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【第一部完】堕ちた神童とリタイア勇者 ―それでも冒険は―

※この話で第一部は完結となります。

スパルディアは戦勝の喜びに包まれていた。

城の大広間では徹夜の宴。兵も反乱軍も市民も混じって肉を頬張り、酒をあおる。

ガルドは国王即位を断固辞退し、結局バルゴラスへ押し付ける形となったが――「初代国王の再臨だ!」と誰もが納得し、さらに盛り上がった。

その余波は翌朝にも残っていた。



「……はぁ? 働け? やだね♡」


豪華なトレーを枕代わりに寝そべるリリア。ガムをくちゃくちゃ噛みながら、だらしなく足を組んでいた。

大広間は空の皿と酒瓶で散乱し、まだ人々は片付けに追われている。


「軍神殿。勝者の翌朝は鍛錬にあてるものだ。節度を持て」


バルゴラスが険しい声で諫める。だがリリアはにやりと笑った。


「ち、うっせーなぁ……やんのかコラ」


挑発。

親指で自分の胸を指し、肩を揺らして続ける。


「うちのガルド様が黙ってねぇぞゴラァ! 三下がヨォー!」


場が凍った。

ラッツとカイは呆れ、モルティナはおろおろする。

ただ一人、ルナリアだけが両手を組んで恍惚と呟いた。


「イキってて可愛い♡」


リリアはさらに勢いづく。腰に手を当て、足で机を蹴りながら声を張り上げた。

「おいバルゴラス! お前ごときがあたしに説教? 笑わせんな! この国はもう、うちのガルド様のもんだぞ! わかったら頭下げとけ、三下ぁ!」


「……確かに、黙ってられねぇな」


ガルドの声が低く響く。

彼は立ち上がり、黒銀剣の柄に手をかけた。


「えっ」一同が息を呑む。

カイが慌てて叫ぶ。「おいおい!リリア恋しさに頭やられたか!?」


だがリリアはにやにやと手を揉み始める。

「へっへっへっ。だってよぉ〜バルゴラスくんよぉ〜! ガルド様ぁ!やっちまってくださいよ♡」

媚びるような声で拝む仕草。ルナリアは涙ぐみ「尊い……!」と呟いた。


ガルドが剣を抜いた瞬間、大広間の空気は戦場に変わった。



剣閃が走り、皿が砕け、壁のタペストリーが裂ける。

「ひぃぃ!ガルド様ぁ!? リリアを斬るのは違うっしょ!? 死ぬ死ぬ死ぬ!」

リリアは必死に媚びる。

「ほらぁ! 相手はバルゴラスくんでしょ!? リリアじゃなくて! ねぇ〜♡ ガルド様ぁ〜♡」


だがガルドは冷たい眼で一歩踏み込み、剣を振り下ろした。

「……あってるよ。てめぇと決着ついてねぇだろ、軍神リリア」


その一言で空気が変わる。

ガルドは、かつて「軍神リリア」と死闘を繰り広げた記憶を抱えたまま――今度こそケリをつけようとしていた。


「やっべ……マジで本気だこれぇぇ!!」


その瞬間、影が走った。

リリアは抱き上げられ、柱の陰に降ろされる。


「リリア、ここで待っててね♡」

囁いたのはルナリア。甘い笑顔は次の瞬間、怒りに歪む。


「お前……リリアに……何をするつもりだった?」

呼吸が荒くなり、矢羽を引き絞る。

「リ、リリアを……はぁ、はぁ……殺す殺す殺す殺す!!」


白銀の矢が放たれ、ガルドの剣と衝突。火花が散った。

剣と矢が交錯する轟音。

――ガルドとルナリアの戦いが始まった。


柱の陰でリリアは青ざめて震える。

「やば……ほんとに殺し合い……」

汗を垂らしながら、全力で駆け出した。

「……逃げなきゃ!」


夕日に向かって走り、城門を抜けるまで振り返らなかった。


――そしてリリアは三日帰らなかった。



夜。焚き火のそばで鍋をつつく一行。

ラッツ「兄貴ぃ……やっぱちょっとやりすぎだったんじゃ」

ガルド「……うっせぇ」


ルナリアは涙目で叫ぶ。

「りぃりぃあああーー!!どこにいるのーー!?……全部、あなたのせいよ! せっかく結ばれたのに!」

ガルドは視線を逸らし、ぼそっと返す。

「……結ばれてねぇよ」


ルナリア「結婚式だっていつ挙げよーか相談してたのに!」

ガルド「……お前一人でだろ」

ルナリア「子どもは二人がいいねって言ってたのに!」

ガルド「……だからおま……」

ルナリア「うるさぁああい!殺す殺す殺す殺す!!」


ラッツ「……はあ、ここんとこずっとこれっすね」

モルティナ「……喧嘩、だめ」

カイ「しかしリリアの嬢ちゃん、どこ行ったんだろな」


その時、空を切り裂くように伝書フクロウが舞い降り、一通の手紙を落としていった。

ガルドが無言で拾い上げ、しばらく逡巡してから封を開く。静まり返った場に、彼の低い声が響いた。


――あなたたちなら、もう大丈夫。

魔王だって倒せるし、きっと世界に平和をもたらせる。

私がいなくても、みんななら前に進める。


……でも、ごめんね。

勇者一行を裏切って、剣を向けてしまったこと。

あの時はそうするしかないと思ったけど、それでも謝りたい。


一緒に旅した時間は、私にとって宝物だった。

本当にありがとう。


ps. 探さないでください。


読み上げが終わると、誰も言葉を発せず、ただ沈黙だけが広がった。

ルナリアの瞳は今にも涙で溢れそうになり、モルティナは胸に手を当て祈るように俯く。

ラッツとカイでさえ、気まずそうに視線を逸らしていた。


「……」

ガルドは黙ったまま、手紙を裏返す。そして、小さく鼻を鳴らした。

「……住所、書いてあるぞ」


「え?」一同が声を揃える。


ガルドは読み上げる。

「エルディナ王国、アストレア魔法学院……だとよ」


ルナリアは手紙を握りしめ、震える声で呟いた。

「……え、探しちゃだめって書いてあるのに住所……?どういうこと……そうか、これはSOSに違いないわ!」


「ほっとけよ、あんな馬鹿」ガルドは吐き捨てるように言った。


ラッツが鼻で笑う。

「SOSって……いやいや、凡ミスっすよ。探すなって書いてんのに住所フル記載とか」


カイも肩をすくめる。

「間違いなく凡ミスだな」


「……でも、でも、もしかしたら……」モルティナが不安げに声を漏らす。


ルナリアはぐっと顔を上げ、涙で濡れた頬を拭いながら叫んだ。

「バカはあなたたちよ!そんなわけないでしょ!早く助けに行くわよ!」


「……っち」

ガルドは短く舌打ちし、立ち上がる。

「わーったよ。行きゃいいんだろ」


その声音は不機嫌そうだったが、口元はほんの僅かに緩んでいた。

またリリアに会える――その事実を、彼自身も楽しみにしているかのように。


そして、低く呟く。

「……冒険が終わるのはまだ早いぜ、元勇者さんよ」


――リリア救出編? 再び。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

現在、第二部を準備中ですので、また続きでお会いできれば嬉しいです。

(ブクマ・感想などで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!)

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