第4章 ep.28 英雄たちの大宴会 ― そして日常へ
決闘の翌日、スパルディアの都はお祭り騒ぎだった。
四天王バルゴラス主催の国総出の大宴会。
あの凄絶な戦いを見届けた国民も兵も反乱軍も、今この瞬間ばかりは敵味方の区別を忘れ、同じ杯を掲げていた。
「勇者ガルド殿、こちらの猪肉串は絶品でありますぞ!」
「モルティナ殿! あの盾さばき、感動いたしました!」
「ラッツ殿は……ええと、今回はどのようなご活躍を?」
「えっ……あ、あー……その……応援っすかね……?」
拍手と笑いが入り混じり、決闘の余韻が宴を熱に変える。
和解という言葉では足りない。あれは戦場を共にした者同士にしか芽生えない友情だった。
ガルドも豪快に肉を頬張り、隣ではバルゴラスが酒樽をそのまま抱え込み、上機嫌に笑っていた。
「はっはっは! いやはや、これぞ戦士たちの饗宴でありますな!」
一方、隅の席でしょんぼりしていたのはモルティナとラッツだった。
「……ガルドがすごすぎて、わたし、全然役に立てなかった」
「俺なんて幻影だしたり盗んだりしてただけっすよ……兄貴の引き立て役にすらなれてねぇ……」
二人の肩が同時に落ちたその時――頭の中に女神の声が響いた。
『――聞こえますか、モルティナ、ラッツ』
「ええっ!? 女神様!? 酒の席にまで!?」
『あなたたちが負い目を感じているのは知っています。ですが――朗報です。ここであなたたちを転職させます!』
突然の閃光が二人を包み、兵士たちが「おおっ!?」とどよめく。
モルティナの盾に新たな光の紋が刻まれた。
「……これは……」
『【聖盾騎士】。守るだけでなく仲間の力を増幅させる盾、それがあなたです』
ラッツの短剣がふわりと宙に浮かび、幻影がもう一振りの刃を映し出す。
「な、なんだこれ!?」
『【幻影盗賊】。幻惑と奪取を合わせ、敵を翻弄する新しい道よ』
二人は同時に叫んだ。
「「これでガルドについていける!」」
モチベーション爆上がりの二人は杯を掲げ、勢いよく酒を飲み干した。
その様子にガルドは「はぁ……まぁやる気ならいいけどよ」と頭をかき、微妙に照れ隠しした。
そこへ、酒樽を片手にしたバルゴラスがやってきた。
「む! なにやら強敵の予感! モルティナ殿、ラッツ殿! 是非とも私と一つ、手合わせ願えませんかな!」
二人は顔を見合わせ、同時に引きつった笑みを浮かべた。
「「遠慮します!!!!」」
バルゴラスは「なんと残念!」と肩をすくめ、再び酒をあおった。
宴が続く中、ただ一人、真顔を崩さない者がいた。
リリアである。
「本日より補給班は明朝五時に再集結。酒量は制限を設けるべきと判断。兵の士気維持には規律が不可欠――」
「いやいや、今くらいは崩そうぜ!?」カイが突っ込み、
「リリア、もう洗脳は解こうよ」とモルティナが心配する。
だが、ルナリアだけはうっとりと頬を染めていた。
「軍人リリア……ああ、凛々しい……尊い……可愛い……!」
ごすっ。
リリアの拳がストレートでルナリアの顔面を撃ち抜いた。
「黙れ、糞虫」
鼻血をだらだら流しながら、ルナリアは「ひぃぃ……これが愛……」と恍惚の表情で崩れ落ちる。
一同、ドン引き。
そんな空気をさらりと切り裂いたのは、やはりバルゴラスだった。
「実を申し上げますと……洗脳などはしておりません」
「……え?」
「彼女の腐りきった性根を叩き直そうとしただけであります。それが予想以上に上手く行きましてな。勝手に“軍曹”と名乗り出した時は、さすがに私も引きました」
「……」
「しかし有能であったゆえ、放置しておりました。以上であります」
一同、呆然。
ラッツが「マジかよ……」と呟き、モルティナは「でも前より頼れるし……まぁいっか」と苦笑。
ガルドは頭を抱えた。
「……勝手に軍曹名乗るなよ……」
宴は夜通し続いた。
歌い、踊り、飲み、食らい――戦士たちの笑い声が都を揺らした。
――だが。
翌朝。
拠点の床には、酒瓶と転がる勇者一行。
ガルドは額を押さえて呻き、
「……頭痛ぇ……」
モルティナは二日酔いで真っ青になり、「盾が……重い……今日は無理……」と布団から出られず、
ラッツは「ひぃ……幻影がいっぱい見える……これがファントム……」と寝言を呟く始末。
そしてリリアは軍人モードがすっかり崩れ、布団にくるまりながら「やだー、もうちょっと寝かせてよー」と甘ったるい声を漏らしていた。
ガルドは全員を見渡し、大きくため息をついた。
「……お前ら、昨日まであんだけ格好つけてたのにな……」
戦いの熱狂は去り、英雄たちはあっけなく日常へと帰っていく。
勇者の頭痛の嘆きが、拠点の天井に虚しく響いていった。




