第4章 ep.14 軍神の号令
矢は寸分違わず喉を射抜き、影の刃は鎧の隙間を裂いた。
ルナリアとラッツが織り成す攻撃に、精鋭兵たちは次々と崩れていった。
「はぁ、はぁ……! ど、どうっすかルナリアの姉御!俺、やれてますよね!」
ラッツは汗まみれで振り返る。
ルナリアも口元に僅かに笑みを浮かべた。
「悪くない。……だが油断するな」
その時だった。
奥で腕を組んでいたリリアが、ようやく腰を上げた。
瞳に冷たい光を宿し、石室に声を轟かせる。
「――貴様ら、それでもスパルディア兵か!!」
瞬間、兵士たちの背筋が一斉に伸びる。
恐怖にも似た響きが胸を貫き、全身の筋肉を強制的に引き締める。
「第一声、前へ!
第二声、盾を揃えろ!
第三声、心臓で槍を突けぇぇ!!」
スパルディア式の号令――
それはただの掛け声ではなかった。
軍神の声は兵の理性を超え、肉体そのものを駆動させる。
崩れかけていた隊列が瞬時に組み直り、盾と槍が一糸乱れぬ壁となった。
兵の動きは明らかに速く、重く、正確になっていた。
「なっ……!? さっきまでと別物じゃねぇか!」
ラッツが絶句する。
ルナリアの矢が放たれる。だが盾列は刃物のような角度で傾き、矢を弾いた。
兵の槍が一点に集中して突き出され、ラッツの脇腹をかすめる。
「くっ……ぐあっ!」
鮮血が飛ぶ。
「見たか、これが統制だ!」
リリアが軍靴を踏み鳴らすたび、兵たちの攻撃が波のように重なった。
ルナリアは歯を食いしばり、再び弦を引き絞る。
しかし――
(本来なら私が上回るはず……なのに、軍神の檄で兵がここまで変わるなんて……!)
押し寄せる盾列、響き渡る号令。
二人は徐々に追い詰められていく。
その時、遠く城門から轟音が響いた。
視界が揺れ、空気が震える。
轟音とともに夜が裂けた。
ソル・エクリプスの閃光とアイギス・オブ・フェイスの光輪が、敵陣を一瞬で粉砕する。
「ガルド、右からくるわ!」
「分かってる!」
剣と盾がぶつかり合い、二人の動きはまるで呼吸のように噛み合っていた。
ガルドの一撃が敵の列を斬り開き、そこへモルティナの盾が流れるように叩き込む。
敵兵は吹き飛び、次の瞬間には別の槍をガルドが弾き払う。
「おらぁぁぁッ!!」
反乱軍も雄叫びを上げ、鍛え上げた肉体で次々と敵を粉砕していく。
筋肉と闘志の奔流は、戦場を押し流す大河のようだった。
その後方で、カイは懐から小さな筒を取り出す。
「……おっと、ここで秘密兵器だ」
ピンを外すと、筒が火花を散らし、閃光と煙が一気に広がった。
敵の目をくらませ、その隙に爆竹のような音が鳴り響く。
「今だ! 突っ込め!」
「ナイスサポートだカイ!」
敵陣が完全に乱れた。
道が大きく開け、反乱軍は歓声を上げる。
「ここからは俺たちに任せろ!」
バルドが前へ躍り出て叫ぶ。
「三時間目のスクワットを今こそ成果に変える時だ!」
「「おおおおおッ!!」」
反乱軍の雄叫び(控えめ)が夜に轟く。
勇者一行はうなずき合い、奥へと突き進んだ。
そして――石室。
「……遅かったな」
そこに立っていたのは、軍神と化したリリア。
背後には剣を構える精鋭兵。
その足元には、無残に地へ伏すルナリアとラッツの姿があった。
銀の弓は折れ、ラッツの短剣は血で鈍り、二人ともボロボロに捕らえられている。
「だが、貴様らのような腑抜けには上出来か」
リリアの声は冷酷そのものだった。
「……ルナリア……! ラッツ……!」
モルティナが駆け寄ろうとするが、リリアの鋭い眼光に足が止まる。
ガルドは拳を握りしめ、血管が浮き出るほどに強張った。
「……てめぇ……仲間を……ッ!」
その声は、いつもの豪放な戦士のものではなかった。
怒りに燃える獣の咆哮だった。




