第4章 ep.15 軍神と裁定者
勇者一行が石室へ踏み込むと、そこには椅子に腰掛けるリリアと、捕らえられたルナリアとラッツの姿があった。
「……遅かったな」
リリアは冷たく笑みを浮かべた。
「だが、貴様らのような腑抜けには上出来だ」
「ルナリア! ラッツ!」
モルティナが思わず駆け寄ろうとする。だが、リリアの一瞥で足が止まった。
「リリア……何を言ってるんだ!」
ガルドが叫ぶ。
「私はもはや“仲間”などではない。
スパルディア副官、リリア・マッスル少佐だ!」
その号令と共に、周囲の精鋭兵たちが一斉に動いた。
盾列と槍が揃い、まるで一つの鉄壁となって勇者一行に襲いかかる。
リリアの号令と同時に、精鋭兵が一斉に動いた。
盾列が組み上がり、槍が一点に突き出される。
その先頭に立つのはリリア――軍神と呼ぶにふさわしい威容。
「第一声! 前へ!」
「第二声! 盾を揃えろ!」
「第三声――心臓を突けぇ!!」
声が轟くたびに兵の動きが精密さを増し、連携は一糸乱れぬ機械のように噛み合う。
ガルドはソル・エクリプスを振り抜いた。
光と影の二重斬撃が兵を弾き飛ばし、槍を粉砕する。
だがその背後から、すぐさま別の槍が突き出される。
リリアの檄が、兵に常識外れの速さを与えていた。
「ぐっ……!」
ガルドは肩で槍を受け止め、剣で弾き飛ばす。
返す刃をリリアへ――。
その瞬間、全身が凍り付いた。
振り下ろせば、リリアを斬れる。
だが、それは仲間を斬るということだった。
「くそっ……! できるかよ……そんなこと!」
躊躇の刹那。
リリアの足が疾風のように踏み込み、軍靴の踵がガルドの脇腹を抉った。
「がっ……はぁッ!」
巨岩に叩きつけられたような衝撃。
ガルドは膝をつき、血を吐いた。
「立てよ、腑抜け」
リリアの瞳は氷の刃。
号令と冷笑で、精鋭兵たちが再び包囲を組む。
(勝てる……本気でやれば、俺の剣なら突破できる……!
だけど……相手はリリアなんだ。仲間なんだ……!)
剣を握る拳が震える。
刃は研ぎ澄まされているのに、心は決断できない。
その迷いが、ガルドの全身を縛り付けていた。
リリアの号令が再び轟く。
「第二列、突撃! 奴を押し潰せ!」
怒涛の槍が迫る。
防戦一方、剣が弾かれる音が石室に響き渡った。
その時。
石室に巨躯が現れた瞬間、空気が一変した。
黒鉄の鎧を纏う四天王――バルゴラス。
「……実に醜い戦いだ」
その一言に、全ての兵が動きを止める。
リリアでさえ軍靴を揃え、背筋を伸ばした。
「リリア大尉。やめなさい」
「し、しかし上官殿!」
リリアは声を張る。
「ガルドはいずれ魔王様の脅威となりましょう! 今のうちに芽を摘む許可を!」
バルゴラスの瞳が鋭く光った。
「黙れ。……醜いのは、お前ではない。
本気を出せぬまま刃を振るうガルド殿の姿だ」
その言葉に、ガルドの胸が抉られた。
「仲間を斬れぬ迷い……。
剣を握りながら、その想いが枷となっている。
そんな戦いは戦場を汚すだけだ」
バルゴラスは大地を踏み鳴らし、宣言する。
「だが方法はある。殺さずに決着をつける舞台――
新スパルディア式決闘だ」
◆新スパルディア式決闘:ルール
軍団同士の戦いであること。
指揮官とその兵を同数揃え、真正面から激突する。
姑息な手段は禁止。
毒殺・隠密・逃亡はすべて不正と見なす。
勝敗の条件は指揮官の降伏、または軍団の壊滅。
命を奪う必要はない。
決闘は三日後。
我が軍が整える戦場で執り行う。
バルゴラスはリリアに視線を向ける。
「ガルド殿を殺すな。屈服させ、魔王軍に引き入れよ」
リリアは即座に踵を鳴らした。
「イエッサー!!」
巨漢は満足げに頷き、去り際に言い残す。
「三日後にここへ来い。舞台は……完璧に整えておく」
戦場に残された勇者一行。
重い沈黙の中、ガルドは剣を握った拳を震わせた。
(……三日。立て直す時間をくれるなんて、敵にしては破格だ。
だが、どうにもきみのわりぃ……。
リリアを殺さずに戦えってか。
あの巨漢は……いったい何を考えてやがる……!)
ガルドの奥歯が軋む音だけが、石室に残響した




