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第4章 ep.20 決闘の地にて ― 反乱軍との共闘

わずか三日。

 短い、と言えば短い。だが、彼らにとっては濃密すぎる時間だった。


 ラッツは臆病ゆえに新たな技を得、ルナリアは彼を導くことで執念を研ぎ澄ました。

 モルティナは迫り来る攻撃を全方位で受け止めるための技を磨き上げた。

 そして勇者ガルド――彼もまた、マッチョ軍団と汗を流し、秘薬のプロテインで筋肉を一回り増した。


 だが心の奥底で、彼は別のことを思っていた。


(……うるさい奴らだ。いつも邪魔ばっかりしやがって。)


 憎たらしい。鼻につく。素直に感謝なんて言えるか。

 けれど、荒れてぐれていた自分を、無理やりでも引っ張ってきたのは彼らだった。

 まだ日数は浅い。それでも、命を張って戦い、罵り合いながら笑った冒険の日々は、どこか楽しかった。


 だからこそリリアを取り戻すのだ。

 彼女を欠いたままでは、仲間と笑う未来も、剣を振るう意味も、すべてが虚しい。


 誰も口にしない。だが想いは一つだった。

 必ず助ける。必ず奪い返す。

 ――だから、三日で十分だった。


 スパルディア城の北、反乱軍が用意した闘技場。


 夜空を裂く松明の炎が観客席を照らし、石畳の上に長い影を落とす。

 中央に広がる砂は赤黒く染まり、幾度も血を吸ってきたことを物語っていた。

 荒涼とした空気の中、ひとりの男が姿を現す。


 漆黒の軍服を身にまとい、貴族のような所作で胸に手を当てる。

 だが、その微笑の奥には蛇のような冷酷さが潜んでいた。


「ようこそ、勇者一行。そして反乱軍の諸君」

 バルゴラスの声は紳士的で、よく通る。

 それでいて、観衆の心を底冷えさせる冷酷さを孕んでいた。


「約束どおり、五十対五十の決闘を用意した。……存分に戦い、そして散るがよい」


 その宣言と同時に、リリアの率いる兵たちが姿を現す。

 剣士、槍兵、魔導師、暗殺者。精鋭五十。

 対するは勇者一行と反乱軍の五十。


 数は拮抗していた。だが空気の重さは圧倒的にこちらの方が重い。


 太鼓が鳴り響く。


 砂塵が舞い、両陣営が動き出した瞬間――勇者一行は悟った。

 リリアの采配は、まるでこちらの弱点をすべて見透かしたかのように巧妙だった。


 モルティナとカイには、素早い槍兵の部隊。

 ラッツの前には暗殺者。

 ルナリアには同じ暗殺術を操る女刺客。

 ガルドは、未だリリアに辿り着けないよう戦線を分断されていた。


「くっ……!」

 互いの額に冷や汗が伝う。

 仲間たちは胸の奥で叫んでいた――これは“読まれている”。


 奥に立つリリアは冷たい目で全体を見渡していた。

 その眼差しは、かつての温かさを欠き、氷の刃のように鋭い。


「リリア……!」

 ガルドは喉が裂けるほどに叫びたかった。だが届かない。


 戦況はすぐにはね返った。


 槍兵の突撃を、モルティナは盾を広げて受け止めた。

「――【鋼壁の翼】!」

 仲間を羽のように包み込み、突き出された穂先を次々と弾く。


 その隙を逃さず、カイが爆弾を投げ込む。

「どけぇッ!」

 盾と爆弾の連携。二人が背を預けることで、四方八方からの攻撃をもぎ取る。


 一方、魔導師の火球が降り注ぐ。

 モルティナは跳躍し、空に盾を掲げた。

「【天空の護り(エアリアル・ガーディアン)】!」

 光を帯びた盾が炎を弾き返し、爆炎は観客席に砕け散った。


 反乱軍の兵士たちがその後ろ姿を見て歓声を上げる。

 ただの食いしん坊だった少女が、今や戦場を覆う守護者となっていた。


 ラッツは暗殺者の刃に怯えながらも、恐怖を逆手にとった。

「ス、スティール・ハンド!」

 迫る短剣を奪い、幻影を残して背後へ回り込む。

 敵の目が一瞬泳いだ隙を、味方が突く。


 ルナリアは女刺客と刃を交え、瞳に狂気を宿した。

「リリアを……穢すなぁぁぁ!」

 叫びと共に短剣が閃き、女刺客の肩を裂いた。


 戦場は次第に拮抗し、血と汗の匂いが入り混じる。


 やがて戦線は乱れ、混沌へと変わった。

 その隙をついて、ガルドは仲間と反乱軍の援護を受けながら前へ進む。


 剣を振るうたび、鍛え上げた筋肉が唸りを上げ、敵兵を次々と弾き飛ばした。

「おおおおおッ!」

 風圧が砂塵を巻き上げ、道が開けていく。


 そして――彼女が視界に現れた。


 黒き鎧を纏い、無表情のまま剣を構えるリリア。

 その瞳は氷のように冷たく、かつての温もりを欠いていた。


「リリア……!」

 ガルドの声が震えた。


 剣と剣が交わり、火花が散る。

 互いの瞳が交錯する。


 冷たい瞳の奥に、ほんのわずか――揺らぎが見えた。


「頼む……戻ってきてくれ! お前を失いたくないんだ!!」

 剣を押し返しながら、ガルドは必死に叫んだ。


 戦場の喧騒が遠のき、二人の剣戟だけが世界を叩き割るように響いていた。

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