第4章 ep.12 地下と陽動
夜の風が、城壁に絡む鉄の匂いを運んでくる。
反乱軍と勇者一行は、闇に紛れながら進んでいた。
「……今だ。行くぞ」
ガルドの合図とともに、一行は城の外壁をよじ登る。
ルナリアが指し示した「窓際から二番目」。そこに向かうはずだった――。
だが。
「っ……待て!」
バルドの声が鋭く止まる。
暗闇に、人影が整列していた。
鎧の継ぎ目から漏れる灯火、整然と揃えられた槍の穂先。
待ち構えていた。完全に。
「……なんでだ。ここの巡回は薄いはず……」
カイが顔を青ざめさせる。
次の瞬間、城壁の上から矢が雨のように降り注いだ。
「隠密雄叫びィィィ!!!」
反乱軍が叫びを飲み込み損ね、控えめに爆発。洞窟で鍛えた雄叫びは夜空に響き渡り、奇襲の意味は完全に消えた。
「ルートが……読まれてる!」
モルティナが震える声で告げる。
ガルドは咄嗟に剣を抜いた。矢を叩き落としながら、低く呟く。
「……誰かが、漏らしたか。いや――筒抜けだ」
そのとき。
「……もうひとつ、道がある」
ルナリアの声は氷のように冷えていた。
銀の瞳が夜を貫く。
「正面は罠。だけど、地下水路がある。匂いと音を頼りにすれば辿れるはず」
「地下水路?」カイが振り返る。「なんでそんな……」
ルナリアは答えず、ただ一歩前に出る。
「リリアは、待ってる。私が行く」
その背中に殺気と焦燥が滲む。
彼女の刃は、敵へか、それとも己の執念へか。
反乱軍はうろたえ、モルティナは唇を噛みしめる。
ガルドが低く言い放った。
「……よし。二手に分かれる。ルナリアとラッツは地下へ。それ以外は正面から陽動だ」
「承知!」筋肉の隊長が槍を鳴らし、控えめハイタッチで仲間と気合を交わした。
矢の雨を背に、勇者一行は裂ける。
正面突破か、地下侵入か――。
夜風が血と鉄の匂いを濃くしていく。
城門前に押し寄せる兵の波。
鬨の声と槍の森を前に、ガルドとモルティナが同時に前へ出た。
「……来るぞ」
「ええ、一気にいくわよ」
夜を裂くように、二つの武器が光を放つ。
ガルドが振り抜いた瞬間、刃の表層に刻まれた太陽と月のルーンが交差した。
光と影が刃に宿り、斬撃は二重の軌跡を描く。
一閃で盾列が両断され、兵士たちの槍が軸からへし折られる。
直後、影が遅れて爆ぜ、兵たちを飲み込んだ。
「なっ……!?」
敵兵は目を見開く。刃の“光”で先を読み、“影”で逃げ場を失う。
まるで二度斬られるかのような錯覚。
モルティナの腕を覆う大盾に、淡い光輪が走った。
敵が突撃してきた瞬間、盾面が共鳴音を立て、衝撃を吸い込む。
次の拍子に――蓄えた力が一気に逆流し、盾の紋様から放射状に光の奔流が解き放たれた。
「ひぃっ!? な、なんだこの反動は!」
兵士たちが一斉に吹き飛ばされ、盾の前には無人の円環が広がった。
さらに、倒れかけた仲間の前にモルティナが立つと、盾の光が薄膜となって味方を包み込む。
まるで“信じる心”を実体化させたかのように。
「おいおいおい……」
カイは自分の額を押さえた。
「ソル・エクリプス、影の爆裂まで仕込んだ覚えねぇぞ!?
アイギスも、こんな派手なリフレクト機能は――。
……俺、何作っちゃったんだ……?」
バルドが涙目で叫ぶ。
「筋肉すら太刀打ちできんッ! これが文明の力……!」
斬撃と光壁が夜を裂き、敵軍の隊列を粉砕していく。
兵たちは恐慌し、城門前はあっという間に瓦解した。
反乱軍の雄叫び(控えめ)が夜に響く。
その陰で、ルナリアとラッツは静かに地下水路へと消えていった――。




