選択
川橋の質問に俺は答えなかった。
答えられなかった、の方が正しい。
沈黙が長く続いて、夕焼けの色が少しずつ覚めた。
「…やっぱりさ、」
川橋が先に視線を外した。
「晃は優しいよね。でもその優しさってさ」
1歩、後ろに下がる。
「僕だけの物じゃない」
その距離が、俺には耐えられなかった。
「違う」
短く、強く言った。
「…俺は、」
言葉が喉で引っかかる。
リーダーとしての正解も、クラスの空気も、全部邪悪だった。
「……川橋を選ぶ」
その瞬間、川橋の肩がぴくりと揺れた。
「何それ、」
「…女子の輪とか、お前のキャラとか、クラスとか…」
俺は1つずつ切り捨てるように言った。
「全部どうでもいいから、俺は…お前、川橋の味方でいる」
その瞬間、川橋の顔から一気に血の気が引いた気がした。
「…晃、それ言ったらダメなやつ」
「なんで」
「だってそれ」
川橋は震える声で言った。
「僕を"普通の世界"から引き摺り出す言葉じゃん」
俺は黙った。
否定しなかった。
それが答えだ。
「…晃さ」
川橋は笑った。
でも、泣く1歩手前の顔だった。
「僕のこと選んだらさ、きっと後悔するよ」
「それでもいい」
即答した。
「後悔してもいいから」
川橋は暫く俺のことを見つめていた。
逃げ道を探すみたいに。
でも、それは何処にもない。
「…じゃあさ」
川橋は1歩、俺に近づいた。
「…もう、戻れないよ?それでもいいの…?」
俺は頷いた。
次の瞬間、川橋は俺の制服の裾を掴んで、額を押し付けてきた。
抱きしめる、には弱すぎて、
突き放す、には近すぎる距離。
「…晃のせいだからね」
小さな声だった。
「僕が壊れたら」
俺はその言葉を否定しなかった。
腕を伸ばして、川橋の背中に触れた。
その手は、川橋を守るためのものじゃなかった。
逃がさない為の手、だった。




