第4章 ep.9 リリア軍曹と銀髪エルフの会合
夜の宮殿。
月明かりを浴びながら、一人のエルフが静かに廊下を歩いていた。
銀色の髪を背に垂らし、切れ長の瞳には確かな決意が宿っている。
「……私の名はルナリア。銀弓の森の生まれ、誇り高きエルフの戦士……」
彼女は胸に手を当て、己に言い聞かせるように呟いた。
「人間の国に囚われた哀れな聖女――リリア。必ず救い出す。
あの子は……この世界に光をもたらす存在なのだから……」
数日前、偶然見たリリアの微笑みが、ルナリアの心を焼いて離れない。
(ああ……苦境にあってなお笑おうとするあの姿……。
なんて尊い……私の命を賭してでも、守らなければ……!)
そんな彼女の前に現れたのは――リリア。
だが、その姿はルナリアが憧れた可憐な聖女ではなかった。
「はっ! 夜間巡回、完了でありますッ!!」
背筋を伸ばし、目をぎらつかせたリリアが軍人のように叫んでいた。
ルナリアは思わず息を呑んだ。
(……拷問を受け、心を壊されてもなお毅然としている……!
苦しみに耐え、笑顔を隠して仲間を守ろうとしているのね……なんて尊いの!)
「リリア!」
ルナリアが駆け寄る。
「はっ! 誰だッ! 不審者か!? 報告せよッ!」
「ち、違うわ! 私よ、ルナリア! あなたを救いに……」
「救い? 甘えるなァ! 自分を救えるのは自分の筋肉のみでありますッ!」
「ひぃっ……! な、なんて強い……!」
「働かざる者、筋肉を得ず! 悩む暇があったら腕立てしろッ!」
「……♡」
ルナリアは胸を押さえ、赤面して震えた。
(ああ……自分のことより他人を叱咤するなんて……まるで聖女! いや軍神……!)
「リリア、私は……どうしても、あなたを助けたいの……!」
堪えきれず、ルナリアは両腕を広げ、抱きつこうとした。
「――甘えるなぁぁぁぁ!!!」
リリアのストレートが炸裂し、ルナリアは顔面に直撃。
「ぶふぁっ!!」
壁に叩きつけられ、ずるずると床に崩れ落ちる。
リリアは冷たい眼差しでつばを吐き捨てた。
「糞虫が……」
そう言い残し、軍靴の音を響かせて去っていった。
残されたルナリアは、血を流しながら恍惚と呟く。
「ああ……私を敵地から追い出すために、あえて冷たく……!
こんなに私を愛してくれる人、初めて……素敵……♡」
頬を赤らめ、拳を握りしめる。
「絶対にあなたを救い出すわ、リリア……! そのためには仲間が必要……」
彼女の脳裏に浮かんだのは、ここ数日耳にした噂。
「――反乱軍。筋トレ制限に反発する者たち……! きっと彼らなら、私の力になってくれる……!」
ルナリアは闇に消えた。
その瞳は、リリアへの狂信と愛でぎらついていた。




