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第4章 ep.2 決意と影

近隣の村。

 ガルドは粗末な寝台に横たわり、胸に巻かれた包帯を押さえていた。顔色は悪く、息も浅い。


「ぐっ……ポーションじゃ効かねぇ……! 内臓までやられたか……」


 カイが眉をしかめ、ため息を吐く。

「やっぱ軽傷用だな。血止めくらいはできても深手は追いつかねぇ」


 その横で、モルティナが瓶をがぶ飲みしていた。

「ごく、ごく、ごく……ぷはぁっ。……よし、治ったわ」


 ガルドが思わず身を起こす。

「……なぁ、お前、何本飲んだ?」

「十本くらいかしら」

「十ぉぉぉ!? 普通なら腹が破裂するぞ!?」


 女神の声が空から降りてきた。

『そうです、普通は死にます! ですがモルティナは例外。……ラッツで試してみなさい!』


「ちょ、ちょっと待っ――!」

 モルティナが有無を言わせずラッツの口をこじ開け、ポーションを突っ込む。


「ぐっ……せ、先に一本飲んでる、うっぷ、ぐぐぐ……! はぁっ……や、やめっ、もう無理――!」


 二本目、三本目が流し込まれ、ラッツは目を白黒させる。

 四本目を飲み干した瞬間――


「ぶくぶくぶく……!」

 白目を剥き、泡を吹いてぶっ倒れた。


「ラッツ――!?」

 ガルドが慌てて駆け寄る。


『言ったでしょう。普通はこうなるんです!』

 女神の声は、妙に母親っぽく響いた。


 重い空気を払うように、カイが立ち上がった。

 焚き火の炎に照らされた横顔は、いつになく真剣だった。


「おい勇者。俺も連れてけ」


 ガルドが顔を上げる。

「……カイ、お前は戦えねぇだろ」


「わかってる。俺は剣も盾も振れねぇ鍛冶屋だ。戦場で前に立つことはできねぇ。……だがな」

 カイは拳を握り、声を張る。


「剣も盾も、誰かが打たなきゃ折れるだけだ! 勇者だろうと四天王だろうと、素手じゃ戦えねぇ!

 だから俺は鍛冶屋として戦場に立つ。お前らの武器を、命を、絶対に折らせねぇ。それが俺の戦いだ!」


 炎がぱち、と弾ける。

 カイの目には、熱く揺るがない光が宿っていた。


「俺は世界一の鍛冶師だって胸を張って言える。腕だけじゃねぇ。――魂で打った剣だからだ。

 戦うのは苦手だ。でも、剣を持たせりゃ誰よりも光るんだ。だったら、その剣を折らせちゃいけねぇ。俺が守ってやらなきゃいけねぇんだ!」


 吐き捨てるような言葉だったが、そこには確かな温もりがあった。


 ガルドはしばらく黙ってカイを見つめ、ふっと笑う。

「……何言ってんだよ。仲間だろ勝手について来いよ」


「……おう」

 カイは鼻をこすり、照れ隠しのように笑った。

 だがその胸の内には、鍛冶師としての誇りと、仲間を救う強い決意が燃えていた。


道中・野宿の夜


 スパルディアへ向かう街道。

 一行は野営を張り、焚き火を囲んでいた。


「っと……」

 カイが小刀と木片を手にし、何やら作業をしている。


「何してんだ?」

 ガルドが尋ねると、カイはにやりと笑った。


「わりーな。工房じゃねぇから本格的なもんは作れねぇ。ほとんど工作だ。……でもな、素材を全部使っちまった詫びに、ほれ、ないよりマシだろ?」


 ラッツの前に、小さな短剣が差し出された。


「えっ、これ……俺に!? やったー! これどうやって使うんすか!?」

「自爆」

「ぶふぁぁぁぁぁ!!」


 ラッツはショックで白目を剥き、その場で気絶した。


「はっはは、うそうそ。これはだな――って、あれ? 本気で気絶してやがる」

 カイが首をかしげる。焚き火の向こうでガルドとモルティナは肩を落とし、ため息をついた。


ルナリア視点(幕間)


 ――夜の丘。

 銀髪のエルフ、ルナリアは、遠くスパルディアの城壁を見下ろしていた。


 光の中に映ったのは、ふかふかの椅子に寝そべり、マッサージを受けてだらけきった笑みを浮かべるリリアの姿。


 だがルナリアには、まったく違う光景に映っていた。


(ああ……拷問を受けても、笑顔で屈しないようにしてるのね。勇者を安心させるために……なんて健気で、尊いの……!)


 胸を押さえ、頬を赤らめる。


(痛みに耐えてまで笑顔を見せるなんて……聖女にしかできない芸当だわ。ああ、ますます好きになる……!)


 彼女の瞳は熱に潤み、吐息は恍惚として震えていた。


「リリア……必ず私が助ける。勇者なんかに頼らなくても、あなたには私がいるのよ……」


 その呟きと共に、彼女は夜の闇に溶けて消えた。

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