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第4章 ep.8 リリアの日常 ― バルゴラス・ブート・キャンプ

一日目 歓待


 リリアが目を覚ますと、そこは豪奢な宮殿の一室だった。

 絹のカーテン、ふかふかのベッド、そして山のような料理。


「な、なにこれ……誘拐されたんじゃなかったの?」

 戸惑いつつも、口にしたワインとロースト肉は絶品。

「うわ……なにこれ、異世界バカンス……? やったぁ!」


 こうして、彼女の“初日”は優雅なリゾート気分で過ぎていった。


二日目 悪夢の幕開け


 だが翌朝。状況は一変する。

 リリアは広場に連れ出され、兵士たちと共に整列させられた。

 壇上に立つのは四天王――バルゴラス。


「貴様ら! 今日から地獄を見せてやる! これがスパルディア式――ブート・キャンプだ!」


「ちょ、えええ!? むりむりむり! そんな足あがらないってば!」

「甘えるな、糞虫!」

「ひぃぃー! こわっ!! もうむりです死んじゃう! いっそ殺してバルゴラスさま!!」

「今は“教官”と呼べ糞虫! よし次はスクワットだ!」

「あっあー! だから来たくなかったのよぉぉ!」


 泣き叫ぶ声が訓練場に響き渡る。

 長年引きこもりニートとして暮らしてきたリリアの精神は、体より先に悲鳴をあげていた。


二日目・夜 鬼軍曹の優しさ


 地獄の訓練が終わると、リリアは地面に大の字になり動けなくなった。


「……もう死ぬ……糞虫は死ぬ……」

「よく耐えましたね! 偉いですよ!」


 耳を疑った。

 バルゴラスが、さっきまでの鬼の顔から一転、笑顔で拍手していた。


「筋肉は追い込むだけでは育たない。休養も栄養も必要だ。

 ほら、タンパク質を摂りなさい」


 差し出されたのは豪華なステーキと卵料理。

 その後はエステでマッサージを受け、極楽のひとときを過ごす。


「な、なんで拷問の後にスパ待遇……?」

「筋肉も心も同じ。酷使したらリラックスが必要なのです」


 深夜のカウンセリングでは、バルゴラスが穏やかに語った。

「働く理由は人それぞれ。対価のため、やりたいことが仕事だから……。

 ではあなたは、何のためなら働けると思えますか?」


「……わ、私が……? 何のため……」

 リリアは初めて真剣に考え、胸の奥がざわついた。


三日目 心の揺らぎ


 翌日も訓練は苛烈だった。

 腕は痺れ、脚は棒のよう。だが昨日よりは動ける。


「よくできました! 成長していますよ!」

 褒められると、思わず頬が熱くなる。


 その夜、ベッドで毛布にくるまりながら天井を見つめた。

(……なんでだろ。きついのに、ちょっとだけ……やれた気がする……?)

(あれー? おかしいなー……ほんとにつらいはずなのにー……なんだかー……たのしいかもー?)


 瞳は虚ろに笑みを浮かべ、頭の中で軽快なリズムが鳴り出す。

(ワン、ツー、スクワットー♪ ツラいのにー♪ たのしいかもー♪)


 自分でも意味がわからない。ただ乾いた笑いが漏れた。

「……ひひっ……あはは……あしたも……がんばっちゃうかも……」


 リリアの自我は、確かに壊れ始めていた。


四日目 糞虫の返事


「糞虫! まだ限界じゃないだろう!」

「はっ!! 私は糞虫であります!! まだやれます!!」


 涙と汗で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、背筋を伸ばして声を張るリリア。

 兵士たちは「いい返事だ!」と歓声を上げ、バルゴラスも満足げに頷いた。


(……あれ……? 私……順応してる……?)


五日目 軍隊精神の芽生え


「起床だ糞虫ども!」

「おはようございます教官殿!!!」


 兵士たちの合唱に混ざり、リリアの声が誰よりも大きく響いた。

 自分でも気づかぬうちに、胸の奥が熱くなっていた。


「リリア! 姿勢がいい!」

「ありがとうございます教官殿!!!」


六日目 ノリノリ


「もっと追い込みをください教官殿ッ! 糞虫まだまだ回数足りませんッ!!」

 全力でスクワットを叫ぶリリアに、兵士たちがざわめく。


「あの子……もう完全に俺たちの仲間だ……」

「むしろ俺より声がデカい……」


七日目 軍曹化


 夜のカウンセリング。

「働く理由は見つかりましたか?」

「はい! 国を守るためッ! 仲間を支えるためッ! そして筋肉のためにであります!!」


 バルゴラスはにやりと笑い、親指を立てた。

「よし……お前はもう糞虫ではない」


「はっ! リリア・マッスル軍曹であります!!」

「誰がそんな名前をつけろと言ったァ!!」


八日目 完全洗脳


「お前たちは何だ!?」

「筋肉であります!!!」


 兵士たちの雄叫びに混じり、リリアが誰よりも大声で叫んでいた。

 かつて引きこもりニートだった少女は、いまや立派なスパルディア兵へと作り替えられつつあった。


(……あれ? 私……この国、結構好きかも……)

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