第4章 ep.3 スパルディア式決闘
街道の先から、地鳴りのような足音が響いた。
姿を現したのは二人の男――いや、もはや人ならざる彫刻のような筋肉をまとった巨漢たち。
褐色の肌には余分な脂肪ひとつなく、盛り上がった大胸筋は鉄板のよう。肩から腕にかけては縄のように隆起した筋繊維がうねり、光を反射して鈍く輝いていた。
「な、なんだあれは……」
ラッツが思わず腰を抜かす。
男たちは胸を張り、同時に声を上げた。
「我ら、スパルディア尖兵!」
一人が一歩前へ。鼻梁は高く、鋭い目つきは獣のように光る。
「我が名はバルド・グランス! スパルディア武闘団筆頭にして、“鉄槌の右腕”と呼ばれし者!」
続いて隣の男がどん、と胸を叩いた。
「そして俺が弟、ゴルド・グランス! 同じく“剛弓の左腕”の異名を持つ者だ!」
二人は声を揃えて言い放つ。
「我ら兄弟、敗北を知らぬ双璧! だが敗れた者には絶対の忠誠を誓う、スパルディアの掟に従う者でもある!」
モルティナが小声で囁く。
「……スパルディア人はね、決闘で敗れた相手に絶対の忠誠を誓う習慣があるの。だからこそ国が丸ごと、バルゴラスに従ったのよ」
「へぇ……ずいぶん筋肉に忠実な国だな」
カイが肩をすくめる。
バルドが地を踏み鳴らす。
「ゆえに勇者よ! ここでスパルディア式決闘を申し込む!」
「スパルディア式……?」
ラッツがごくりと唾を飲む。
「ルールは単純! 一対一の勝ち残り戦! 素手のみ! 殺しは禁止! 屈服させるか場外へ叩き出せば勝ちとする!」
「はぁ!? 素手!?」
カイが叫んだ。
「そんなのまともにやれるの、お前くらいだろ!」
ガルドは口の端を吊り上げる。
「だったら俺がまとめてぶっ倒せばいいだけだ」
モルティナも胸を張る。
「わ、私だってやれるわ!」
――直後に足をもつれさせてすってんころりん。
「ふすっ」
「だーかーら無理すんな!」とカイが頭を抱える。
バルドが片手を上げ、重々しく告げた。
「では……まずは挨拶といこう」
その言葉と同時に、彼はゆっくりと上衣を脱ぎ捨てる。
鍛え上げられた大胸筋が朝日に照らされ、隆々とした腹筋が浮き上がる。
両腕を広げ、大地を揺るがすように叫ぶ。
「見よ! これぞスパルディア式第一礼――“大胸筋の神威”!」
ごぉん! と効果音が聞こえたような気がした。
次にゴルドが吼える。
「我が筋肉も負けてはおらん! 第二礼――“上腕二頭筋の双塔”!」
力強く腕を曲げると、隆起した二頭筋がまるで城門の柱のように盛り上がる。
「……な、何してんだよ」
ガルドが眉をひそめる。
「何をだと!? 決闘の前に互いの筋肉を褒め称え、筋肉の神に捧げる――これが礼儀!」
「……ちっ、めんどくせぇ」
舌打ちして服を脱いだ瞬間。
焚き火の光に浮かび上がったガルドの肉体は、想像以上だった。
引き締まった背筋は鋼の弦のようにしなり、腹筋は岩のように割れている。ポーズをとると、その肉体は美しさを通り越し、艶めかしさすら帯びていた。
「……ごくっ」
カイとラッツは思わず唾を飲む。
「なんと……!」
バルドとゴルドも驚愕に目を見開いた。
「外の戦士に、これほどの逸材がいようとは!」
「兄者! キレてるぞ! その背中、まるでバハムートが翼を広げているようだ!」
「キレてるよーー!!」
つられてカイとラッツも声を上げる。
「その広背筋アダマンタイト!」
観客と化した仲間たちの声援に、ガルドの筋肉もさらにキレを増していく。
「……もう無理。ついていけない……リリアぁ……」
モルティナは顔を覆い、女の子同士の癒やしを求めて泣きそうになっていた。
やがて、三人は全力のポージングを終えた。
ガルドとバルドが無言で見つめ合い――。
「……いい筋肉だ」
「お前もな」
ごつん、と分厚い手と手が握り合わされる。
その握手は、筋肉を神へ捧げる儀式の締めくくりでもあった。
「いい戦いができそうだな」
「おう、全力で来い!」
こうして――筋肉の神に見守られた決闘が、幕を開けた。




