第3章 ep.18 最高傑作
工房に戻ったガルドは、まだ顔を赤くしたまま口をへの字に結んでいた。
砂浜で美女たちに囲まれてチャラ男化していた姿を、仲間たちにいじられ続けているのだ。
「……くそっ、思い出すだけでむかつく」
ガルドは拳を握りしめると、隅の床に転がるリリアを見やる。
そこには“しめられて”横たわるリリアの姿があった。
屍のように倒れながら、なぜか安らかな笑みを浮かべている。
「姉御……完全にやられてるっすね」
ラッツは呆れたように肩をすくめる。
「さーって、リフレッシュできたし、作業再開しますか!」
カイは炉に火を入れ直し、にやりと笑った。
「ガルドのクセも大分つかめたしな。インスピレーションが止まんねぇよ!」
「……ふんっ!」
ガルドは照れ隠しに鼻を鳴らす。
「剣を打つ前に一つ聞かせろ、ガルド」
カイは槌を構えたまま、真剣な瞳を向ける。
「お前は、何のために戦う?」
「そりゃ……魔王ぶっとばして――」
「建前はいい。質問が分かりづらかったか。……何で剣を握る?」
ガルドは言葉を失い、視線を落とした。
ふと、幼少期の記憶が胸をよぎる。
小さな体で木の枝を振り回し、息を切らしながら夢中になった日々。
剣を握ると、なぜか心が軽くなった。寂しさも、恐怖も、全部振り払えた。
「……ただ、剣が好きだから」
カイは一瞬、黙った。
やがて大きく頷き、笑った。
「だろうな! よし、分かったぜ。あとは任せな!」
炎が轟き、槌が唸る。
カイは寝ずに作業を続けた。
数日後。
工房の中央に、ついにその姿が現れた。
工房の炉が一際強く赤く燃え上がった。
カイは全身汗まみれになりながら、最後の槌を振り下ろす。
金床に轟音が響き、黒曜竜の牙から立ちのぼる黒炎が光へと変わった。
「……できた」
カイは槌を置き、深く息を吐いた。
そこに現れたのは――漆黒と深紅を宿した大剣。
刃は黒曜石のように闇を映し、その縁には炎のような赤が脈打つ。
まるで“闇に光が差し込む瞬間”を切り取ったかのような造形。
「名は――《残光大剣〈ソル・エクリプス〉》。
お前の技《残光連断》と、闇を斬り裂く日蝕の輝きを重ねた。勇者ガルドのための剣だ」
ガルドはゆっくりと柄を握った。
指が触れた瞬間、剣身の赤い紋様が眩く点滅し、光の波紋が工房を満たす。
重いのに、不思議と腕に馴染む。刃の重心が自然に体へ導かれる。
「……すげぇ。今までのどの剣とも違う。振るわなくても分かる……俺と一緒に戦う剣だ」
次に、カイは漆銀の盾を取り出した。
白銀よりも落ち着いた光沢、だが触れると芯から伝わるような堅牢さ。
表面には女神を象った意匠が刻まれ、盾の縁をなぞる光が守護の加護を思わせる。
「こっちは《聖盾〈アイギス・オブ・フェイス〉》。
アダマンタイトを基に鍛え上げた、絶対防御の盾だ。持ち主の“守る意志”が強ければ強いほど、輝きを増す」
モルティナは両手でそれを受け取る。
その瞬間、盾の女神紋が淡く光り、温かな気配が彼女の体を包んだ。
「……すごい。まるで守る力が、盾と一緒に心臓に流れ込んでくるみたい」
彼女の声は震えていたが、瞳は強く輝いていた。
ラッツは思わず身を乗り出す。
「カイさん! 俺の武器は!? どんな超カッコいいやつですか!?」
「……ほらよ」
カイが投げたのは、小さな子供用のナイフだった。
刃こぼれし、切れ味の欠片もない。
「……は?」
ラッツは固まった。
「冗談はいいですから! 本物くださいよ!」
「……ない」
「……え?」
「ないって言ってんだよ! 剣と盾に没頭してたら、素材を全部使っちまったんだ!」
「っへ……噓でしょ……噓って言ってよ……」
ラッツの瞳から光が消え、口から泡がぶくぶく溢れる。
その時、工房の天井から光が降り注ぎ、女神の声が響いた。
『勇者ガルド……四天王バルゴラスが侵略を拡大しています! これ以上は危険。至急迎撃してください!』
「ひぃぃぃーっ! バルゴラス!? くわばらくわばらっ!」
リリアが青ざめて頭を抱えた。
「……試し斬りには丁度いい」
ガルドは《ソル・エクリプス》を肩に担ぎ、鋭い光を瞳に宿した。
「うん……私も《アイギス・オブ・フェイス》で絶対に守る!」
モルティナは盾を掲げる。
「お、俺の……武器……」
ラッツは白目を剥いたまま、情けない声を漏らすのだった。




