を握っている。体は小柄だが、筋肉が固まり、獣のような動きを見せる危険な存在だった。


 レインは視界に浮かぶログをしっかりと確認する。


名前:ゴブリン

HP:45/45

弱点:火属性

防御力:低

スキル:突進、斧振り


(……なるほど、弱点は火……)


 従来なら恐怖の対象になる相手だが、《ワールド・ログ》はその恐怖を覆す。

 相手の体力、弱点、行動パターン、攻撃スキル――すべてが手に取るようにわかる。


「レインさん……それが、ログ……?」


 フィアがそっと質問する。

 レインは頷きながら小さく笑う。


「そう。これがあれば、危険な敵でも安全に対処できる」


 そう言った瞬間、ゴブリンがこちらに気づき、甲高い声をあげながら地面を蹴りつけて突進してきた。

 その動きは素早く、予想よりも鋭い。


「きゃっ……!」


 フィアが身を縮める。

 しかしレインは動じなかった。


(来る方向は……こうだ!)


 ログに表示された“突進”の予測軌道を読み、レインは一歩横へ軽く飛び退いた。

 ゴブリンは空振りし、バランスを崩す。


「今だ……!」


 レインはすぐさま火の魔法を展開する。

 手のひらに小さな赤い光を集め、前方へ弾くように放つ。


「《フレイム・ショット》!」


 火球が一直線に飛び、ゴブリンの胸元へ直撃した。

 弱点属性である火が効果を発揮し、ゴブリンの体は大きくのけぞる。


「ギャアアアッ!」


 苦痛の叫び声をあげるゴブリン。

 その体力バーは急速に減り――


HP:0/45


 ゴブリンは崩れ落ち、動かなくなった。


 フィアは驚きと安堵が入り混じった表情でレインを見つめた。


「……すごい……本当に……すごい……!」


 胸に手を当て、息をつきながらフィアが呟く。

 レインも息を整えながら、確かな手応えを感じていた。


(……こんなに楽に戦えるのか……

 これが……俺の力……!)


 ゴブリンの死骸を確認し終えると、レインはフィアのほうへ歩み寄り、穏やかに微笑んだ。


「大丈夫だった?」


「はい……レインさんがいたから……」


 フィアの声はまだ震えているものの、その瞳には確かな信頼が宿っていた。


 二人はギルドへ戻り、受付で報酬の100ゴールドを受け取った。

 フィアは手のひらに載せられた金貨を驚いたように見つめ、小さく笑みを浮かべる。


「……ログって、本当にすごいんですね……!」


「ああ。見るだけじゃない……行動を、有利にできる――そんな力だよ」


 レインは強く実感していた。

 この力は、ただの情報収集ではない。

 戦闘、探索、生存――すべてを有利に運ぶ“戦略”そのものになる。


(これからは……この力で生き抜く……)


 そう胸の奥で確信しながら、レインはフィアと共にギルドホールを後にした。


(そして――世界を変えていく……)


 その決意が、静かに、しかし力強く胸に刻まれていた。

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