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追放された“ログ係”は、世界の裏設定を読めるようになりました  作者: トワイライト
第2章:成長 ――ログ利用編

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第13話:新たな旅立ち

 朝の光は、前日の重苦しさを洗い流すかのように優しく部屋へ差し込んでいた。薄いカーテン越しに広がる淡い金色の光は、宿屋の古い木造の壁を柔らかく照らし、静かな温もりを部屋中へ運んでいく。窓辺に近い場所はすでにほんのりと暖かく、夜の残り香のような冷気を押し出すように新しい空気が流れ込んでいた。


 フィアの銀色の髪は、その朝光に触れたことで淡く輝き、枕の上に広がった髪の一本一本が光の糸のようにきらめいていた。深い眠りの中にいる彼女は、昨夜よりも心なしか表情が和らいでおり、弱さは残るものの、ほんのわずかな安堵がその呼吸に宿っている。


 レインはゆっくりと布団から身を起こし、背伸びをしながら大きく深呼吸をした。

 胸の奥にまだ残っているのは、昨日ワールド・ログが更新された瞬間の、あの熱い感動と震え。


(……昨日、あの子を……救えた……)


 そう思うだけで胸の奥がじんわりと熱を帯びる。

 これまでの自分では考えられないことだった。

 無力で、追放され、仲間にすら認められなかった存在――

 その自分が、初めて“誰かの未来を変えた”。


(……でも、これからどうするか……考えないと……)


 レインは窓へ歩み寄り、外の空へ視線を向ける。

 朝の街はまだ完全に動き出してはいない。

 荷車を引いて通りを横切る商人の影や、店の前を掃く人の姿がちらほら見える程度だ。それでも、昨日とは違う“始まり”の空気が確かに流れていた。


 その空の色を見ながら、レインは小さく呟いた。


「……生きなくちゃな……俺も、フィアも」


 宿屋に宿泊する残りの客たちのざわめきがかすかに聞こえる。階下では、朝食の準備をする音と、焼きたてのパンの香りも漂ってきていた。


 レインは簡素な朝食を済ませながら、心の中で静かに思考を整理する。


(この力があれば、生きていける……ただ見るだけじゃない。未来を……変えるために使う……)


 昨日、深層ログで確認したフィアの“死亡予定”という未来を救ったことで、自分の力の本質が少し見えてきた。

 《ワールド・ログ》――それは単なる情報の閲覧に留まらず、“流れそのものを書き換える力”でもある。


 その理解が、レインの中に強い決意を生んでいた。


(フィアを守る……誰にも奪わせない……)


 旅をするには金も必要だし、身を寄せる場所も欠かせない。

 だが、自分はもう孤独ではない。

 守るべき存在が隣にいる。

 そして、未来を知り、変える力もある。


 レインは荷物をまとめ始めた。

 小さな革袋、最低限の食料、そしてフィアを救った時からずっと胸に感じている“決意”。

 そのすべてを旅支度としてまとめていく。


 そのとき、背後から控えめな声が聞こえた。


「……レインさん……?」


 振り返ると、フィアが目を覚ましていた。

 まだ薄い毛布にくるまりながら、弱々しくも確かな意志を持った瞳でレインを見つめている。


 レインは荷物から手を離し、フィアのほうへ静かに歩み寄った。

 フィアはまだ体を起こすことが難しいのか、ベッドの端に手をついて上体を支えている。青い瞳が揺れ、かすかな不安と緊張がその表情を包んでいたが、それでも昨晩よりずっと光が宿っていた。


「大丈夫か? まだ無理をしなくていい」


 レインの優しい声に、フィアは小さくコクンと頷いた。

 か細い動作だったが、その仕草には確かな生命力が感じられた。昨日まで商品として鎖に繋がれていた少女が、いま目の前で“自分の意思で”動いている――その事実に、レインの胸はじんと温かくなった。


 レインが荷物の整理を再開しようとしたとき、フィアのほうから静かに声が届いた。


「……あの……わたしも、一緒に行きたいです」


 その一言に、レインは手を止めた。

 驚きと、どこか心の奥から湧き上がる嬉しさが混じり合い、胸がわずかに震える。


「……一緒に?」


 ゆっくり振り返ると、フィアは毛布を握りしめながら、それでも真っ直ぐレインの目を見つめていた。

 まだ恐怖は残っている。体の震えも完全には消えていない。

 それでも――その青い瞳には確かに“覚悟”があった。


「はい……あなたが……助けてくれたから……わたし……もっと強くなりたい……だから……」


 言葉は途切れ途切れだが、その気持ちは痛いほど伝わってきた。

 レインにとってそれは――何よりも嬉しい申し出だった。


(……そうか……一緒に行きたいって……)


 胸に広がる温かさが、これからの旅の行く先を照らすように感じられた。

 レインはにっこりと微笑んで頷いた。


「……分かった。じゃあ、一緒に行こう。フィアがそう言ってくれるなら、俺も嬉しいよ」


 その瞬間、フィアの顔に小さな安心の影が差し、ほっとしたように肩の力が抜けた。

 彼女はまだ弱い。だが同時に、強くなろうとする意思を持っている――それがレインの胸に大きな励みとして響いた。


 出発の準備が整い、レインは地図を広げて周囲の地域を確認した。

 《ワールド・ログ》を軽く起動し、周囲の安全度をチェックする。

 頭上に浮かぶ情報の文字列は淡い光を放ち、危険が少ない道や、当面の拠点として使えそうな村を示している。


(……能力を使って安全な場所を探す……それが、俺たちの新しい生き方だ……)


 レインは深く息を吸い、胸の奥で静かに決意を固めた。


 宿屋を後にし、外へ出ると、朝の光はすでに力強さを増していた。

 市場の喧騒はまだ薄く、通りには旅人や商人たちの姿がぽつりぽつりと歩いている。

 街全体がまだ眠気を引きずったような穏やかさに満ちていた。


 フィアはまだ歩くことに少し不安があるのか、レインの後ろを小さな歩幅でついていく。

 しかし、その青い瞳ははっきりと前を向いていた。

 昨日まで絶望に沈んでいた少女が、今日、希望を胸に抱いて歩いている。


 レインはその横顔をちらりと見て、確信する。


(……大丈夫だ……これからの旅は……きっと道が開ける……)


 街の外れへ向かう細い道を抜け、やがて二人は街の門を出た。

 朝の光が後ろから射し、二人の影が前方へと長く伸びる。

 風が草木を揺らし、遠くで鳥の声が響いた。


 レインはゆっくりと歩き出しながら、心の奥で静かに言葉を紡いだ。


(……これから、俺たちの旅が本格的に始まる……

  《ワールド・ログ》と共に……)


 その想いは、朝の光に照らされながら確かな形となり、未来へと続く道へ一歩を踏み出していく。

 小さくても確かな第一歩。

 世界を変える二人の旅の、本当の始まりだった。

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