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第4章 ep.10 スパルディアの筋肉文化

勇者一行はバルドとゴルドの案内でスパルディアの都に足を踏み入れた。

 石畳の大通りは活気に満ち、人々の顔には誇らしげな自信が宿っている。

 しかし、誰もが揃って上裸に近い服装で、筋肉を誇示していた。


「……なあ、これ、服屋とか潰れてないか?」

 カイがぼそりと呟く。

「布地よりプロテインのほうが価値あるからな」

 バルドが即答した。


 街角の掲示板には、細かい条例がびっしりと書き出されていた。


早朝五時の朝スクワットは義務。 不参加は罰金三個のゆで卵。


挨拶の代わりに筋肉ポーズをとること。 しなかった場合は軽犯罪扱い。


婚姻時には双方の筋肉量を測定。 夫婦の筋肉差が大きすぎる場合、役所から「補強計画書」の提出を命じられる。


「補強計画書ってなんだよ!」

 カイが思わず叫ぶ。

「子を産むにも、国の筋肉水準を満たさねばならんのだ」

 ゴルドが真剣に答える。


「……なんか、理にかなってるような……でもやっぱおかしい……」

 モルティナは頭を抱えた。


 通りを抜けると、子どもたちの掛け声が聞こえた。

「ワン! ツー! スリー!」

 小学校の校庭では、生徒全員が小さなダンベルを持ち、リズム運動をしていた。


「国語や算数は?」

 ラッツが首を傾げる。

「基礎教育はある。だがまず筋肉。筋肉こそが思考を支える基盤だからな」

 バルドは当たり前のように言った。


 さらに街角の神殿では、司祭が大声で経典を唱えていた。

「筋肉を讃えよ! 筋肉は裏切らず! 筋肉はすべてを救う!」

 信者たちは筋肉像の前で腕立てを繰り返し、汗を供物として捧げている。


「……やばい、宗教まで筋肉漬け……」

 カイは絶句した。


 市場に立ち寄ると、屋台の親父が声を張り上げた。

「プロテインバー五本で銅貨一枚! 増量期にぴったりだよ!」


 ガルドが手に取り、かじってみる。

「……まずいが……腹にくるな」

「それは“効く”ってことだ!」

 親父がサムズアップする。


 別の屋台では「筋肉占い」が行われていた。

 占い師は客の上腕を揉みながら言う。

「ふむ……右腕が発達している。近々好機が訪れるぞ」

「ほんとか!? じゃあ今日からベンチ重量上げるわ!」


「なにこれ……文化として完全に定着してるんだな」

 ラッツは感心しきりだった。


 広場では、ちょうど裁判が始まっていた。

 罪状は「納筋逃れ」――つまり筋トレを怠った罪。


 被告の男は痩せこけた体で舞台に立たされ、民衆は一斉にブーイングを浴びせる。

「恥を知れ!」「その体で成人だと!?」「筋肉に謝れ!」


「筋肉が証言する……!」

 裁判長の一声で、被告はおずおずと服を脱いだ。

 会場からため息がもれる。


 男は必死に弁護しようと腕立てを始めた。

「ほ、ほら! 俺はやれる! まだ動く筋肉が残ってる!」


 観衆がざわつき、拍手が広がった。

 判決は観衆の拍手数で決まる――この日は半々、執行猶予。

「三か月間、毎朝五十回のスクワットを命ず!」


 男は泣き崩れ、観衆から「筋肉に感謝を!」の声が飛ぶ。


「な、なんだよこの国……裁判すら筋肉頼り……」

 カイが頭を抱える。


 ガルドは無言で腕を組み、自分の筋肉を確認していた。

「……筋肉に嘘はつけねぇ、って理屈か……」


「納得すんな!!」

 カイが叫ぶ。


 モルティナは青ざめていた。

「私……この国にいたら女子力って概念が死にそう……」


 だがラッツだけは目を輝かせていた。

「すげぇ……俺も裁判で戦えるくらいの筋肉ほしいっす!」

「お前は絶対染まるな!!」


 悪政を覚悟していた一行の前に広がったのは――奇妙なほど健全で、筋肉に支配された平和な社会だった。


「……これ、本当に討伐すべき相手なのか?」

 カイがつぶやく。


 しかしその時、遠く宮殿の中では――

 リリアが「軍曹」として生まれ変わりつつあった。

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