第4章 ep.18 全方位の盾 ― モルティナとカイの特訓
夜の拠点。
モルティナは焚き火の前で、盾を膝に乗せたまま俯いていた。
「……私に何ができるんだろう」
ぽつりと漏れた声は、炎に飲み込まれるほど小さい。
その隣に、カイが腰を下ろした。
「よぉ、らしくないな。悩んでる顔して」
「分かんないの。私が正面からの突撃を防ぐのは得意よ。
でも……それ以外は、全然ダメ。
背中を突かれれば崩れる。横から押されれば流される。
どうすればいいのか分からない……」
拳を握り締めるモルティナに、カイはにやりと笑った。
「なら――できないことを、できるようにすりゃいいだけだろ?」
軽い言い方だった。だが、モルティナの心に響くものがあった。
「そんな簡単に言うけど……どうやって?」
「まかせな!」
カイは胸を張った。
「お前専用の特別メニュー、作ってやんよ!」
モルティナは目を丸くした。
「……カイ、あんた鍛冶師でしょ? 戦いのことなんて分かるの?」
「おいおい! もちのろんよ!」
カイは鼻を鳴らして笑った。
「武器ってのはな、戦い方に合わせて作り方を変えるもんだ。
剣士がどう動くか、槍兵がどんな距離で突くか、盾役がどの角度で受けるか――
それを知らなきゃ武器も防具も打てねぇ。
つまり、“鍛冶師より戦いに詳しい職業なんてない”ってことさ!」
モルティナは呆れたように眉をひそめる。
「へぇ……大きく出たわね」
「にゃはっはっは! ただし実践はからっきしだけどな!」
頭をかきながら笑うカイに、モルティナは思わず吹き出した。
「……あんたってほんと、変なやつ」
「ま、信じてくれりゃいい。お前を“全方位の守護者”にしてやる」
その言葉に、モルティナは盾を握り直した。
彼女の瞳に、再び火が灯り始めていた。
カイが作った特訓場――壁や床、天井に無数の仕掛けが張り巡らされた拷問のような広間。
槍が突き出し、矢が飛び、丸太が落下し、背後から木人形が突進してくる。
モルティナは盾を構え、汗を滴らせながら歯を食いしばった。
「正面はいい……でも横は……っ!」
横合いからの木槍を受け止める――が、力で押されて膝をつく。
「背中ががら空きだぞ!」
カイの叱咤が飛ぶ。すぐさま背後から木人形が突っ込み、モルティナは転がった。
「ぐっ……まだ……っ!」
腕は痺れ、呼吸は荒れ、何度も膝をつく。
それでも、盾を握る手を決して離さなかった。
夜が明け、再び訓練。
今度は丸太が天井から落ちてくる。
反射的に盾を掲げ――だが、腕を硬直させず流すように受ける。
ゴンッ、と衝撃は走ったが、体は崩れない。
「……! できた!」
「そうだ! それが――【天空の護り(エアリアル・ガーディアン)】だ!」
カイの声に、モルティナは息を荒げながらも笑みを見せた。
次は横からの木槍。
盾を大きく振るのではなく、翼のように広げて斜めに受け流す。
槍が弾かれ、逆に相手の体勢が崩れる。
「――【鋼壁の翼】!」
モルティナの声が、訓練場に響く。
最後は背後。
人形の足音を聞き分け、振り返らずに盾を半回転させて叩き込む。
ガンッ! 木人形が粉砕され、床に転がった。
「――【反逆の背盾】!」
カイが拍手を打ち鳴らし、目を輝かせた。
「やったな……! これでお前は、本当に“全方位の守護者”だ!」
モルティナは深く息を吐き、盾を胸に抱いた。
「正面だけじゃない……どこから来ても、私は守れる。
リリア……必ずあなたを連れ戻す。そのために、この盾を磨いたんだから」
焚き火の光を受け、モルティナの瞳は鋼のように強く輝いていた。




