第4章 ep.4 筋肉決闘 ― ガルドVSゴルド
円形の土俵に二人の巨躯が立った。
ゴルドは脚をどっしりと開き、相撲取りのように掌を叩いて気合を入れる。
対するガルドは両拳を握りしめるが、背中に粘りつくような重圧を感じていた。
(こいつ……本物の“壁”だな)
「行くぞぉぉぉッ!」
ゴルドが吠えると同時に、地響きのような突進。
ガルドは正面から受け止めるが――。
ぐわん、と全身が揺れる。
肩に、腕に、凄まじい重量がのしかかり、肺が圧迫されて息が詰まった。
「ぬんッ!」
掌底が飛ぶ。
ガルドは腕で受け止めるが、その衝撃だけで体が数歩下がる。
さらに――ボディブロー。
巨体に似合わぬ速さで打ち込まれた拳が、鉄槌のように腹を叩いた。
「ぐっ……はぁ……!」
胃液が逆流し、視界が滲む。
次の瞬間、顎を狙ったショートフック。
ガルドはとっさに頭を引いたが、拳風で首が跳ねる。
組み付かれる。
両肩を掴まれ、膝蹴りが容赦なく襲いかかる。
必死に腕を下げてガードするが、打撃の衝撃が骨を震わせる。
「どうした勇者ァ! その程度か!」
ゴルドが咆哮。
「筋肉は正直だぞ! 貧弱な者は、筋肉に見捨てられる!」
「ぐ……うぅ……!」
ガルドは完全に押され、ただの人間の限界を思い知らされていた。
剣がなければ、自分はただ殴られ蹴られるだけの凡人――その現実が牙を剥く。
(……いや、違う。俺は凡人じゃねぇ。剣があるから強いんじゃない。剣を通じて、“武”を知っているから強いんだ)
ガルドは奥歯を噛み、ぐっと息を整えた。
全身に刻まれた剣士としての感覚を呼び覚ます。
剣を振るとき、刃はただ力任せに叩きつけるのではない。
力を受け、流し、捌き、隙を突く――そうして相手を斬る。
(剣は、ただの鉄じゃねぇ。武は、生き様だ)
次の張り手が飛ぶ。
ガルドは真正面から受けず、肩をすっとずらして力を流した。
衝撃が横に抜け、体は揺れなかった。
ゴルドの目が見開かれる。
「ほぅ……!」
「次は……こっちだ!」
ガルドの拳が、剣の突きのように一直線に伸びる。
短く鋭い一撃。ゴルドの顎が跳ね上がった。
流す、捌く、突く。
剣筋を拳に変換し、相撲を受け流しながら拳を打ち込む。
「ぐぬぅぅっ……!」
初めてゴルドの巨体が揺らいだ。
ガルドは腰を落とし、全身を連動させる。
剣を打つときの踏み込みを――そのまま拳と体当たりに変える。
「おおおおッ!」
拳と肩が同時にゴルドの胸を打ち抜いた。
巨体が浮く。
さらに掴んだ腕を捻り、体を返す。
剣で敵を斬り伏せる動きを、そのまま投げ技に。
「――どりゃああッ!」
ごうん! と音を立てて、ゴルドの巨体が土俵の外に叩きつけられた。
静寂。
仲間たちの息づかいだけが聞こえる。
「か、勝ったぁぁぁ!」
ラッツが絶叫する。
「ガルドさん……すげぇ、剣を振らなくても、剣士なんだ……」
カイも目を細めて呟く。
ガルドは拳を握り、汗に濡れた髪をかき上げた。
「……わかったぜ。剣はただの道具じゃねぇ。剣がなくても、俺の中に武はある。
だから……折れねぇ」
倒れたゴルドは、苦しげに息を吐き、そして笑った。
「……見事だ。勇者よ……お前の筋肉と武の心意気、しかと受け取った」
その言葉と共に、敗者の誇りとして土下座に近い深い礼を捧げた。




